このページは『Mr. takaによる、若手教師のためのワンポイント・レッスン』です。

第5.2章 朝の始業前の指導

4 遅刻した生徒への声かけ

1 集団で遅刻しても、理由は1人ひとり全く違う
 ほとんどの生徒は、「遅刻したくない」、「遅刻は悪いことだ」、「遅刻はしてはいけない」と認識しています。したがって、たまたま遅刻した場合、遅刻した事実を確認し、その理由を簡単に聞くだけで十分です。「馬鹿者! 何で遅刻したんだ!」と怒鳴る必要はありません。これは基本的に、毎日ぎりぎりに駆け込んでくる生徒(遅刻常習者)でも同じです。ただし、本当の理由が根深いとこにある可能性もあるので、1人ひとりの理由を尋ねることは絶対に欠かしてはいけません。頭ごなしの教師の一言で、不登校を決断する生徒もいます。それでは、いろいろなケースについて、具体的な声かけを紹介します。

2 遅刻してしまった、と反省している場合
 遅刻した事実を確認し、遅刻した理由を聞きます。体調不良や朝寝坊などの理由がありますが、ごく簡単に注意を促すだけで十分です。なお、この場合、生徒は1人で登校(遅刻)することが多いです。

「今日は遅刻です。どうして遅刻したのかな?」
「そうか。じゃあ、明日は気をつけようね」
※「明日は大丈夫だよね」という声かけは、体調不良の生徒にとって負担をかけるので、してはいけません。

3 時間ぎりぎりでも大丈夫だと考えている場合
 遅刻を確認した後、厳しく注意、指導して下さい。ただし、遅刻に対する認識が甘い生徒は、保護者や周りにいる大人(担任の先生を含む)が時間に甘い生活をしている可能性があります。話がピンと来ないことが多いので、熱く語るのではなく、一般的な事実として静かに話をした方が効果的です。

 「遅刻です。今日はどうして遅刻したのかな?」

 「今日の遅刻は、通知表に書かれることを知っていますか。そして、君が高校に進学する時や就職する時、高校や会社がその数字を見ることを知っていますか。さらに、数字が多い場合、面接で遅刻の理由を聞くことを知っていますか。知らなかったとしたら、今、覚えて下さい。遅刻が良いか悪いかは別にして、君が中学を卒業して新しい出発をするとき、高校や会社は君の資料を見ます。学習の成績も見ますが、遅刻や欠席の数字も同じように見ます。ここからは相手が判断することですから、君の考えも先生の考えも関係ないのですが、多くの学校や会社は遅刻や欠席を大変嫌います。勉強ができなくても、毎日学校に来る人、毎日遅刻せずに会社に来る人を好みます。先生も、会社の社長だったら、頭がよくなくても遅刻をせず、信頼できる人を選びます。ぎりぎりの人は信頼がおけないので選びません。」

「なるほど、毎日ぎりぎりでも大丈夫だと思って走ってきているけれど、実際に遅刻した場合は、遅刻です。遅刻は人間社会ではもっとも嫌われることの1つです。お金と時間を守れない人は信用されません。先生も嫌いです。時は金なり、といいますが、時間を金に例えると、君は毎日ぎりぎりのお金しか持っていない状態で、今日は1円不足でした。1円でも不足していれば買い物はできません。もちろん、1円ならおまけをしてくれることもありますが、毎日、ぎりぎりの生活を見ている先生はおまけしません。もちろん、普段、余裕をもって登校をしている人に対しても同じです。残念ながら、遅刻です。社会は君が思っているほど甘くはありません。」

4 家庭に問題がありそうな場合
 生徒の実態にあった個別な声かけが必要です。ただ単に、時間にルーズなだけの場合もありますが、基本的に「理由は1人ひとり違う」と考えなければなりません。画一的な指導は、無意味であるばかりか、有害です。家庭内の問題は、一般に教師の手が及ばなかったり、家庭との十分な話し合いや、保護者との長期にわたる粘り強い話し合いが必要になります。以下は、ほんの1例に過ぎませんが、生徒本人に毎日の生活の話をさせることで、本人の疲れた心を少しでも楽にさせることを第1目標として下さい。黙って聞いてくれる人、そして、事実を認識してくれる人としての位置の確立です。

「今日は遅いね。どうしたの?」
「そうか、朝寝坊したのか。それで、朝ごはんは食べたの?」
「うーん、食べていないのか。もしかして、ごはんを作る人が、自分しかいないとか?」
「じゃあ、朝は君1人しかいないの?」
「弟も同じなんだね。」
「それで、昼のお弁当はある?」

5 生徒が「学校がつならいから」と答えた場合
 かなり深刻な問題があります。言葉を慎重に選び、生徒から「つまらない理由」を聞く必要があります。その理由を話してくれるなら、比較的簡単ですが、多くの場合は心を閉ざしていたり、本人も「つまらない理由」が分からない場合があります。教師から、「つまらないとは何だ!」「つまらないと言うほど学校に来ていないだろう!」「何も努力していないだろう!」などと言うことは、不信感を招き、不登校生徒を作る結果になります。先生が直接原因である場合もあります。

「そうか、学校がつまらないなら、遅くなるのも当然だよね。で、つまらないことは色々あると思うけれど、何が1番つまらないの?」
「えっ、全部?! 全部となると重症だよね。となると、少しずつ直さないと大変だから、今、一番嫌ところを考えてみようよ(必要に応じて、友達? 先生? 授業? 部活? それとも家のこと?)。」

6 絶対に言ってはいけない言葉
 次のような声かけは、例え冗談のつもりでも言ってはいけません。本人は笑って返事をしても、深い心の傷を負わせる場合があります。とくに、日頃から厳しい指導をしている先生の場合は、生徒が先生に合わせて「無理して笑う」場合があります。心を卑屈にし、自信を失わせます。さらに、先生から信頼されていないんだ、という心を膨らませ、やがて先生不信、大人不信、人間不信へと発展していきます。十分に気をつけて下さい。問題行動は、つねに目の前にある「それだけ」に限定して厳しく指摘、注意するようにします。

「また、君か。いつもだなあ(笑)」
「やっぱりお前か(笑)」

7 集団で遅刻してきた場合
 集団で遅刻した場合、1人ずつ順に、その理由を聞きます。すると、ほとんどの場合、遅刻の原因はたった1人に絞られます。その1人には生活改善を指導し、その他の生徒には、友達関係の改善を指導します。「遅刻する集団=解散しなければならない集団」です。ただし、解散勧告を出すのは、朝、遅刻をしている集団です。例え全く同じメンバーでも、学校生活の集団とは切り離し、「朝、遅刻する集団」として指導して下さい。

2007年6月11日

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