このページは『Mr. takaによる、若手教師のためのワンポイント・レッスン』です。

第2章 How to 授業

39 歴史の授業(社会科)で時代を実体験する

 このページは、ある偉大な社会科の先生が新任教師に語られた授業法をわかりやすく書直したものです。それは歴史で使われるもので、学習する時代の多様な人々の立場や思いを多角的に議論、思考体験する授業です。これはすべての教科に応用できる部分があると思います。それでは次に、授業レベルの段階を示します。

1 重要語句の読み書き
 テストを無視すれば重要語句を使った会話ができれば良いのですが、中学校の基礎基本は、やはり読み書きでしょう。その意味は知らなくても、正しい読みと正しい漢字を書けることは必須です。

2 語句の意味の理解
 重要語句は、その意味を知れば知るほど記憶が定着します。単純な語呂合わせによる暗記術は、その意味を含めたものが主流です。意味の理解は知的興奮を伴います。また、多くの学習塾はこのレベルの授業を行い、効率良く重要語句を記憶させ、テストで高得点を取ることを目指します。

3 歴史上の語句を現代のものと比較する
 語句を理解する手段の1つに、現代のものに例える方法があります。例えば、『関所』を『高速道路のインター』に例えることができます。生徒は、「なるほど、通行するために通過しなければならないものなんだ」と納得しますが、昔の関所と現代のインターは本質的に違います。似ている部分はありますが、それはほんの一部で、歴史の本質を理解しているとは言い難いものです。昔と現代を比較する方法は、現代から昔をみるレベルです。

4 失われた当時の人々の状況を想像する
 次のレベルは、当時の人々の状況を想像することです。想像する手段としてわかりやすいのは、クイズ形式にして議論することでしょう。例えば、なぜ関所があったのか、その理由を考えてみましょう。さらに、関所を通るために必要なものは何か、関所を通過しようとする人は誰か、農民は通過したのか、関所を通る目的は何か、フリーパスの人はいたのか、などです。いろいろな立場の人を思考させることで、理解が深くなります。

5 先生はクイズの問題を考えよう
 4で紹介たクイズの問題は、無限に考えられます。そのクイズを考えることが先生の仕事です。関所をより深く理解するための問題を考えるのです。できるだけ多様な立場の人々を取り入れること、そして、それぞれの人々の状況が中学生が想像しやすくすることがポイントです。さらに、社会環境の変化まで考察できれば理想的です。前時に学習した時代、次時に学習するさまざま人々の立場や考えがどのように変化していったか思考させるのです。

6 昔の体験を語り合う
 全ての歴史上の事象は、当時の生活に根付いています。しかし、現代は昔と違うので、本当に理解することは100%不可能です。例えば、戦後生まれの生徒は、どんな方法をとっても戦争体験者の体験を100%理解することはできません。しかし、思考体験することは可能です。大切なことは、1つでも多くの立場の話を聞いたり思考したりすることです。例えば、一般市民をひとくくりにすることなく細分しましょう。すればするほど理解は深まります。学校にはさまざな家庭環境で育った子どもが集まるので、彼らの実体験、あるいは、実体験にもとづく思考を語り合えば、戦争の理解は教師の1人の説明を遥かに超えた深まりをみせるわけです。

7 実体験に根づいた知識、理解
 本当の理解は、自分の実体験と結びついたとき、体験者の熱い心に触れたときに生じます。それは、同じ年齢の友達と一緒のほうが大きくなります。中学生のあふれ出る感覚や感情は、先生に劣るものではありません。大声で笑ったり泣いたりすることもできますが、中学生でもしみじみと語ることができます。心にしみ入る言葉にならない声を感じることもできます。ぼそっ、とした呟きを先生が適切に取り上げることで、学級全体の大きく共感することがあります。私が社会科の先生ならそんな授業をしてみたい、と思うのですが、実はもう私の目の前に、そのような心に沁み入る授業を展開されている大先輩が何人もいらっしゃいます。

2012年5月9日

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