このページは『Mr. takaによる、若手教師のためのワンポイント・レッスン』です。

第7章 悩んでいる生徒

3 基本姿勢:君の気持ちはわからない

1 それを経験しているのは生徒本人だけ
 生徒の悩みは多様です。その中には、一般の大人が経験できない大きな問題があります。経験豊かな教員は、さまざまな生徒と関係をもってきたと思いますが、本当の意味での理解はできません。その問題の中で生きているのは生徒本人だけです。時代が変われば、同じ問題でも違う問題になります。

2 私が出会った生徒たち
 以下は、私が実際に出会った生徒たちです。私は彼(彼女)らの話を聴き、家庭訪問し、家庭で話をしてきました。私の5感を最大限に働かせ、生徒の生活環境を感じ取ろうとしてきました。
(1) 自分が生まれるときに、母親が亡くなった生徒
(2) 両親が喧嘩して2人とも行方不明になり、祖母に育てられている生徒
(3) 借金が膨らみ、夜逃げして転校してきた生徒
(4) 小さな夜の酒場で働く母親を手伝い、その調理場で寝泊まりする生徒
(5) 朝食を作ってくれる人がなく、しかも、作る金もない生徒
(6) 夕方家に帰っても、365日、誰もいないことが分かっている生徒
(7) 幼い時の不慮の事故で、後遺症をもっている生徒
(8) 継父から身体的な虐待を受けている生徒
(9) 母親が若い男性と毎晩過ごす小さな部屋で生活する生徒

3 私は、絶対に「気持ちはわかる」と言わない
 上の例をみれば分かるように、その多くはあなたにも理解できないと思います。自分が同じ経験をしなければ、本当の意味で理解はできません。基本的に、生徒の気持ちや心は理解できないことを、あなた自身の肝に命じて下さい。そうすれば、子どもの話を本気で聞く態度ができるはずです。「君の気持ちは分かる」という言葉は封印しましょう。たとえ、わかったような気がしても言ってはいけません。

4 精一杯の言葉「かなり辛いんだね」
 10分や20分話を聞いた程度で、軽はずみに「君の気持ちはわかる」というような大人には、もう2度と本心を話さないでしょう。あなた自身が経験したことがない環境で育った子どもに対しては、「先生は分からないけれど、かなり辛いんだね」と言うのが精一杯だと思います。

5 生徒自身もその両親もわからない問題
 例えば、両親が離婚した生徒について考えてみましょう。両親が出会い、母親が妊娠、出産し、子どもを育て、離婚し、現在に至るまでには長い歴史があります。その長い過程のどこでどう間違ったのか、本当のことは両親にもわからないでしょう。わかっているなら、他の方法があったはずです。つまり、生徒の悩みを理解することは、基本的に誰もできません。そして、生徒が打ち明ける悩みは、生徒自身がどんなに頑張ってもごく一部に過ぎないことを知ってください。

6 深く悩んでいる生徒が自覚しているのは、悩んでいることだけ
 結局のところ、生徒も自分の気持ちがわかっていないから相談に来たのです。先生は、それを受け取ってください。黙って聞くことが仕事です。結論は必要ありません。結論を出すのは、未来の生徒自身です。

2007 june 17

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