クロッキー F 美術館

第1章 クロッキーの描き方(基礎)
画材を感じる

─ クロッキーをはじめる前に ─

 画材を手に取り、画材がもつ個性を感じてみましょう。大きさ、重さ(質量)、質感、色、触った感じなどを確かめてみましょう。十分に確かめたら、実際に描いて下さい。あなたの手から、さまざまな線、面、表情、意味、思想、アイデア、空想の世界が生まれていくことでしょう。いつもと同じ画材でも、毎日、あなたと同じように表情を変えるはずです。

 しかし、どれだけ工夫しても画材があなたに語りかけることがなかったら、今日は基本に忠実に描くことにしましょう。その画材はさっさと道具箱にしまって下さい。出番は明日かも知れないので、今日はそっとしておきましょう。そして、他の画材を取り出して、同じように触れあって下さい。

 もし、どれだけ画材を出してもダメなら、その日はろくな絵は描けないでしょう。全く違う活動に変えるべきです。無理して描いても意味はありません。画材と仲良くならなければ、いけません。それでも頑張りたいなら、今日は1日『画材に選ばれた描き手』として、無理せずゆっくり描いて下さい。

確認する点
1 あなたがイメージする方向、太さ、勢い、表情を持った線が画面に定着しているか

2 画材の表現の幅
(1) 線の太さ(幅)
(2) 線の濃さ(濃淡)
(3) 角度を変えたときの変化
(4) 速さを変えたときの変化
 ※ 「消し具」といわれる画材についても同様。
  ただし、最小濃度(どんなに優れた消し具でも、初めの状態には戻せない)

3 画材の特徴がもっとも良く出る描き方

4 画材の限界性
(1) どれだけの圧力に耐えられる(折れたり破れたりしない)か

 とはいうものの、画材についてそれほど深く研究する必要はない。どんなに頑張って研究しても、科学的に研究し尽くせることはないし、あなたの筋力や筋肉をコントロールする能力は年齢とともに変化するし、あなたの嗜好や生活環境も変わる。また、商魂たくましい画材屋によって新製品がぞくぞくと登場するので、画材の組み合わせは複雑になるばかりである。だから、あなたが好奇心を失わない限り、画材の研究に膨大な時間を費やすことは無意味だ。

 それよりも「モデルを見て描きたい」という欲求を持続させるために画材を利用しよう。ちょっと画材を変えるだけで、まるで新しい洋服を着た少女のように心踊れば、もうそれで十分だ。実際の現場では、「描こうとする線の方向、筆圧、太さ、速さ」をイメージできれば準備完了! クロッキーが始る前の10分間で、「画材の限界」と「画材が喜ぶ範囲」を確認すればよい。

 これだけの準備で、1回数時間のクロッキーは新鮮な発見と失敗の連続になるだろう。

 また、複数の画材の組み合わせを試すことも楽しいが、僅かな工夫を加えただけでも画面は劇的に変化するし、それを作品として定着させるためには数回のクロッキーが必要になる。

2005 sep 29公開

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