クロッキー F 美術館

第3章 画材と道具の研究
墨 液

1 墨液の種類
 私が使ったことがある墨液は、市販価格260円(180ml)から3000円(100ml)までのものです。安価なものは小学校の書道の時間に使われるもの、高価なものは書家が使うものです。これらをいろいろな条件のもとで試してみると、安価なものは色に深みがなく、水で薄めると増々つまらない色になります。その一方、1000円以上のものは、水で薄めるだけで、少なくとも3つの階調が得られます。
 なお、私は固形の墨を擦って使用したことがありません。

2 墨の階調
 クロッキーの現場では、1度描いたものの上に何回か重ねることで、より複雑な色を出すことができます。
※ 墨には明度(濃淡)しかありませんが、作品の中では濃淡の中に色を感じることができます。逆に、色を感じないような作品は、完成度が低いものであると判断できます。


左:1000円程度のものを、原液のまま描いた。したがって、濃淡はまったくない。
右:左と同じ墨液を十分に薄めて使用した。また、茶色く見えるのはコーヒー粉が混入したからである。
※以上2点は、2007oct24の作品。

3 乾燥させた墨液
 クロッキー後に残った墨液は、そのまま乾燥させてしまいます。それを再び水で溶かすと、凝集した墨が古びた味わいで紙に載ります。ただし、膠(にかわ)の働きがなくなっているので、紙からぼろぼろとこぼれ落ちてしまうので、作品の保管には注意が必要です。

右図:(クロッキーF美術館コレクション vol.2006 c 1 のnoteから) 墨は青。1度乾燥させ、粒子がばらばらに分離してしまったものが気に入っている。筆から画面に出てきた青いばさばさの粒子を見ているとうっとりする。

4 筆、あるいは、筆に代わるもの

(1)筆
  私は太さが違う2種類の筆を同時に使います。上左のクロッキーは細い筆、上右は細い筆と太い筆の2種類を使いました。なお、左の作品を描いた時の筆先は、1週間前から放置してあったので、膠でかちこちに固まっていました。私は、せっかく固まっていたので、そのままの状態で描きました。墨液も原液のままとし、水を全く入れませんでした。

(2)鉛筆
 鉛筆に墨液をつけて描くと、鉛筆の黒鉛と墨が良い感じで画面に入ります。また、鉛筆の芯がなくなったものは、芯を取り巻く木材に墨がほどよく浸透し、格好の筆になります。市販されている竹製のものより、表現が豊かです。上右の作品の細線は、このようにして描いたものです。

(3)指
 指はあまり使いませんが、仕上げの段階で、ぱたぱたと化粧のために使います。下の作品では、脇腹のところに指を使いました。

上:2007oct24から

5 拭き取り
 画面は、描き加えるばかりでは深みが出ません。一旦描いたものを拭き取り、表現の幅を広げるようにしなければなりません。私の場合は、雑巾とトイレットペーパーを使って、墨液を拭き取ります。

 また、完成した作品を完全に乾燥させるためには半日ぐらい必要ですが、制作現場では2〜3分ごとに1枚の割り合いで作品ができていきます。こらら全てを床に並べることはできないので、私はテッシュペーパーを使って余分な水分を吹きとったり、必要に応じて作品と作品の間にテッシュを挟んで重ねます。数時間以内なら完全に乾き切っていないテッシュを剥がせるので、作品の損傷を最小限度におさえることができます。

6 下敷(したじき)
 下敷に凹凸があると、線そのものに表情がつきますが、線を重ねるような手法を使うと、紙が水で破れます。したがって、つるつるの机を使うことも悪くありません。毎回、雑巾で綺麗にできるからです。

 また、墨液が紙に完全に裏面まで浸透すると、黒の色が薄くなり、煤けた灰のような味わいになります。意図的に紙をべたべたに濡らせば、落ち着いた灰色の背景が得られます。

2007 oct 27

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