このページは、Mr. takaによる若手教師のためのワンポイント・レッスンです。

第9章 評価は不要物?

15 観点別評価について

─混乱と悲劇をくり返さないために─

1 たくさんの視点から評定する
 ある1つの教科の『評定』を出すために、いくつかの『細かい観点』に着目することは重要です。定期テストの点数だけでなく、子どもどうしの評価や授業中の取り組み方など、複数の視点から総合的に判断することは不可欠です。したがって、2008年現在、日本の多くの中学校で行なわれている観点別評価は、理論的には悪くありません。

2 観点別評価の理論
 現在の方法は、まず、1つの教科を4つの観点(国語科は5つの観点)に分けて評価し、次に、4つの観点の『評価』から総合的な『評定』を機械的に算出するものです。これを表したものが、下の表図1と図2です。

表図1:4つの観点から、評定を出す手順

4つの観点

4つの観点を

それぞれ3段階に評価する
観点の評価


機械的に算出する
(表2)

最終的な評定
(1) 関心・意欲・態度 A・B・C 5・4・3・2・1
(2) 科学的思考 A・B・C
(3) 観察・実験の技能 A・B・C
(4) 知識・理解 A・B・C

※私が中学の時は、1つの教科について1つの評定(5段階)だけでした。
※現在は、1つの教科について1つの評定(5段階)と4つの観点別評価(3段階)がつけられます。

表2:とても機械的な、観点別評価と評定の関係

観点別評価 . 評 定
 AAAA
 AAAB
 AABB(AAAC)
 ABBB(AABC)
 BBBB(AACC、ABBC)
 BBBC(ABCC)
 BBCC(ACCC)
 BCCC
 CCCC
 ほとんどの学校の評定は、観点別評価から機械的に算出されます。
この計算方法は中学校によって異なりますが、ほとんどの場合同じで
す。この関係については、初めて中学校の通知表を手にする新1年生
の保護者に対して、1学期の通知表と同時に配付されることが多いよ
うです。

3 観点別評価の長所がもっている永遠の問題点
 この観点別評価は、「どのように評定したのか説明して欲しい」という開示請求をされたときは有効です。数値化された観点がたくさんあれば、評定の根拠を説明しやすいからです。しかし、よく考えれば、それぞれの観点の数値を出した根拠はどこにあるのでしょうか。その算出方法を選んだ根拠や、細かい項目ごとの比重は適正なのでしょうか。このような問題は、どのように細かく分析しても解決することは永遠にありません。

4 教師に還る観点別評価
 もっとも大切な説明の根拠は、教師の授業に対する情熱、教師の教育に対する科学的な思考力、教師の観察力、教師の教育技術、教師の学習事項に対する知識・理解です。これはまさに、教師が子どもに対して行なった観点別評価の項目です。この指摘は、とても重要な意味をもっていると思います。

5 観点別評価は誰のため?
 現場にいる私は、観点別評価は100%以上不要であると思います。これまで理論を中心に述べてきましたが、その主要な目的は、『教師が説明できるため』『教師が自分を反省するため』だからです。子どものためになる目的として、『子どもが自分の長短を細かく分析できること』がありますが、現実の子どもは詳細な分析を望んでいません。子どもが本当に知りたいことは数字による最終評価ではなく、それまでに努力してきた自分の姿に対する評価です。その成長の記録、あるいは、友達と比較した相対的な自分の努力の数値(評定)なら、子どもはドキドキしながら結果を知りたいと願うことでしょう。それは、子どもの明日につながる評価です。

※ 機械的な算出について
 それぞれの観点の比重は、学習内容によって違います。例えば、1年理科の植物分野なら、校庭に生えている植物の観察やスケッチなど『観察や実験の技能』を中心にした授業を展開し、『自然に対する興味関心』を高くすることが主な学習目標です。したがって、他の単元とくらべると、科学的思考や知識理解の比重は低くなります。
 しかし、それを他人(一般の大人、保護者、教職員)に説明するのは困難なので、4つの観点が同じ比重であるとして機械的に算出しています。この問題1つを取り上げても、観点別評価が混乱を招くだけでなく、学習目標を見失なう原因となっていることが判ります。

6 子どもから見た観点別評価(オール5の場合)
 とても優秀なオール5の花子さんの通知表を見せてもらいましょう。ぱっと広げると、評定5と観点別評価Aしかありません。何とも味気ない通知表です。BやCがあれば、それを目標として頑張れるのですが、彼女にはありません。完全無欠な評価が連続すると、自身過剰になるだけでなく、目標を失ったり、1つでもBがついた時に『立ち直れないほどの大きなつまずき』になる可能性があります。どんなに優秀な生徒でもBやCをつける方が教育的です。教育的なCをつける方法は、別ページ『個人内評価』をご覧下さい。

7 子どもから見た観点別評価(オール1の場合)
 私は、オール1の子どもの通知表を一緒に見たことがあります。本人は「わかっていたよ」と平気な顔をしていましたが、悲しいものです。そのオール1の隣にCCC・・・と、Cを28個も並べる必要があるのでしょうか。これが原因で不登校になった子どもの例は知りませんが、このような通知表を1年に3回も見せられたら、、、私なら不登校の原因の1つになるでしょう。
 「オール1は現実だから、そこから逃げずに向き合って頑張れ !」という先生や大人の言葉は、詭弁です。なぜなら、その現実を作ったのは大人だからです。評価システムをかえれば、現実をかえることができるのです。私は、観点別評価というものを残すなら、それは総合評価を独立させ、希望のBやAを与えることができる個人内評価にするべきだと主張します。希望感じる現実を作ることが大人の仕事であり、私たち大人にはできるはずです。

8 私の願い
 このページは、現在の観点別評価が廃止されることを願って書きました。そして、将来廃止された後に、再び現場を知らない理論家によって同じような提案がされないように願っています。

2008年7月13日

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(C) 2008 Fukuchi Takahiro