クロッキー F 美術館

第1章 クロッキーの描き方(基礎)
デッサンの集積としてのクロッキー

1 振り返ればデッサンがある
 私のクロッキーは自由奔放に描かれているように見えますが、それは『デッサンの集積』として理解できます。正確には、完全なデッサンはできないので『デッサンの断片』の集積、です。デッサンは、言葉で説明し理解できる科学的なもので、絵画を理解する上で重要です。2008年のクロッキー講座やクロッキーゼミ2010で、たくさんの時間をデッサンの学習に費やしていることもそれの証明です。デッサンの技法は、誰でも同じように観たり描いたり、学習したり他人の教えたり、何度でも繰り返しできるものです。私は自分のクロッキーに行き詰まった時、デッサンの知識に頼ります。それはいつでも一定の成果をもたらします。

2 いろいろなデッサンの見方
 デッサンの見方は、1つではありません。ざっと挙げるだけでも、モデルを『大きな塊かたまり』としてとらえる、身体の『重心』を探す、身体を円柱や球や直方体など『単純な立体』の組み合わせとして見る、身体各部をつらぬく『中心線』を探す、複雑な輪郭線を『直線』として見る、曲面しかない身体の表面を『平面』の組み合わせとしてとらえる、2つ面が接している『稜線りょうせん』を調べる、稜線によって『2つの面を明暗の調子で区別』する、複雑な明暗を『単純な調子の変化』として見る、モデルと『モデルを包む空間』を同じものとして見る、3次元空間を2次元空間として見る、重要な点どうしの『比例関係』を調べる、『回り込む面』に細心の注意を払う、透視図法の原則にしたがって見る、連続する『調子の変化』を見る、などがあります。

3 いろいろなデッサンの表現方法
 デッサンの表現方法も、1つではありません。重要なものとして、線のタッチは最終的に消える、すべてを明暗の変化(調子)として表現する、光をあてることによって見える『色、質感、雰囲気』を表現する、標準レンズで撮影した写真と区別できないものを目指す、などがあります。

4 クロッキーは、最適な見方と表現方法を選択する
 短時間で描写するクロッキーでは、デッサンの見方と表現を完全に行うことができません。場面に応じて『最適な方法を選択すること』が必要です。クロッキーは『選択することそのもの』である、といえます。クロッキーを『デッサンの断片の集積』として考えるなら、クロッキーは使いたい部分に『使いたい方法』を使い、最終的に1つの作品にまとめること、になります。

5 省略すること、途中でやめること
 この場合、『省略すること』と『途中でやめること』もクロッキーの重要な技法の1つです。時間を気にせず描く場合は別ですが、短時間のクロッキーでは、作家の意志によって止めるべきです。タイマーが鳴ったからお終い、モデルさんが限界に達したからお終い、というのは情けない話です。1ポーズ毎に適切な判断を行い、最適な見方と方法でクロッキーを進め、自らの判断でクロッキーを終了できるようにしましょう。

6 デッサンとクロッキーのどちらから始めるか
 よいクロッキーをするためには、たくさんのデッサンの見方と表現方法を知っている方が有利です。したがって、デッサンの勉強から始める方が良い、と考える人がいますが、私は反対です。最終目的がモデルをみながら本物そっくりの絵を描くことなら、デッサンから始めて下さい。しかし、描くことを楽しみたいなら、クロッキーから始めるべきです。全ての人間は誰でも描くことを好きな時期がありました。幼稚園に入るまでの乳幼児を見てご覧なさい。それを嫌いにさせてしまった原因は『他人を納得させようとする欲望』と『本物そっくりに描く技術』です。描く歓びを追求したいなら、クロッキーから始めましょう。そして、歓びの限界や技術的問題を感じたなら、それを解決するために必要なデッサンの勉強をして下さい。もう一度、あなたが何をしたいのか、じっくり考えてみましょう。

7 飽性な人にあったクロッキー
 私は1つに集中することより、1度にたくさんのことに取り組むことが得意です。そして、効率的で確立された手順にしたがって物事を進めるより、失敗しても良いから新しいものや楽しいものを求めます。クロッキーの現場でモデルを見たとき、本当にたくさんのことを感じます。このような私の性質を活かすものとして、クロッキーがあります。したがって、もし、あなたがじっくり取り組む着実で堅実なタイプなら、デッサンの勉強に比重をおいてクロッキーを楽むようにすると良いでしょう。

2010年3月20日公開

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