クロッキー F 美術館

第4章 Fのクロッキー技法 

下着を描く

1 下着って何?
 下着は、素肌の上に直接着用するもので、他人に見せることを目的としないものです。したがって、下着を描くことは通常ありません。

2 下着姿とフルヌードの共通点
 友達の家へ遊びにいった時、芸術作品を見つけることはよくありますが、下着姿やフルヌードの絵画を見つけることほどんどありません。下着姿とフルヌードは、他人に見せないものとして、日本の一般社会ではほぼ同レベルです。日常生活で見ることありません。したがって、クロッキーを非日常の世界としてとらえるなら、下着姿もフルヌードも同じように考えることができます。

3 下着を見せるためのものとして扱う
 ただし、作家とモデルがそれぞれ同じように注意すべきことは、フルヌードを前提条件として下着を使うことです。さもなければ、完成した作品を見る鑑賞者の興味関心は、モデルではなく下着になるでしょう。下着はモデルを引き立てるためのもの、より良く見せるためのアクセサリーの1つとして扱って下さい。

4 フルヌードより時間はかかるけれど、描きやすい
 下着をつけたモデルを描くことは、フルヌードより時間がかります。下着の質感や量感を表現しなければいけないからです。その一方、素肌とは異なるものは、画面に変化を与えるので、作品として成立しやすくなります。描く時には、ポイントを決めるヒントになるので、正確な形をとりやすくなります。

右図:下着をつけたクロッキー
クロッキーF美術館コレクション vol.2009 Dec 7から)芸術作品を作ることが目的でも、フルヌードを描くことは特別です。

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5 だんだん脱いでいく
 一般的な常識からすれば、だんだん脱いでいくモデルを描くことは性的な想像力をかきたてられるように感じますが、現場でそのような意識は働きません。短時間のクロッキーでは、かなり忙しい作業になります。忙しいという文字どおり『心を亡くす』ほど頑張って描きます。下着とモデルはほぼ等価なものとして、いずれも手を抜くことなく描き進めます。中途半端な脱ぎ方ほど、正確なデッサン力が求められるので、自分の感情や主観を排除する必要に迫られるからです。
 
6 大胆なポーズをするための下着
 下着を着用することで、大胆なポーズができるとすれば、それは十分な価値があるでしょう。フルヌードで下手な処理をするより、ハッキリと下着であることを描いた方が、鑑賞者も納得し満足するでしょう。

右図:ショーツをつけたポーズ
(美術館コレクションの
nude photograph彩海『初号機』から

コスチュームに関するnote:2009nov08
 例えば薄いショーツを着用することによって股間を開くような大胆なポーズ、もちろん、股間を開くことが目的ではないが、局部の開放を気にしないようなポーズ、例えばストレッチや新体操のようなポーズもとれるようになるなら、それは有効な手段であると言える。

7 下着の準備
 モデルにとって、事前に準備するものが1つ余分に増えることは大変です。しかし、2で述べたように、作家にとって下着を描くことは目的ではありません。それは、通過点であり、アクセントであり、描くためのきっかけです。モデルも同じように考えれば、普段着のままで、ありのままで良いと思います。私の場合、モデルに下着を含む着衣のポーズを要求するのは、いつも突然です。その理由は、別ページ『日記としてのクロッキー』で詳しく述べますが、クロッキーを日記として扱おうしているからです。特別なことはしない、日常の延長線上にあるクロッキーです。

8 ランジェリーが好きな女性モデルの思い出
 私から事前に下着を要求したことは、15年ほど前に1度だけあります。彼女は下着が大好きで、豊富なコレクションを持っていました。数カ月に1回のペースでモデルをお願いしていたのですが、いつもクロッキーが始まる前に「先生、これ見て!」と、私だけに下着を見せてくれました。ある日、私はついに自分から「次は、下着をたくさん持って来てポーズして下さい」と頼みましたが、結局のところ「今日も忘れてしまった」ということで、一度も彼女の下着姿を描いたことはありませんでした。

2010年5月23日公開

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