クロッキー F 美術館

第1章 クロッキーの描き方(基礎)
30秒で描く

1 30秒で何を描くか
 時間が短くなると「描けない、描けない」と言う人がいます。確かに、短時間で『本物そっくり』に描くことは難しく、熟練したデッサン技術を要します。では、30秒で線が1本も描けないかというと、・・・描けます。『本物そっくり』でないものが描けます。私が描くものは『本物以上』です。そして、その方法は・・・未知です。デッサンの理論や技術はすでに確立していますが、クロッキーの技術や方法は1枚毎に違うものであり、作家の人生と同じように発展していくものです。それ以前に、クロッキーで何を描くか!? 30秒で何を描くか? 30秒と1分と3分の違いは何か? 違いはあるのか? を考えてみましょう。

2 30秒だからこそ、描くより見る
 2、3分あれば、ある程度『本物らしい形態』を描くことができます。手を素早く動かせば、そこそこの量が描けます。しかし、30秒で描ける量は限られているので、『本物らしい形態』の追求は無理です。そこで重要なのは、『らしさ』ではない何か。いよいよクロッキーの本質に迫るテーマです。描くより、見る。何を見るか!・・・これは描くことより難問ですが、幸いにして、私たちの目の前にはモデルがいます。じっくり見てみましょう。自分自身を見つめるより簡単です。

3 肉体の限界に挑戦するモデルを描く
 作家に30秒ポーズを要求されたモデルは、「1分ではできないポーズをしよう」と考えます。初めは、肉体の限界に近い、大きな筋力を使うものやバランスが難しいポーズを試みます。作家は、限界に近い肉体を表現しようとしますが、肉体そのものを描くことはできません。筋肉1つ描くだけで精一杯でしょう。作家は、モデルが肉体の限界に挑戦していること、そのこと自体を描くべきです。

4 精神を集中させるモデルを描く
 肉体の限界性を感じ、肉体的に疲労したモデルは、次に『精神のポーズ』を考えます。高いレベルで精神を統一し、形をもったエネルギーを作ります。作家は、肉体(ポーズ)に左右されない、モデルの精神を描きましょう。ポーズは変わっても、表現している内容はほぼ同じです。モデルの精神をよく観察すると、ゆるやかに動き、やがて疲れ、そして、劇的に変化したり、前と同じように動いたりします。

5 希有けうなモデル
 このような高い精神状態を知り、その高いエネルギー状態を維持できる人はたくさんいません。『30秒ポーズができるモデル』は限られています。あなたが30秒ポーズをお願いできるモデルに出会ったなら、その幸運を逃さないように、しっかり描きとめて下さい。

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上の3点:モデル中西の世界クロッキーF美術館コレクション 2008 Dec 7
 私は、彼が何かを捕えようとし、そして、何かを固定したかのように見た。それは私が知らない『気』、相手に影響を与えるもの、人が作るもの、具体的なエネルギーや形や勢いや色を持っているものだった。それは、見える人には見え、見えない人には見えない、とても単純なものだ。あなたには見えるだろうか。

6 モデルしほの世界
 現在HPに掲載している最も古いクロッキーの中に、モデルしほを描いたものがあります。舞台女優の彼女は、1分未満のクロッキーを連続できる数少ないモデルの1人でした。以下は1999年5月7日のクロッキーですが、この日はタイマーを20分にセットし、私が1枚描き終えたら次のポーズをする、というものでした。記録によると実動80分で150ポーズ以上描いていますが、私はこの現場の雰囲気を今でも鮮明に覚えています。

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上の3点:モデルしほの世界
 2時間で150枚以上。モデルさんも150ポーズ以上。特に、第1セットは激しい。私が描き終えると同時に「お願いします」と合図した。休憩になって、モデルさんが「息ができなかった」と言う。なるほど、私も十分に酸素がとれていないようである。数えると49枚(ポーズ)だった。25秒/枚の計算になる。こんな事をしたのは、私達以外に誰もいないからで、それから人が増えてペースが緩くなった。 (
クロッキー作品群1999 May 07から)

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上の4点:モデルしほの世界2 (クロッキー作品群2001 Sep 27から)


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2010年3月30日公開

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