クロッキー F 美術館

第6章 美術モデルのためのお話
クロッキー・ポーズを研究する

1 有名な絵画(クロッキー)作品を見て、真似る
 過去の有名な作品のモデルのポーズを研究することは、とても有効です。多くの先人が追求し、繰り返されてきた美のポーズは普遍性をもっています。古典的ポーズの美しさは歴史が保証しているので、あなたは本当に堂々とポーズをとれます。ただし、有名な作品は無数にあるので、何が良いのか分からない! というのが本音でしょう。そんな時は、てもとにある気に入った画家の画集を使えば良いのです。あなたの好きなものから始めること、それが個性を伸ばすことにつながります。

2 他のモデル見学は良し悪し
 私が見聞する範囲では「見学して勉強になった」という新人モデルは多くありません。美術モデルという仕事を体験する、その仕事の雰囲気を掴む、モデルと作家が作る緊張感を感じる、という目的は達成できますが、具体的なポーズについては得ることが少ないようです。よくある失敗は、見学したモデルの癖を覚え込んでしまうことです。1人ひとり体型や個性が違いますから、同じことはできません。自分で鏡を見て、美しく見えるポーズ、自信をもってとれるポーズを1つずつ増やすのが何より大切であり、結果として早道になります。

3 スポーツはクロッキー(絵画)に適さない
 とても素晴らしいポーズがあるのは事実ですが、同じポーズの『絵画』と『写真』と『彫刻』を比較した場合、私は『写真』『彫刻』『絵画(クロッキー)』の順になると思います。なぜなら、スポーツの瞬間をもっとも的確に表現(再現)するのは『写真』であり、それを立体的に表現するのが『彫刻』だからです。人間の目は、走っている馬の脚さえ捉えらませんが、写真は1/10000秒以下の動きを精密に描写し、私達に驚きの感動を与えます。結論として、作者のイメージや何らかの想い付加する絵画の題材として、スポーツを選ぶことは不適切です。

4 ダンスはクロッキーに適さない
 スポーツと全く同じ理由で、ダンスは絵画に適しません。舞台で演じられる『極めポーズ』は、連続した動きの後に訪れる数秒間の完全なる静止です。それは呼吸を忘れ、瞬時にアドレナリン量を増加、立毛筋を収縮、涙を分泌させるほどの感動を呼び起こしますが、絵画によって表現されるものではありません。ダンスは、あくまで連続した時間の中に存在する感動です。それをクロッキーや絵画として表現できるとしたら、それは本質的な変質を伴っていることでしょう。

5 描き手と共通理解をする
 モデルは描き手のためにポーズし、賃金を得ているのですから、描き手の話を良く聞きましょう。そして、作家が意図することを十分に理解して下さい。これは固定ポーズでも同じことです。ただし、短時間のうちにポーズを決めるクロッキーでは、話合ったことが役に立たななかったり忘れたりまいますが、そうした姿勢を持つことで良い関係と良い作品ができあがっていくものです。

6 モデル『ヴァリー』と私の共同作業
 モデル『ヴァリー』と出会った私は、オーストリアで活躍した画家シーレとそのモデル『ヴァリー』について研究しました。その動機は、両者がシーレについて興味を持っていたからです。具体的な成果は別ページ『』で述べますが、私達は彼らと同じようにたくさんのクロッキーを繰り返しました。絵画(クロッキー)で大切なのは、その形態ではなく、そのポーズに含まれる内面です。これは別ページ『自然なポーズを輝かせる』で紹介した「すべての日常の動作が美しいポーズになる」こととは違います。見せることを意識しないポーズ、モデルの存在そのものを追求する作業です。

右:シーレのモデル・ヴァリーのポーズを真似るヴァリー
 (
2008年12月7日の作品から

2010年1月19日公開

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