このページは『Mr. takaによる、若手教師のためのワンポイント・レッスン』です。

第5.2章 朝の始業前の指導

1 下駄箱先生

1 私は『下駄箱先生』と呼ばれています
 私は『下駄箱先生』と呼ばれています。なぜなら、4月初めの学年集会の時、私の仕事が『下駄箱での登校時間チェック』になったことを紹介したからです。私は毎朝、下駄箱に立ち、所定の時間に登校していない生徒を調べます。本来の仕事はこれだけですが、私はその他に、生徒が自分の靴を自分の下駄箱の位置に正しく入れているか調べ、できていない生徒には徹底的に指導します。

2 戦場のような朝の下駄箱
 毎朝、始業のチャイム直前になると、非常に多くの生徒が駆け込んできます。ゆとりをもって登校する生徒は、自分の位置に正しく入れる場合がほとんどですが、ぎりぎりの生徒はいろいろな入れ方をします。足を使ってスリッパを引きずり出したり、履いていた靴を足で入れたり、ざら板に脱ぎ捨てていったり、1足裏返って入っていたり、入っていた靴を落としてしまったり、まるで戦場のようなありさまです。

3 とりあえず声をかけておくと、後の指導が楽になる
 本当は、その場ですべて注意したいのですが、一度にたくさんの生徒が押し寄せるので、その場では無理です。「自分の場所に入れなさい」と、全体に声をかけるのが精一杯です。全員が教室へ走り去り、静かになったところで、未登校生徒をチェックする時に確認します。そして、靴や上ばきがない『空』の場所を見つけた時は、その場所に入れるはずの生徒を教室まで呼びに行き、本人と一緒に下駄箱へ行き、本人に確認させます。もし、間違っているなら直させます。

4 自分の場所に入れさせるための声かけ
「自分の靴の場所を確認してくれますか。」
「違っているなら、自分の場所に入れなさい。」
※95%以上は、これだけで十分です。なぜなら、わざわざ先生が教室まで足を運び、一緒に確認するという手間をかけたのですから、それに応えないことは通常あり得ません。生徒本人も、わざわざ教室から下駄箱まで歩いてきているのですから、ここでの「ひと手間(=靴を入れること)」は素直に行ないます。
「はい、よくできました。」

5 靴を入れるのは、校則を守るための第1歩
 これは、とてもつまらない行為のように思いますが、非常にたくさんの意味を含みます。私が入れ直す方がはるかに簡単なのですが、わざわざ本人を呼びに行くことには、それだけ大きな意味があるからです。まず、学校へ登校した子どもは、正門での挨拶を無視したり、服装違反で登校しても、下駄箱で自分の場所に靴を入れなければなりません。これは、生徒手帳に書いてありせんが「校則」を守る第1歩です。

6 自分を特別だと思っている生徒
 通常、自分のことを特別だと思っている生徒は、靴をざら板の上におきっぱなしにしたり、靴箱の1番下の段に足で入れたり、自分の好きな場所に靴を入れます。上履きも同じように、好きなところに入れます。学校のスタートがこれではよくありません。下駄箱には順位が無く、競争もありません。全ての生徒には平等に入れる場所があります。もちろん、入れやすい場所、入れ難い場所はありますが、出席番号によって全員が納得せざるを得ません。

7 理由をいう必要はない!
 何かを注意する時に、その理由を言う必要はありません。どしても必要な場合は、その問題だけに焦点を絞ります。その問題点から発生する将来や、過去の問題との関連性を理由にしてはいけません。今、目の前にある問題行動から発生する問題点だけを説明して下さい。
「だめ! 自分の場所に入れなさい!」
 これは、幼児の躾レベルなので、理由はいりません。90%の生徒はこれで十分であり、残り5%もこれで十分です。残り5%は次のような声かけや話が必要になりますが、基本は『理由を言わないこと』です。理由は自分で考えるもの、社会から自分で気づくものだからです。それでも、しつこく理由を聞いてくる生徒の場合は、次のように答えてください。へ理屈にはへ理屈返しです。

(ア) どうして入れなければいけないの?
 「理由はありません。自分の番号に入れなさい。」
 「君だけ特別扱いできません。差別も区別もできません。自分の番号に入れなさい。」

(イ) 靴なんてどうでも良いじゃん!
 「あいさつはしなくても良いけれど、靴は入れなさい。」
 「勉強はできなくてもいいから、靴は入れなさい。」
※ 他人に迷惑がかかることを先に中止させ、その次に自分のことについて考えさせます。この場合、挨拶ができなくても他人に大きな迷惑はかからないし、勉強ができなくても迷惑はあまりかかりません。「君自身のために靴を入れなさい」という話し方をしてはいけません。あえて言うなら、「君の靴がそこにあると迷惑だから、所定の場所に入れなさい」と注意します。

(ウ) 隣が空いていているから良いしょ!
 「空いていない人が損します。君だけ得させることはできません。」

(エ) 去年まではどこでも良かったのに!
 「今年と去年は違います。去年が良ければ1人だけ去年に行きなさい。ここは今年の下駄箱です。」

(オ)面倒臭いから嫌だ! と言われた時
 「面倒でも入れなさい。入れられないなら、先生が職員室に預かっておきます。ここは全員が同じように靴をいれる場所なので、特別なことは許しません。靴が必要になったら職員室に取りに来なさい。特別扱いにしますが、特別扱いを望んだのは君です。責任は君にとってもらいます。また、特別なことですから、次も同じになるとは限りません。今回は、とっても面倒臭くて先生も嫌だけれど、職員室で預かります。嫌なら自分で入れなさい。先生は入れません。職員室で責任を持って保管します。」
※実際、このように話をすることはないと思いますが、生徒の機嫌がとても悪く、素直になれない場合は職員室で預かります。このような場合は、授業中寝ていたり、自分勝手な行動が目立つ1日になると思いますが、「靴は靴」として、その点だけの話をして下さい。次のように話をするのは、絶対にダメです。

8 絶対にしてはいけない話
 「靴も満足に入れられないようなら、授業もできるわけがない。」このような話し方をすると、99%の生徒は開き直ります。そして、靴も入れなければ授業もまじめにやらない! とタンカを切ってしまいます。そうした事故を起こさないように、言葉には十分注意してください。靴は靴の問題として、それだけで切り離して指導してください。

9 へ理屈が得意な生徒への話
 「じゃあ、全員が靴を入れなくなったら下駄箱はいらなくなる。そんな状態は絶対にダメです。みんな自分のところに靴を入れるから、下駄箱なんです。想像してみたまえ。君が言うように、全員の靴が外に出ていたらどうなるか。全部が適当な場所においてあって、誰のものか分からなくなって探したり、名前が消えている靴があったり、ひっくり返っていたり、学級も男女も混ざったり、休んでいる人の靴がなくなったり、急いでいる人に自分の靴が踏まれても文句を言えない状態になるなったりしたら、どうするんだ。先生は、そんな状態に責任を取れないね。君が全責任をとるといっても、先生は嫌だね。そんな状態は学校ではない。」
※一般的に、へ理屈に対する返事は、『全員が同じ行動をとったらどうなるか』を考えさせます。

2007年6月10日

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