クロッキー F 美術館

第2章 本物そっくりのデッサン
描 く = 消 す

1 完成時の分量を境にして
 長時間デッサン最大の特徴の1つは、消し具を存分に使えることです。画面に残る最終的な鉛筆の量を100とすると、100描いて終わるより、少し余分に描いては消す、描いては消す、という作業を繰り返す方が完成度が高くなります。完成時の鉛筆量を中心にして、『描く行為』と『消す行為』は等しくなります。

2 デッサンの当たり線
 デッサンの描きはじめは、いつでも消せる線(当たり線)でおよその位置を決めます。1つの位置を決める線は1本で十分です。何本も描くとそれらしく見えてきますが、曖昧になるだけです。この当たり線は、最終的に消える運命にありますが、上手く進んでいる場合は最終的に、モチーフか背景の一部として吸収されます。消さなくても良い当たり線になるように気合いを入れて位置決めをする方が早く上達します。

3 明暗の差を大きくする
 位置が決まったら、明暗の差を大きくしていきます。暗い部分は暗く、明るい部分は明るくします。暗い部分を描く時は、鉛筆を重ねるだけでなく、消しゴムで描くように消してから線を重ねましょう。その作業を繰り返すことで、深みと変化が生まれます。明るい部分を描く時も同じですが、よく尖った鉛筆の方が上手くいきます。いずれの場合も、紙を傷めないように、紙の繊維、表面の微妙な凹凸を大切にして下さい。

4 練り消しゴムで描く
 練り消しゴムを鉛筆の芯先のように整え、黒くなった紙面に白い線を描くように使います。消しゴムはすぐに汚れてしまうので、たくさんの面積を描くことは大変ですが、面白い効果が得られます。プラスチック消しゴムを使う場合は、表面が黒くなっらすぐに他の紙で白くする習慣をつけましょう。さもないと、紙が黒ずんでいしまいます。カッターナイフで削り、綺麗にしたり形を整えたりする人もいます。

5 油絵の具の特性を活かした作業
 油絵の場合、絵具をキャンバスから落とす作業は基本です。拭き取る、削る、消すなど、失敗した部分を拭き取ってから描き直すことは、日常茶飯事です。新たに描き加えなくても、削り取った下から、自然に浮き出てくることもあります。後から削ることを前提に、絵具を重ねていくこともあります。絵具を取るためのペインティングナイフが何種類も用意されているのは、まさに描くためです。油彩画において、描く作業と消す作業は等価です。

6 創造するための破壊
 経済学で生まれた『創造的破壊』という言葉は、絵画にも当てはめることができます。絵画制作で行き詰まったとき、これまでの画面を壊す(消す)ことで、これまでとは違う新しいものを造るのです。そのためには、画面で最重要なもの、唯一上手く進んでいると思われるもの、人物なら顔を破壊しなければいけません。さもなければ、創造ではなく、ただの修正です。

右図:このクロッキーでは顔の位置を画面縦の長さに対して5%ほど下げました。お陰で、顔が黒くなり、腕の形がおかしくなりましたが、上半身については私の狙いが達成されました。
F美術館コレクション vol.2010 april 11から)

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7 クロッキーにおける『消す』行為
 短時間のクロッキーでは消す時間がないので、とても太い線を入れたり、画面を塗りつぶすような不器用なタッチを重ねたりします。あるいは、別な紙に描き直します。3分ポーズで2分使ってしまった場合でも決断します。残り1分でも大丈夫です。残り時間が短いほど、集中力と爆発力は高くなり、魅力的な作品になることが多いものです。初めの2分は、新しい1分のために必要なものだったのです。ゴミ箱に捨てることは、新しいものを作ることと等価です。もっと激しい場合は、線を1本描いては次の紙、また1本で次、ということを数回繰り返します。

右図:休息なしで一貫したイメージで描き上げた30分クロッキー。少なくとも3回は描き直しています。
1103mm x803mm
charcoal pencil
liquitex
クロッキー作品群2001 Oct 10から)

2010年4月12日公開

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