このページは『Mr. takaによる、若手教師のためのワンポイント・レッスン』です。 |
第5.2章 朝の始業前の指導
3 傘を差さない生徒
─それぞれの常識の世界に生きている─
小雨降る中、傘を差さずに登校する生徒がいます。彼や彼女の肩はびしょびしょ、髪の毛もぺちゃんこになるまで濡れているのですが、それでも傘を差していません。傘を差していないというのは、彼らの手には、ちゃんと『自分の傘』があるからです。その傘を見た先生は、「どうして持っている傘を差さないんだ。わからん子だなあ」と言いますが、皆さんはどのように思われますか。
それぞれの子どもには、別々の理由がありますが、私はある程度の推測ができます。自分も濡れたまま登校する子どもだったからです。次に、いくつかの子どもの背景や理由を紹介しますが、本当のことは子ども自身の口から聞くしかありません。ただし、直接理由を聞き出そうとしてはいけませんよ。理由はともかく、彼らの本心は「雨なんかどうでもいい」だからです。愚問は慎んで下さい。
私の経験から断言できることは、雨を気にしない子どもは毎日が地獄のような生活をしています。地獄と言う表現は大袈裟ですが、「雨に濡れるぐらいは普通」の生活をしています。一般的な生活をしている人からすれば、雨に打たれて数10分歩くことは辛いことですが、それが普通の生活をしている人にとっては普通です。そのような人は、雨に濡れるより大変な生活をしているのです。彼らにとって、制服や靴下が雨でびしょびしょになることは大したことではありません。十分な食事が摂れなかったり、風呂に入れなかったり、両親から暴力を受けていたり、その他もっと大きな身体的苦痛を毎日受けたりしています。あるいは、教師や大人が見えないところで、同じ年頃の子ども達から精神的、肉体的苦痛を受けています。私は、自分自身が虐めらていた経験がありますし、また、このような子ども達が大勢いた学校をいくつも経験しましたので、彼らの家庭環境や生活環境、彼らの気持ちをいくらか理解できます。
2つめのタイプは、友達に配慮して傘を差さない場合です。友達と一緒に2人で登校したものの、友達が傘を持っていない時、自分だけ傘を広げるのは気が引けます。もちろん、1本の傘に2人が入る陽気な性格なら良いのですが、そうでない場合は、多少の雨が降っていても傘を使いません。持っていない友達も「使えば、、、」と口に出すような性格ではないのです。無口でドライな性格な2人なのです。
3つめは、いわゆる突っ張った子どもです。これは、タイミングが悪いだけなので、次の雨天には傘を差して登校するでしょう。
その他にもいろいろな事情がありますが、もっとも多いのは1つめに紹介したものです。傘を差さないことで、子どもは先生や親に現状を報告しています。「助けて」というサインを送っている場合もあるので、見逃さないで下さい。「傘を持っているのに差さないなんて馬鹿じゃないの」というのは言語道断です。彼らに必要なのは雨を防ぐ傘ではなく、心の涙を拭う我慢と希望の傘です。
タイミングを図って、濡れた肩や髪の水を払ったり拭いたりしてあげましょう。目的は、先生が拭いてあげることではありません。毎日の生活にある苦難の雨から身を守るのは子ども自身です。先生は、それを防ぐ傘を準備するきっかけを与え、傘を差す勇気を育てることが仕事です。少なくとも、両目を見開いて彼らの日常を見守らなければいけません。
繰り返しますが、「変な子どもだな」と感じるのは、あなたにその子どもの背景が見えないからです。教師になる人は、一般的な家庭で育つ場合が多いので、変に感じることが多くなります。私から言わせれば、視野と経験が狭いのです。その子どもにとっては、それが普通であり日常であることを肝に銘じなければなりません。教師ならば、自分の常識と経験から判断するのではく、その子どもの生活背景を推測し深く考察しなければいけません。「変な子ども」「変な人」と感じることが多い先生は、もっとたくさんの人生経験を積んで下さい。変な子どもや変人からたくさんの話を聞くことも大切です。
ちなみに、私は「変な先生」と言われていますが、私はそれを誇りに思っています。それに、私の目からは、ほとんどの人は普通に見えますし、一般の人が「変人」と呼ぶ人も「当然かつ自然な人」に見えます。
2008年3月10日
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