このページは、Mr.Taka 中学校理科の授業記録 3年(2008年度)です

実習11 ピーターコーンの種子
         ─ メンデルの分離の法則 ─

                               2008 9 20(金) 第2理科室

 理科室から醤油の焦げた良い匂い・・・
 「先生、何か食べたの?」の質問には、「トウモロコシの種子を調べる実験です」と答えましょう。

 私が担当するクラスの生徒は、種子の数を調べてから、その味を調べることを知っているので、嬉々として理科室に入ってきます。


上:黄と白の種子が混じったトウモロコシ(商品名:ピーターコーン)
 茹でてから真空パックしてあるので、封を切ればそのまま食べられる。

授業の目標
(1)黄:白=3:1になることを確かめる。
(2)調べる数を増やすと、より正確な数値になることを確かめる。
(3)スイートコーンの種子の味を確かめる。
 → 「美味しかった」とトウモロコシに感謝する。

(補足)この実習の説明にはいくつかの嘘が含まれているので、現行の学習指導要領では教えることができません。しかし、私はメンデルの分離の法則(3:1になること)を実感させる上でとても有意義な実習だと思います。正確な知識は高校や大学で説明する範囲であることは認めますが、感受性豊かな中学生に最適なことを見逃してはいけません。子どもの立場に立てば、正確な知識はあとから得られます。中学生にとって、たくさんの種子を数えて3:1を確認するのは、とても大きな感動であり、遺伝に対する知的な興奮を覚えるものです。
 それから、本当のことが気になる人のために、正確な知識を紹介します。

スイートコーンの受精

(1)色は『種子』ではなく、種皮(無色透明)の内側にある『胚乳』の色である。
(2)胚乳の核相は2nではなく、3n(花粉の精細胞の核1つ+極核2つ)である。
親の遺伝子 花粉(父)
極核(母) \\\
黄黄 黄黄+黄
(子は黄色になる)
黄黄+白
(子は黄色になる)
白白 白白+黄
(子は黄色になる)
白白+白
(子は白色になる)

(3)受精卵の核相は、2n(花粉の精細胞の核1つ+卵細胞の核1つ)である。
(4)(2)と(3)は同時に行われるので『重複受精』という。
 雄:花粉は、2つの精細胞(核)をもっている。

先生が準備するもの
(1)ピーターコーン(10本)
(2)包丁とまな板
(3)サランラップ、アルミホイル
(4)油性マジック
(5)ホットプレート、割り箸(つまようじ)
(6)三脚、金網、ガスバーナー
(7)醤油


◎ 授業の流れ
1 ピーターコーンの紹介  (15分間)

(1)ピーターコーンを見せ、種子の色が2種類(黄と白)であることを知らせる。
(2)その数の割り合いの理論値は、黄:白=3:1であることを知らせる。
  → 3:1になることは、前の時間に学習している。
(3)実習はとても簡単なので、絶対に正確に数えなければならないことを明言する。

上:完全に密封され、常温保存できる。
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上:ポイントは次の通り。
(1)種名はスイートコーン
(2)遺伝子組み換えはない(しかし、親はクローン

ピーターコーンの生産方法

 今回の実験に使用したピーターコーンを生産した(株)グリーンファームに問い合わせたところ、次のような回答が得られた。
(1)純系(黄)と純系(白)から、雑種(黄)を作る。
(2)雑種の中から優れた個体を1つ選ぶ。
(3)
クローン技術で、1つの個体だけの畑を作る。
(4)その畑内で受粉させる(自家受粉)。
 ※隣の畑とは10km以上の距離をあける。
 ※受粉は風によって行う(トウモロコシは風媒花)。
 
※クローンを作る方法は企業秘密。また、クローンによって作られた食べ物については、問題ない。同じようにして作られている食物はいくらでもある。例えば、1つの『じゃがいも』からできた『じゃがいも』は、すべてクローンです。厳重な品質管理が必要なタバコもクローンです。

