クロッキー F 美術館

デフォルメ

1 デフォルメとは
 モデルや対象の特徴を引き出すために変形・歪曲(わいきょく)することをデフォルメといい、変形をデフォルマシオンといいます。いずれもフランス語です。

2 私のデフォルメ
 私のクロッキーは大きくデフォルメしているように見えますが、自分では全く意識しません。モデルを見て「何かを描きたい」、と思うこと自体がデフォルメだからです。何かを感じることが、すでにデフォルマシオンです。モデルが表現しようとするものと、作家が表現しようとするものが、完全に一致することはほとんどありませんからね。この考え方は、カメラで撮影する時も同じです。私は、いつもデフォルメして撮影します。

 同じことを繰り返すと、私が描きたいという欲求によって描いたものは、すべてデフォルメされています。私の感情や感性や心が動かないものは、デフォルマシオンされていません。

右図:画面に入れようとした結果として変型したもの
 私はモデルの形態を変型させることは好まないが、『画面に入れる』という行為には興味を持っている。その結果として、『無意識のうちに少しだけ変形させていた』と思う。次回は、もう少し意識的に描きたいものを画面に入れてみよう。
クロッキーF美術館コレクション vol.2007 may 8noteから)

3 デフォルメの分類
 一般に、デフォルメは『誇張』と『省略』に分類されますが、ここでは、もう少し細かく分類してみましょう。この分類方法も、私のデフォルマシオンということができます。

(1) 拡大(誇張)
 気になる部分は、細部まで見てしまうので、自然に大きく描いてしまいます。だから、『誇張』というより、『自然な拡大』というほうが適切でしょう。見たいものを見て、描きたいものを描くのは、基本中の基本です。

 これは正確なデッサンをするとき、モチーフらしさを出すために行なう『僅かなデフォルメ』とは大きく異なります。マンガや似顔絵を描く時のデフォルマシオンとも違います。

(2) 省略
 数分間のクロッキーでは、全てを描くことはできません。描きたいものさえ十分に描く時間がないことがほとんどです。したがって、意図的に省略することは、ほどんとありません。たまに、計算して省略したり、書き込み過ぎないようにすることはありますが、そのような時は失敗していることが多いです。

(3) 変型
 制約された時間だったり、私の手の勢いだったり、原因はいろいろありますが、結果として変型されてしまいます。いずれも、計算して変型させることはありません。描きたいものを時間いっぱい描く、それだけです。

(4) 画面に入れるためのデフォルメ
 画面一杯に入れたい場合、初めに、画面一杯に描きます。そして、バランスを取りながら細部を描き込んでいきます。この場合は、画面一杯に入れることが私の欲求なので、細部は関係ありません。大きな動き、バランス、勢いを描きたいのです。細部の描き込みは、画面一杯に入っていることを見せるために、少しお化粧しているようなものです。

(5) 過去のイメージに合わせるためのデフォルメ
 無意識に、過去に見たり描いたりしたことがあるものに合わせてしまうことがあります。これも意図的ではありません。描いている途中に、潜在意識の中で過去のイメージを追ってしまっただけです。このようなデフォルメは、自分で意識した途端に大失敗となり、作品を握りつぶすことになります。

(6) シンボルマーク
 どこかで見たことがあるような形、シンボルマークになってしまうことがあります。これも、私の記憶の中にあったものが出現したものです。

(7) 自分の手の記憶や癖によるデフォルメ
 これは技術的な問題です。私の意識とは無関係に、私の手が動くときに起こります。私が、もっと勉強すれば、手は自由に動くようなり、不必要なデフォルメから開放させるでしょう。だから、もっともっと勉強する必要があります。そして、私の意識とは無関係に動く、いわゆる『神を感じさせる手』になってくれることもあるでしょう。

4 似顔絵は、デフォルメではない
 似顔絵は、デフォルメというより『似せるための細かい技術の集積』というべきです。それでもデフォルメという言葉を使いたいなら、誇張や強調というデフォルメ、というべきです。

2007 nov 25

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