第１章 クロッキーの描き方（基礎）
モデルを見る方法１ 見ることは、描くことより大切
モデルに対する見方を変えれば、全てが変わります。全ては作家の見る目、見る力、見る技術、見る心によって決まります。どんなに素晴らしいポーズでも、見る目がなければ台無しです。初心者は『描く技術』にばかりに気をとられますが、それより『見る技術』の方が大切です。中学校の美術の２つの柱は、表現と鑑賞です。モデルを見ることは、いろいろな作品の魅力、自分の作品の良し悪し、自分のこれからの方向を感じたり見分けたりすることに繋がっていきます。２ クロッキーは、モデルの見方が自由
クロッキーには「これだ！」というモデルの見方がありません。十人十色じゅうにんといろ、10人作家がいれば10通りの見方があります。その一方、本物そっくりに描くデッサンは、モデルの見方にも明確な方法とルールがあります。もちろん、デッサン的な見方は複数あり、それらを組み合わせることで正確性を高めます。私はクロッキーは自由な見方だけで描かれているように見えますが、実は全ての作品にデッサン的な見方が含まれています。クロッキーは『複数のデッサン的見方の断片の集積』である、と考えることもできます。３ １ポーズ毎に見方をかえる
クロッキーの醍醐味は、１ポーズ毎に見方を変えることにあります。モデルを良く見て下さい。同じポーズをしていますか、それとも違うポーズですか。あなたに心があれば、前と違う部分（ポーズ）に興味が湧き、そこを見るはずです。ほら、あなたが見ている場所が変わったでしょ！ モデルのポーズを観てあなたの心が動かすこと、それがクロッキーです。ただし、見方や考え方を変えたり心を動かしたりすることは、鉛筆をボールペンに持ち変えるより難しいことです。４ 見ることは感じること
見ることは感じることです。感じる方法はたくさんあります。外界（モデル）からの刺激の99％は目から入ってきますが、それを受け取って感じるのは心（大脳の働き）です。感じるためには、クロッキー以外の経験がものをいいます。良い音楽を聴き、たくさんの国を旅し、本を読み、多くの人と語り合った人の方がたくさん感じます。見ることは感じることであり、感じることは豊かな人生経験から生まれます。したがって、クロッキーを実際に描かなくても、豊かな人生を積み重ねている限り、クロッキー技術は高まっていきます。５ モデルが同じポーズを繰り返したら
万一、モデルが前と同じようなポーズをとった場合は、モデルの表情をよく観察しましょう。「しまった」と思っているか、「何も考えていないか」のどちかです。その心の内も描いてみましょう。クロッキーのポーズは毎回違います。あなたの方が忘れやすい性格なら、同じポーズでも毎回新鮮なクロッキーができるでしょう。そのポーズにあなたの心が反映されます。
６ クロッキー経験がない人のエッチな見方
私の経験から「エッチな見方は全くない」とは言えません。しかし、「良いクロッキーを描きたい」という欲望の方がはるかに強いので、事実上エッチな見方は全くありません。若いときは「モデルさんの裸を少し見ておけば良かった」、とクロッキー直後に後悔していたものです。今ではクロッキーを終えた着衣のモデルと話す時、「この人の裸はどうなっているのだろう」と不思議に思うことがあります。もちろん、着衣のクロッキーもたくさん描いたので、衣服に包まれた身体を正確に把握する能力を持っていますが、日常生活で使おうとは思いません。右図：みなさんに質問『この絵を見て何を感じますか？』 本当は、モデルを生で見て同じ質問をしたいのですが、もし、あなたがモデルに性欲を感じたなら、それは魅力的なクロッキーを描くチャンスです。本能という強い力を『芸術作品を生み出す力』に変えれば良いからです。このような前向きな方向転換を『昇華しょうか』といい、私は、いろいろな場面で昇華作業をします。４で述べた『豊かな人生を積み重ねるための技術』として、みなさんに昇華をお勧めします。それが人生を見る（捉えて活動する）方法です。
（クロッキーＦ美術館コレクション vol.2009 Jan 29から）. 左図：（クロッキーＦ美術館コレクション vol.2007 april 4から）
私は、初めの20分で満足していた。そして、次の20分で精力を出し切ってしまったようだった。後半は、すでに数時間描き続けた後のように疲労していた。もう１度、今日の初めに戻るように心掛けてみた。つまり、上手く画面に表現するよりも、初々しく見ることに専念してみた。この手法は、マンネリ化した日常生活を打開する時に、同じように使用できる。. 2010年3月19日公開