話し方の例
 「今日はピーターコーンを食べます。(ピーターコーンを見せながら、)これは北海道で作られたトウモロコシですが、もうすでに茹でてあるので、封を切れば、そのまま食べられます。先生はさっき、少し食べてみたのですが、ちょうどよい甘さで、もう、うっとりでした。さて、食べるだけでは理科の授業にならないので、みなさんには種子の数を数えてもらいましょう。このトウモロコシをよくみると、黄と白の種子が混ざっていることがわかります。近くに人は分かりますね。これらの数を正確に数えると、前の時間に学習したように、3:1になります。メンデルが調べたのと同じです。ま、今日の授業は数えるだけですから、ちゃんと正確に数えて下さいよ。後は食べるだけなんですから・・・。1班に1本ずつ配るので、3人なら3人で、4人なら4人で分けて下さい。5人の班は2本あげますので、上手に分けて、2本、それぞれの数を数えて下さい。分ける方法は包丁でも構いませんが、包丁だとコーンが半分に切れてしまうので、工夫して下さい。力があるなら、手で折った方が良いでしょう。また、他のクラスでは、1粒ずつとって、きれいに並べて数えていた班もありました。それから、トウモロコシの調理法はそのまま食べても良いのですが、ガスバーナーとビーカーの水で温めたり、アルミホイルでホイル焼きにしたり、ホットプレートが2つ用意してあるので、それを使っても良いです。調味料は、醤油と塩がありますが、何粒か食べてから調整して下さい。ホットプレートで醤油がこげたら、教えて下さい。洗い方を教えます。あっ、そうそう、大切なことを忘れていました。各班ごとで調べた数は、黒板に書いて報告して下さい。先生が電卓を使って、黄と白の比率を計算します。そして最後に、学級全体を合計して同じように計算します。前のクラスは、学級全体で3.02:1になりました。つまり、もう完全に3:1でした。みなさんのクラスも負けないように、しっかり数えて下さい。・・・つづく」

2 3:1になるための親の色と遺伝子の確認
(1)親の形質は、両親とも『黄』
(2)親の遺伝子は、両親とも『黄白』の雑種

上:板書例。

話し方の例
 「数えて食べるだけではいけないので、3:1になる理論を確認しておきましょう。前の時間に学習した通りですが、家系図を書きます(黒板に書きながら、)お父さんとお母さんがいて、結婚して、生まれる子どもが黄色と白になります。それが、このピーターコーンです。(生徒が書き終わるのを確認してから、)では、みなさんに質問です。『親は何色と何色でしょう?』組み合わあせは『黄色と黄色』、『黄色と白』、『白と白』の3つしかありませんので、手を挙げて全員に答えてもらいます。さっと手を挙げて下さい。友だちを見てからはいけません。では、聞きます。・・・親の色の組み合わせが、『黄色と黄色』だったと思う人! ・・・ はい、正解です。今、手を挙げなかった人、大丈夫ですか? 親は両方とも黄色です。ただし、遺伝子を調べると、黄色だけでなく、白い遺伝子も持った雑種です。黄色と白の2つの遺伝子を持っています。しかし、白の遺伝子は劣性なので隠れてしまい、優性な黄色、の種子になるわけですね。さて、これを簡単に書いておきましょう。(板書しながら、)黄色の遺伝子をイエローの『Y』、白の遺伝子を『スモール・y』としますと、2つの親は『Yとスモール・y』になります。チョークの色も『Y』を黄色、『スモール・y』を白にしておきます。この両親からできた子の、遺伝子の組み合わせは、4通りです。つまり、『YY』で黄色、『Yとスモール・y』で黄色、『スモール・yとY』で黄色、『スモール・yとスモール・y』で白です。これで、黄色:白=3:1になります。それから、これは、先生がトウモロコシ屋さんに電話でかけて聞いた話ですが、親は全部『クローン』だそうです。クローンは前の時間に学習したように、1つの生物から全く同じ生物を作ることです。動物のクローンづくりは大変ですが、植物はいろいろなもので作られています。ピーターコーンの場合は、黄色の純系と白の純系で作った雑種の中から、1番優れたものを1つだけ選んで親にします。これは遺伝子組み換えではありませんから、食べても大丈夫です。1番良いトウモロコシを選んで、それを増やしただけですからね。このように、全く同じ遺伝子型をもつ親どうしをかけ合わせて作った子どもが、今、みなさんが手にしているピーターコーンです。これらは、完全に遺伝子型が同じです。品質管理が万全ということです。
 さて、先生からの確認は以上です。何か質問はありませんか。(数秒間待ってから、)始め!」

