クロッキー F 美術館

第2章 本物そっくりのデッサン
点、空間への数学的アプローチ

1 数学における点と線
 数学における「点」と「線」の問題は難しく、それらを単純に定義することはできません。ほとんどの数学者は、それらが何であるかを決めないまま、図形について深く追求しています。このページでは、もっとも古典的で身近な問題について考えたユークリッド幾何学きかがく(古代エジプトの『ユークリッド』が編纂へんさんした身近な『図形』に関する学問)を噛み砕き、絵画に役立つことを取り出します。

2 点は、ある空間における「1つの位置」
 点は、ある空間における『1つの位置』である、として話しを進めます。線は連続した点の集まりですが、これについては別ページ『数学における線を考える』に譲り、このページでは空間と位置について考えます。

3 空間とは
 点は空間に存在します。その空間について、数学でたくさんの考え方がありますが、常識レベルで理解できそうなものは、「点」を0次元空間、「線」を1次元空間、「面」を2次元空間、「立体」を3次元空間、とするものです。これは大丈夫ですよね。私たちは3次元空間、3つの軸(縦、横、奥行き)をもっている空間で生活している考えるものです。これに対して絵画は2つの軸(縦、横)しか持っていないので「平面(2次元空間)」といいます。したがって、立体的なものをデッサンすることを『3次元空間を2次元空間に表現する』といいます。その他の空間に関する内容として、別ページ『4次元空間を描く』『異次元空間を描く』もご覧下さい。なお、空間認識については、別ページ『カメラに学ぶ空間処理』をご覧下さい。

4 3次元を2次元に描く
 数学的に3次元を2次元に描くことは不可能です。立体を平面に描くことは、平面を線に描くことと同じようにできません。したがって、本物そっくりの絵画は、いわゆる『だまし絵』の一種です。「本物そっくり」や「写真みたい(カメラに学ぶ空間の方法)」と言わせるための技術です。その方法のいくつかはすでに確立されているので、それを絵画の基礎技術、すなわち、デッサンとして学ぶことになります。その技法はすばらしい専門の書物がたくさん出版されています。

5 点には形も大きさもない
 当たり前のことですが、点には形がありません。点は「位置」を示すだけで、形や面積(大きさ)がありません。例えば、次の図の1〜10ののうち、どこまでを点と言えるでしょう。

 答えは、どんなに小さくても、ルーペで見れば面積があるので、上図に点はありません。そもそも、点の形が「丸」だと思っている人は間違いです。点は位置を示すだけで、形はありません。したがって、現実問題として、数学的な点を描くことは不可能です。どれだけ正確に位置だけを示そうとしても、その点は、鑑賞者の勝手な解釈を許してしまう点なのです。

6 鉛筆を使って、最小の点を描く
 鉛筆で描くことができる最小の点は、鉛筆の芯をつくっている1個の粒子です。しかし、それを顕微鏡で観察すれば、それが体積をもつ立体であることが判ります。そもそも、紙はでこぼこした表面を持つ薄っぺらな立体です。したがって、どんなにがんばっても、正確な位置を示すポイント(点)だけを記すことは不可能です。この理屈がわれば、多少の長さがある点、濃淡を感じる点があっても腹をたてなくてすみます。人間が描く点は、どんなにがんばっても数学的な点にはならないのです。

7 関連ぺージ
 ・ 数学における「線」を考える
 ・ 絵画の線を科学的に分析する
 ・ 4次元空間を描く
 ・ 異次元空間を描く
 ・ カメラに学ぶ空間処理
 ・ 生きた点で描く

2010年2月8日公開

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