このページは『Mr. takaによる若手教師のためのワンポイント・レッスン』です。

第2章 How to 授業

5 授業の初めの挨拶

─授業のための気持ちの切り替え─

 私は教室の扉を開けると同時に、教室内の誰かの顔を見て、片手を上げて「よっ」とか「どうもどうも」とか声をかけます。これは非公式の挨拶であり、授業前の個人的なコミュミケーションです。私の変則的な挨拶をみて、何人かの生徒は同じように面白い挨拶を返してきます。そして、その他の生徒達は、私と友達のやり取りの様子を見て、「今日の福地先生は機嫌が良いな」とか「ちょっと声がかすれているので体調不良かな」とか判断します。

 始業前から、教室内で子ども達と雑談している時は、上のようなことをする必要はありません。もうすでに、子ども達は私を十分に観察しているからです(注意:私が生徒を観察しているのではないですよ)。授業前の準備としてのコミュニケーションは十分できています。私は始業のチャイムと同時に、黙って教卓の前に立ちます。

 教卓の前では、学級委員長の号令とともに始業前の挨拶をします。午前中は「おはようございます」、午後は「こんにちは」、あるいは、間違えた振りをして「おはようございます」です。これは公式の挨拶なので、きちんとけじめを付けます。必ず丁寧語を使うのは、別ページ『朝のふれ合い=挨拶=』で紹介した通りです。

 私は挨拶をしても立ったままですが、生徒は着席します。着席後、全員が口を閉じたまま私の顔を見て話を聴くのが理想です。その状態に近づけるためには、次のようなステップで約束、練習を行ないます。ただし、できるようになっても、1ヶ月持続することはあり得ません。年間を通して、おりに触れて『確認』『やり直し』『練習』をしなければなりません。

1 年度当初の約束
 「授業の初めの挨拶が終わったら、何も喋らないで下さい。先生は授業の初めに話すことを用意してきていますので、まず、先生の話を聴いて下さい。誰かが話をするようなら、挨拶のやり直しをしてもらいます。挨拶は、放課と授業を切り替えるためのものなので、挨拶が終わったら気持ちを切り替えて下さい。自分勝手なお喋りは、授業を始めようとする友達にとって大きな迷惑です。ですから、挨拶をしたら黙って座り、先生の顔を見て話を聴いて下さい。先生は立ったまま、君たちが座るのを見ています。」

 始業前の挨拶は心のコミュニケーションではなく、放課と授業を切り替えるためのもの、儀式です。とくに、互いに頭を下げあう方法は、日本の伝統文化として存続させたいと感じています。

2 年度当初の『公式挨拶』の練習
 「では、さっそく練習してみましょう。号令係は決まっていますか。なるほど、学級委員長ですね。では、号令をお願いします。・・・おはようございます。・・・素晴らしい! 一発で全員よくできました。完璧です。こんなによくできるとは思いませんでした。この調子で1年間、気持ちよく授業を始めましょう。」

3 やり直しの方法1
 「はい! 挨拶が終わってから喋った人、立ちなさい。えっ、それだけですか。もっといた、と思います。先生は怒りませんので自分で正直に立ちなさい。練習するだけです。黙って嘘をつくこともできますが、自分で正直に立たないとダメです。ただ、やり直しをするだけです。こんな簡単なことを面倒だと思って嘘をつくことは、本当に恥ずかしいことです。先生は分らなくても、話しかけられた友達は絶対にわかっていますし、周りの友達も知っています。小さな嘘をついてはいけません。話をした人は、友達に迷惑をかけたのですから、恥ずかしくても反省の意味を込めて立たなければなりません。当たり前のことです。君の反省を見れば、友達もあなたのことを立派だ、と思うはずです。それでは、学級委員長にもう一度号令をかけてもらいますから、まだ立っていない人は立ちなさい。では、学級委員長さんは、『礼』の号令をお願いします。」

4 練習した次の日の、やり直しの方法
 「喋った人、手を挙げて! 失敗しましたね。では練習してもらいましょう。起立! 今日は学級委員長にも迷惑をかけたくないので、自分で声を出して挨拶して座りなさい。・・・(その後、やり直した子ども達の顔を1人ずつ見て、にこっと笑い、そのまま授業を始めます。何ごともなかったようにするのがポイントです)」

5 4の翌日の、やり直しの方法
 「喋った人、起立! ちゃんと立ちなさい。では、自分で練習してもらいます。小さな声でも良いとは言いませんが、いい加減な態度なら、何回でもやり直しです。じゃあ、1回で成功することを祈ります。ではどうぞ! ・・・(その後、にこっと笑うだけで授業を始めるのは、前回と同じです)」

6 ざわざわしている日
 「(学級委員の『起立』の号令で、生徒が立った後)・・・今日はテンション高いから、立ったまま聴きなさい。・・・(本日の授業内容やポイントを説明する)・・・では、号令をお願いします。」


note
 最近、生徒を立たせて礼をするような挨拶をしなくなった。そんな季節も1年のうちに少しはあって良い。いくつかの教育的効果が期待できるからだ。

 生徒は座ったまま私の顔を見る。私は全員静かになるのを待ち、静かになってから「おはようございます」とか「こんにちは」と挨拶する。すると、生徒から大きな声で返事が返ってくる。全員から返ってくるわけではないが、起立・礼・着席の号令を掛けたところで全員から返ってくるわけではないので、実際に声を出している生徒の数だけを比較すれば座ったままの方が多いし、実際に必要なのは、生徒と目を合わせること、静かに心を整えて授業の準備をすることと、声を掛け合うことである。形式が省略されぶんだけ、授業の切り替えが明確になる。

 これは日本伝統の礼の文化を粗末にしているが、形式よりも実質や内容を大切にするという意味において、EU諸国の教育方針に近いものだと思う。私個人としては、一見すると無意味に感じる形式は大好きなのだが、、、

 また、不用意に形式を重視することは学級崩壊など重大な問題に発展しかねない。

以上、2007年12月9日掲載

 始業の挨拶をしない場合  2009年1月11日追記
 始業のあいさつを完全に省略する場合があります。それは、授業の前から熱心に勉強の取り組み、チャイムが鳴っても増々熱が入るような場合です。例えば、『授業の初めに3分間の小テストを行う』ことを予告しておいた時です。とくに、受験を間近に控えた中学3年生後半なら、なおさらです。普段は熱が入らない生徒まで、友達の気迫につられて暗記しているからです。先生は、「みんな集中しているから、あと2分だけ勉強してもよろしい!」と声をかけることは、教育的な配慮です。生徒はすでに放課中から学習を始めているのであり、先生の術中にはまっているのです。先生が来る前から授業が始まっていた、と考えれば良いのです。

 小テストを行った後に、「よく集中できました。人間の一生で暗記力が高いのは中学生だから、今の時期を大切にするように。今日はとりあえず、お疲れ様でした」と一言付け加えれば十分です。

 なお、私は、授業で小テストを行うことは基本的に反対です。小テストに対する私の考えと反対の理由は、別ページで述べます。

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