3 生徒実習『種子の色を数える』
 種子の数え方は、班ごとに考えさせるようにしました。その結果、次のようにいろいろな数え方が出てきました。

方法1: 1粒ずつ並べて数える (作業時間:4人で15分)










上:この手法は、かなり優れています。何しろ、この後バター炒めにできますから、、、

方法2: サランラップを巻いて、数える


上:サランラップは2枚使ってもよい。
  1枚は黄色を数えるため、もう1枚は白色を数えるため。

方法3:スイートコーンを分けてから、数える


上:手で折れば、種子は潰れない。
 ただし、この方法は1つを2つにすることしかできない。4つにしようとすると、種子を握りつぶしてしまうことになる。
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上:包丁を使うと、いくつかの種子を不規則な大きな切ってしまう。その処理は生徒の判断に任せるが、誤差が少なくなるように注意させる。


方法4:班員総出で見張りながら、1列ずつ、1粒ずつ数える


上:きちんとした列を作っていない場所があるので、混乱は避けられない。まあ、頑張ってくれたまえ。くり返し言うが、今日は数えるだけだから、誤差がでないようにすること!

4 種子の数を発表する
 数え終わった班から、前の黒板に書きに来る。

上:黒板に発表された種子の数
 各班の結果は3:1になっていない。しかし、学級全体を合計すると、黄:白=4055:1337=3.0329:1。なんと、小数点第1位の正確さで3:1になったのだ。この感動は、私にとってピーターコーンとともに忘れられないものであり、今日のこの授業を受けた生徒達にとっても、先生が異常に興奮していたことは忘れられないと思う。真実は教科書を超えた。感動です。

5 実習2 種子の味を確かめる
 そのまま食べてもよし、焼いてもよし。

上:アルミホイルの上で焦げめをつけてから、醤油をたらすのがお勧め。


上:ホットプレートで焼くと、お調子者の男子が『醤油』をどばーっとかけるので注意する。醤油が焦げてしまったものは、水で流すだけで簡単にきれいになる。

6 本時の感想

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授業を終えて
 この実習は、私にとっても初めてでした。高価なトウモロコシを注文する時、「種子の数をかぞえて食べるだけなのに、教育予算をこんなに使っても良いのか」と自責の念に囚われていましたが、生徒達はそれ以上のものを得たようなので、ほっとしました。つまり、各班ごとの結果は3:1にならなかったのですが、学級全体で計算して3:1になったとき、生徒から「メンデルはたくさん数えて大変だったんだね」という大きな声が出たのです。
 私も3:1という結果に驚いたのですが、意味は少し違います。私は『統計学の説明に使える』と思ったのです。しかし、生徒の声「たくさん数えたんだね」によって、統計学の説明という私の自己満足をせずに済みました。本当に生徒の言葉に感謝です。とにかく、生徒と私の感動の内容は違っても、同じように遺伝の奥深さを体験したことは間違いありません。
 それから、この実習は高校の数学にも利用できると思います。このページを読まれた数学の先生、是非とも実践して下さい。数学でトウモロコシを食べるのは、理科よりも意外性があって盛り上がりますよ。もちろん、生物学の先生とリンクして授業をされると、効果が何倍にもなると思います。


上:黄色の種子を数え終わり、ハイ、ポーズ!
 白い種子は別のサランラップで数えてあるので、次は種子の味を調べる。しっかり味わって下さい。
 ※掲載許可を得ています。

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