クロッキー F 美術館

第5章 クロッキー心理学
笑うモデル

1 笑うモデルを初めて描いた日
 2001年5月27日。その日は、笑うモデルを初めて作品レベルまで持ち込んだ日です。それまでの私は、「笑っている人物を描いてはいけない」という暗黙の了解のようなものに囚われていました。この保守的な考えは、最先端の現代アートを積極的に見聞してた自分としては大変な驚きです。

図1(右図):モデルrは私を見て笑いました。その顛末は忘れましたが、彼女がとても幸せだったことは間違いありません。私はそれを残したくて、残さなければならないほど大切なものだと感じてそれを描きました。その事実は作品として、当時から9年たった今も展示されています。
クロッキー作品群2001 May 27から)

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2 楽しい時空間
 絵を描くことは私にとって楽しいことです。そして、モデルにとっても楽しいことなら、お互いの楽しみが響きあって、より大きな楽しい時間になります。そのようなクロッキーはとても幸せです。その幸せな気持ちや歓びの感情をストレートに表現したものが笑いです。図1や図2は、それを描いたクロッキーです。

図2(右図):モデル蓮子と私は、同じ時空間にいることに最高の幸せをみていたと思う。(F美術館コレクション vol.2007 nov 8から)

3 笑っている絵が少ない理由
 
大多数の美術家が「笑い」を避ける理由は、笑う状況を作ることが難しいからでしょう。笑うためには、「作家自身が笑う」ことが絶対条件です。たくさんの笑い方、喜び(歓び)方、楽しみ方を知っているほど豊かな笑いをつくることができますが、大多数の芸術家は、笑いのない孤独な作業をしています。これに対して、クロッキーはモデルとの共同作業なので、どちらから一方の努力によって比較的簡単に笑い、一緒に笑い合うことができます。

4 笑いの種類
 笑いにはたくさんの種類があります。微笑み、スマイル(笑顔)、思い出し笑い(面白かったことを思い出して1人で笑う)、みんなの笑いにつられた笑い、苦笑い、自嘲、爆笑、などです。これらの中でも、図1や図2のように楽しい開放的な感情を相手とわかち合うための笑いは、もっとも重要で大切な笑いの1つです。笑いの種類まで感じ、それを描き分けるようにしてみましょう。クロッキーの楽しみがさらに膨らみます。

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5 一緒にリラックスするモデル
 リラックスするモデルは、随分昔から描いたことがあります。本を読んでいたり、音楽を聴いていたり、携帯をいじっていたり、お茶を飲んでいたり、ケーキを食べていたり、など様々な場面を描いたことがあります。

図3(右図):モデル・ヴァリーはお茶を飲んでいる
F美術館コレクション vol.2009 Dec 30から)

6 喜びやほっとした気持ちを表現するモデル
 図1のモデルは純粋に笑っているだけなので、ポーズらしいポーズはありません。これに対して、図2と図3は明確なポーズをとっています。喜びやリラックス感を表現するために筋肉を緊張させ、あるポーズをとっています。作家は、それを感じ同じように筋肉を使って描きます。描くものは、ポーズではなく、その内側にある心の状態です。

7 笑うモデルを描くためのステップ
 笑うモデルを描くためのステップは、次の図4のようになります。これは、作家とモデルの感情(心の交換)から始まります。それはモデルのポーズとして表現され、作家はポーズを通して感情を表現します。

図4 感情を表現するまで

モデルの表現
(笑いを含むポーズ)
作家の表現
(クロッキー)
作家の喜び=モデルの喜び
※起点、そして、ゴールでもある
(モデルのポーズ)

2010年4月30日公開

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