モデル「たけし」による
クロッキー鑑賞手引き

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今回のクロッキー会のことで、お話させていただきます。

先月、足を怪我しました。全治3ヶ月。ギプスは今月末まで、と診断され悩みました。
今月モデルをさせていただくお話は、以前より決まっていましたので。しかし、ギプ
スは問題ない、という福地さんのお言葉で、今回の参加を決心でき、そして、寝ポー
ズと座りポーズを中心に、テーマを考えました。

今回のテーマは、以下の3つでした。
(実際のポーズ数と作品数が一致しないのは、選定作業の過程によるものと聞いてお
ります)

1.3分×7 & 3分×7 (1〜12枚目)
 
シェーンベルク作曲「ワルソー(ワルシャワ)の生き残り」
 この曲は、シェーンベルク(20世紀の作曲家。現代音楽の先駆的な役割を担っ
た。ユダヤ人であり戦時中アメリカに亡命)が、ワルシャワのユダヤ人収容所をテー
マに作曲した、朗読と合唱と管弦楽による作品です。
 曲の主人公は、ある朝、1列に並ばされ片端から殴り殺され(かけ)、死体置き場
へ運ばれる。そこで、ガス室に送り込まれる人々の最後の声、ヘブライ語の聖歌を耳
にする。その後、彼は何処からか下水溝へ潜り込み、生き延びる。
 しかし、彼はこの間の出来事を、聖歌が歌い始められたとき以外をほとんど思い出
すことが出来ない、のだった。

 前半の7ポーズは、殴り倒されてから死体置き場に捨てられるまでを。後半の7
ポーズは、聖歌の声に目覚めた主人公が本能的に下水溝へ逃れていく様子を表しまし
た。
(ここでのポーズは、ほとんどが混沌とした意識の中で進んでおります。その中で、
聖歌に目覚めるシーンと祈るシーンのみ、主人公の意思が表れています。その2枚
と、他の作品の雰囲気を比較すると、また興味深く見ることができると思います)

2.2分×10 (13〜19枚目)
 イカロス伝説を題材にしました。
 空を見上げて、あの空を飛びたいと思ったイカロスが、翼を身に着け舞い上がる。
そして、更に高みへと昇ったところを、神の怒りか、羽を貼り付けていた蝋が太陽の
熱で溶け出し、墜落死する。(神話では、脱獄の為に飛ぶのでしたが)
 特に、落下するときの恐怖も、感じながら表現することにチャレンジしました。

 当初は、9ポーズで、死ぬところまでを想定していましたが、10ポーズ目もある
とのこと。急遽、「全ては夢だった。最後に夢から醒めて、あらためてイカロスは空
を見上げる」という設定にしました。
 10ポーズ目は、空を飛んだこと(夢だったけど)、最高の気持ち、恐怖、でも実
際に飛べるわけはないこと、そして、蝋で翼を付けてはいかんよなあ、と思った
り…、といろいろと考えていました。
(空を飛ぶ浮遊感、落下するときの臨場感をご覧ください。また、13枚目と19枚
目は共に空を見上げるポーズであり、形としては全く同じポーズをとっています。主
人公の精神状態の違いにより、全く違う作品になっているところが、モデルとしても
興味深いです)

3.2分×9 (20〜23枚目)
 抵抗
 前回6月の会で拳闘試合に出場した(設定の)主人公が、3ヶ月ぶりに闘技場に
戻ってきました。
 しかし、今回の彼は足を怪我しており、とても勝ち目はない。でも負ければ、待っ
ているのは「死」。必死になって、なりふり構わず抵抗するしかない。
 という設定のみで、このコマはスタートしました。しかし、必死になって相手にか
じりついていったところ、途中から(空想上の)相手が逃げ腰になり、最後の数ポー
ズは追いかけ、そして、追い詰めていました(当初の設定とは全く違う流れとなりま
した)。
 
以上の内容で、ポーズをさせていただきました。

今回の私は、途中で主人公になりきってしまい、勝手にその世界に入っていました。
その中で、描き手さんの存在は私の前からは消えていき、前回のポイントだった「描
き手さんの雰囲気を捉える」ということを、行いませんでした。これは、Fの雰囲気
が、前回(6月)とメンバーの半数が異なるにもかかわらず、ほとんど同じだったこ
とによるのかもしれません。そのため、安心して、主人公の世界に入ってしまったの
だと思います。

但し、1つだけ、描き手さんと私の世界をつないでいたものがあります。
それは、紙を走る筆の音。
この音が聞こえていると、とても安心しました。もしかすると、そのことにより、今
回も、描き手さんの雰囲気を捉えていたのかもしれません。

今回は、自分の予定と違う流れになったり、また主人公の気持ちがポーズ中に変わっ
たり、とポーズの途中で予想外のことがいくつかありました。でも、それが、何かの
「力」として描き手さんに届いていれば良いな、と思います。
会場で、描き手さんの作品を見せていただきましたが、それぞれの個性を発揮され
て、一人一人が、いろいろな形で受信してくださっていました。感謝の気持ちでいっ
ぱいです。

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