クロッキー F 美術館

第5章 クロッキー心理学
気分から感情へ、そして表現

1 さあ、今日はクロッキーだ!
 良いクロッキーをするためには、心の準備が必要です。作家とモデルは、それぞれ楽しい気分やわくわく気分を持って出会うようにしましょう。そして、モデルは前向きな感情を持ってポーズをとり、作家も同じように上向きな感情を持ってモデルを描きます。さて、このページでは、気分と感情を区別しますが、感情は気分が1つの方向を持って発達した、「1つの言葉」で置き換えられる心の状態です。気分も感情も、それぞれいくつかの段階があり、自分でコントロールして良い方向に高めていくことができるものとして考えます。

図1 気分と感情と表現の関係

気 分
(感情の前段階)
感 情
(上向きと下向きがある)
表 現
モデル:ポーズ
作 家:描 画

2 クロッキー前の気分をコントロールする
 気分は未分化で言葉で置き換えることができない心の状態です。もっとも単純な気分は興奮で、どきどきという胸の鼓動、どきどき感です。この興奮は、期日が迫ったり準備を始めたりすると、期待と不安という相反する心が混ざった状態に発展します。このとき、自分で気分をコントロールし、前向きな『期待感』を高め、後ろ向きな『不安感』を低くします。準備をしっかりしたり、正確な情報を入手したりすると良いでしょう。努力すれば、不安は少しずつ減るものです。

図2 気分(感情の前段階)の発達

興 奮

どきどき

期待と不安
(相反する感情が入り交じっている)

3 作家とモデルの出会い
 初対面でなくても、作家とモデルの出会いには『期待と不安』があります。お互いに顔を合わせた時、言葉を交わした時、クロッキーを始めた時、それぞれの段階で曖昧だった気分が明確な感情になっていきます。『不安』を排除し、『期待』を膨らませるよう、自分をコントロールして下さい。次に、作家とモデルの協力によってより良いものを作っていきましょう。よい関係を作ることができるモデルと作家は、何度もクロッキーを重ねますが、その場合、『期待感』よりも原始的な興奮、どきどき感が生まれるようにすることが大切です。不安を感じるほどのチャレンジ、具体的な工夫をしましょう。これは結婚生活の長い夫婦にも当てはまります。モデルはポーズや小道具を、作家は画材を研究するのがもっとも簡単な方法です。

図3 出会いによって、気分から生まる感情

気 分

作家とモデルの出会い
発 見
驚 き

感 情

(感情の前段階)
上(前)向き
下(後)向き

4 2つ方向性をもった感情
 曖昧だった気分は、2つの方向に分かれて発達します。上向きな気分は「面白い」、下向きな気分「つまらない」という単純な感情になります。面白いという単純な感情は、自分自身に対する喜び、充実、希望、自己賞賛、向上心、連帯感へと発達し、さらに、相手に対する感謝、信頼、賞賛、尊敬など、より高いレベルの人間的な感情へと発展していきます。

図4 2つの方向を持った感情の発達

上向き → 面白い! → 喜 び
充 実
希 望
自己賞賛
向上心
連帯感

感 謝
親密感
信 頼
信 用
賞 賛
尊敬(敬愛)
自分自身
に対する感情
相手(モデル、あるいは、作家)
に対する感情
下向き → つまらない! → 悲しみ
虚しさ
諦 め
自己嫌悪
罪悪感
後 悔
疎外感(孤独)
失 望
怒 り
不信感
恨 み
見下し
ねたみ
嫉 妬

5 上向きの感情を使ったクロッキー
 上向きの感情ができたら、その気持ちに乗ってポーズしたり描いたりしましょう。モデルと作家の気持ちはリンクします。両者によるクロッキー活動は、協力関係にあるので、歓びを感じます。これは理想的なクロッキー状態です。描かれた作品は、上(前)向きの感情に基づいているので、鑑賞者は豊かな気持ちになれます。気分、感情、気持ちは主観的なものですが、モデルと作家によってコントロールされたものであり、努力と技術によって作られたものです。その結果としてのクロッキー作品は、普遍的な感情を持つと考えることができます。

表5 上向きの感情を使った主観的クロッキー

上向きの感情

→ 感情を利用する
ポーズする歓び(モデル)
描く歓び(作家)
表現方法
(感情の使い方)

喜 び
充 実
希 望
自己賞賛
向上心
連帯感
感 謝
親密感
信 頼
信 用
賞 賛
尊敬(敬愛)
畏 れ
主観的
クロッキー

6 下向きな気分は、客観的デッサンのチャンス!
 下(後)向きな気分を排除できないとき、すなわち、前向きな感情を作れないときは、一切の感情を排除しましょう。これは、前向きな考え方です。自分の感情を使わずにクロッキーすることは、本物そっくりのデッサンにつながります。積極的に自分の心の動きを止めることは、心の動きを感じるための基礎・基本です。あえて行う必要はありませんが、自分の力ではどうにもならないとき、自分の努力と技術の限界を感じた時、客観的デッサンに努めることは良いことです。有り難いチャンスを頂いたと考え、前向きに自分の感情や主観を排除した客観的なデッサンをしましょう。自分の心をコントロールする訓練です。

表6 下向きの感情を排除した客観的デッサン

下向きの感情

→ 感情を排除する
感情の排除(作 家)
感情の排除(モデル)
表現方法
(感情の使い方)
悲しみ
虚しさ
諦 め
自己嫌悪
罪悪感
後 悔
疎外感(孤独)
失 望
怒 り
不信感
恨 み
見下し
ねたみ
嫉 妬
客観的
デッサン

7 まとめ
 これまでの1〜6をまとめると、次のようになります。

表7 気分が発達した感情を使う2つの方法

気 分
(感情の前段階)

作 家
モデルを見る

作家とモデルの出会い
発見
驚き


モデル
ポーズをする

2つに

分かれる

感 情
(気分が発達したもの)

それぞれ
発達する

表現行動
(感情の使い方)

興 奮

どきどき

期待と不安

相反する感情が入り交じっている
上向き
面白い!

描く歓び
歓 び
充 実
希 望
自己賞賛
向上心
連帯感
ポーズする歓び
感 謝
親密感
信 頼
信 用
賞 賛
尊敬(敬愛)
畏 れ
感情を利用した
主観的
クロッキー

気分の方向が決まり、それぞれ発達する.

.自分に対して

相手に対して
.作家の描くという行為
(感情の表現)
下向き
つまらない!

悲しみ
虚しさ
孤 独
諦 め
疎外感
自己嫌悪
罪悪感
後 悔
失 望
怒 り
不 信
猜疑心
恨 み
見下し
ねたみ
嫉 妬
気分と感情を
排除した客観的
デッサン

8 注 意
 気分や感情はコントロール(方向転換、増加・減少など)できますが、コントロールし過ぎると、他の感情に影響を与えて不感症になったり精神の病になるので注意して下さい。素直な自分の気持ちを大切にしましょう。クロッキーしたくてもできないときは、諦めることが大切です。何度も繰り返してはいけませんが、時には『負の行動』をして自分の心のバランスを保ちながら、少しずつコントロール能力、技術を高めていきましょう。

2010年4月29日公開

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