クロッキー F 美術館

第6章 美術モデルのためのお話
モデルに起こる問題、トラブル

1 時間の延長、短縮を頼まれたら
 契約した時間を延長するなら、それ相応のお金をもらいます。営利目的の教室なら、まさに当然です。主催者から時間延長の相談を受けたとき、きちんと時間と料金を話合い、納得した上で仕事をして下さい。逆に、作家の事情で時間を短縮しても、初めに契約した料金が下がることはありません。ただし、あなたが遅刻した場合は、それ相応の罰金を支払う必要があります。あなたを描くために、たくさんの人が集ったのですから、、、

2 写真撮影を頼まれたら
 基本的に断ります。あなたが絶対に撮影されたくないなら、どんなに執拗に頼まれても毅然とした態度で断りましょう。雰囲気に流されると、その後も同じことの繰り返しになります。また、盗撮の気配を感じたら、その場で該当者、主催者、(事務所)、警察に訴えて下さい。それは犯罪行為です。誤解されるような行為をする方が間違っています。本当の誤解だとしても、あなたに責任はありません。お互いに気持ち良く仕事をすることが第1です。

 なお、あなたが撮影を望むなら話は別です。撮影の目的や方法などを十分に話合いましょう。よくよく考えれば、あなたが写真館で撮影してもらうなら、逆にカメラマンに対して撮影料を支払います。

3 休息中に、描きはじめる人がいたら
 休息は必要です。契約した時間は拘束されますが、その中の休息時間は自由です。背伸びしたり、雑談したり、お茶を飲んだり、仮眠したりします。しかし、描き手の中には休息中のモデルを描き始める熱心な人もいます。無神経とは断言できませんが、結果としてモデルへの配慮は欠けています。こんなとき、あなたは相手にしっかり合わせて下さい。より自由に退室して新鮮な空気を吸ったり、相手に直接話かけたりすればすれば良いのです。もしかしたら、大いに喜ぶかも知れません。

 常識的な教室は上のようにできますが、過去に熱心なモデルがいた場合は問題です。モデルが「どうぞ休息中にも描いて下さい」「休息なしで描かないとダメ」と叱咤激励していた場合です。それはそれでモデル個人の自由意志による活動なので、モデルと描き手の意志が一致すれば問題ありませんが、それを全員に当てはめるのは問題です。あなたはあなたです。断るべきことはしっかり断って下さい。

4 具体的なポーズを頼まれたら
 1対1の場合は全く問題ありませんが、複数の描き手がいる時は注意しましょう。休息時間に、「髪をしばって欲しい」「寝ポーズを多くして欲しい」などポーズを要求する人がいたら、必ず主催者に確認して下さい。さもなければ、その他の方からも注文を受けたり、他の方からクレームがきたりして、思わぬトラブルに巻き込まれることがあります。

5 無理なポーズを頼まれたら
 「できないポーズはできない」と言いましょう。無理をして身体を壊したらお終いです。作家の中には「金を払ったんだから、我慢するのは当然だ。命令に従わないなら帰ってくれ」と言い出す人もいます。金を払えば何でもできる、金をもらったから何でもする、というのは危険な考えです。常識的にできないもの、筋肉や身体を壊すポーズは拒否して下さい。それで次回から声がかからなければ、儲けものです。私は無理なポーズで身体を壊し、廃業したモデルを何人も知っています。残念なことに、良い性格で熱心なモデルほど身体を壊してしまうのです。参考ページ:マッサージが必要になったら

6 恥ずかしいポーズを要求されたら
 「それはできません」と毅然とした態度で断って下さい。もちろん、あなたがそれに同意するなら話は別です。逆に、作家の方から「大人しいポーズにして下さい」と要求されることもあります。

7 教室の環境が良くなかったら
 暑い、寒い、足元が寒い、クーラーの風が直接当る、など温度や湿度に関することは、はっきり主催者へ申し出て下さい。最善を尽してくれると思います。その一方、扉が開いている、ブラインドやカーテンにすき間がある、など外から見られる可能性について無神経な教室があることも事実です。たくさんの描き手の中には「えっ、裸を見られるの平気じゃないの?」「扉が開いているの、気にするの?」と嫌な顔をする人をいます。そんな人には、羞恥心という大切な感情を教えてあげましょう。厚顔無恥な作家は、消えて無くなることが多いので。

8 描かない人がいたら
 紙と鉛筆を持ったまま、あなたをじっと見ているだけの人がいたら、主催者に相談しましょう。何か事情があるかも知れないし、あなた自身も誰かに話すことで気持ちが和らぎます。私が知っている女性モデルの1人は、ポーズ中に「描かないなら出ていっ下さい。お金は要りません。なんなら私が払います」と怒鳴りました。教室全体が、「おお、ついにあの人が注意されたか!」という空気に包まれましたが、注意された本人は、いそいそと鉛筆を動かし始めました。みんな吃驚、クロッキーのテンションは一気に高まりました。

9 場所を変えての茶話会、飲み会
 目的が不純な主催者や作家は、仕事を終えたモデルを誘いたがります。これについては、モデルの自由意志で参加、不参加を決定して下さい。断ると次の仕事がもらえない、などと考えてはいけません。公私を混同してはいけません。モデルは公の仕事であり、その後のプライベートな活動とは基本的に無関係です。ちなみは、私はモデルをよく誘いますが、その目的はよいクロッキーを描くため、ということにしています。

10 モデル事務所ともめたら
 事務所とトラブルがあるのは当然です。客観的、常識的に判断し、納得できないなら辞めるより他に方法はありません。モデル事務所については、別ページ『モデル事務所って何?』をご覧下さい。

11 生理と重なったら
 タンポンやムーン・カップを使用します。生理が始まりそうな時も着用しておいた方が良いでしょう。タンポンの紐は短く切る人もいます。気心が知れた主催者なら、事情を話して身体が冷えない室温に設定してもらいましょう。

2010年2月11日公開

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