クロッキーF美術館コレクション vol.2009 Sep 30

28 pictures
A3 (420 x 297, thin paper)

画 材: 鉛筆、A3上質紙
時 間: 3分、2分
モデル: 
ぽにょ(Yさん)

note
 今回のクロッキーを描く前に、『目以外の感覚器官による刺激(音、香り、味、平衡感覚、皮膚感覚など)を表現する』講座を開いた。受講者が少なく私も一緒に描いた。その中で次の2点を発見した。

(1)私は平衡感覚(回転、傾き、重力)を多用している。三次元空間におけるモデルの動きを感じ、それを表現している。私の作品の中に数多く見られる自在な線は、モデルの動きがつくる空間の歪み(あるいは、動こうとする意志)を表すために、私の脳と鉛筆を握る筋肉を直結させることから生まれたものだった。これらは比較的うまく描けている場合が多い。その反面、動きとは関係ないポーズ(や部分)でも『平衡感覚』に頼り、失敗するケースが多々ある。

(2)味覚や嗅覚による表現が必要なことは知ってたし、モデルを前にしてそれらを使って感じることはできていたが、画面に表現できるレベルではない。次から、今回の講座で見つけた新しい線を使いたい。

 これらの反省点から、今回のクロッキーは嗅覚だけを使って描くように心掛けた。その結果として、これまでのタッチとはかなり違う表現ができたと思う。また、自分でも気づかないうちに味覚を取り入れていたが、それは嗅覚と味覚が同じ水溶性成分を感じること、飲食のときに同時に感じる感覚であることが原因であろう。

 描き始めは、3Bの鉛筆1本だけを使ったが、しだいに5Bや7Bを使うようになった。8B以上の濃い鉛筆や平鉛筆(鉛筆の芯)を使うことはなかった。これらは、デリケートな感覚を潰してしまうように感じたのかも知れない。HBの鉛筆は薄すぎて匂いの表現には適さないように感じた。

 描いている途中に驚いたことは、嗅覚を使って描いても、最終的に得られる形態はこれまでの表現と大差がないことだ。私自身がそうだから、多くの人は今回のクロッキーを見ても他との違いを感じないかもしれない。しかし、私は間違いなく嗅覚を使っている。

 誤解を招く大きな原因は、描画中の画面を見ながら、画面を見やすくするための決定的な線(太く濃い線が多い)を入れたからだろう。それは何も感じていない線であり、いわゆる計算された線だ(鑑賞者の多くは、このような計算された線を見て楽しんでいるだろうと思うことも大発見の1つだった)

 以上はアトリエに帰ってから、今日の作品を見ずに現場を振り返ったものである。次に、実際の作品を見ながら考察しようとしたが、作品レベルが低いので不可能だった。まずは描くこと、しばらくこの方法を続ける必要がある。

 なお、今回のモデルは偶然にも気品を感じる女性だったので、テーマを追求するのに最適だった。ただし、全体から漂うものを表現しようとしたのは最初の数枚で、それらは廃棄寸前の甘い表現になっている。モデルに漂う上質な香りは、部分や細部の集積から得られることは分かっているが、時間的制約をもつクロッキーでは特別な方法が必要になる。

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