クロッキー F 美術館

第5章 クロッキー心理学
クロッキーモデルと私の関係

     ─モデルは、私自身を写す鏡─

1 生きている人としてのモデル
 セザンヌは生身のモデルを物体(リンゴ)と同じように扱いましたが、私は違います。私にとって、モデルは生きた人間です。計り知れない魅力を持った、もう1人の私自身です。さもなければ、躍動する瞬間を捉えたスポーツ写真や不動の絶対的ポーズをとり続けるギリシャ彫刻を使って描けば良いことです。クロッキーは、生きた人間どうしが同じ時間と空間を共有することから生まれます。そして、一期一会であるという点において、クロッキーと通常の絵画とは一線を画します。

2 モデル選びは自分を知ること
 もしもモデルを選ぶことができるなら、私は厳選します。その瞬間の自分が一番盛り上がるような、表現意欲に応えてくれるようなモデルを選びます。ある時間と場所はクロッキーのための重要な要素の1つであり、クロッキーの主題はモデルです。したがって、誰でも良いと言うわけではなく、自分を取り巻く環境を総合的に判断して決めます。そのためには、まず自分自身が何をしたいのか、明確に知ることが大切です。

3 基本的な基準
 モデル選びの基準は、外見や年齢ではなく、人としての豊かさです。はつらつとした、明るい希望を持った健康な精神が重要です。好奇心旺盛で、何ごとにもチャレンジしてくれるモデルは、私にとって大変貴重な存在です。本当に素晴らしいモデルは、長い付き合いの中で共に成長していくことを感じられるものです。

4 互いを高めあうための方法
 あなたが意気消沈している時、元気なモデルが活力やインスピレーションを与えてくれることがあります。それはとても素晴らしいことです。このような関係が築けるように、モデルとは自分と同じように大切に接して下さい。逆に、あなたがモデルをリードする日もあるでしょう。そのためには、モデルに対して自分と同じように厳しく接することも重要です。優しさだけの付きあいは、すぐに限界に達します。厳しく謙虚に誠実に付き合うことが重要です。

5 モデルの個性を生かす
 1人ひとりのモデルは違う個性を持っています。その長所を十分に引き出した時、クロッキーは光り輝きます。例えば、よく喋る外交的なモデルなら、休息中にポーズ以外のこともたくさん話しましょう。逆に、静かで内向的な性格のモデルなら、話をするよりもクロッキー中の態度で示す方が良いでしょう。ポーズの注文をする場合も、モデルのタイプに合わせて変えます。
→関連ページ『ポーズを注文する方法

6 作家は人生経験を豊かに
 どんなに素晴らしいモデルを使っても、そこから表現できることは、作家であるあなたの範囲内です。あなたが経験したことや、内部で生まれたものです。例えば、公務員を本業とするアマチュアの作品は、そのような匂いが漂います。浮き世離れした生活をしている作家の場合は、そのように漂います。それぞれのクロッキーはそれぞれの個性を持った作品として、立派に存在しています。しかし、それぞれの作品をより芳醇にするために、作家は自分の人生経験を豊かにする努力を怠ってはいけません。小手先だけの作品作りは、作家だけでなく鑑賞者も疲れされます。

7 モデルとの約束
 何回も同じモデルを描いていると、馴れ合いになる危険性がありますが、少なくとも時間とお金については、厳密に約束を守りましょう。理由はどうあれ、拘束時間を延長するならお金を支払わなければいけません。これは最低限度の社会ルールです。また、クロッキー中は、クロッキー以外のことを求めてはいけません。それは作家としての生命を奪うだけでなく、人としてのモラルと信用とあなたの良心を失います。

note
・モデルとギリシャ彫刻を混同していはいけません
・モデルと高品質の写真を比較してはいけません
・あなたもモデルも生きています
・可能なら、事前にモデルと相談します

2009 feb 24

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