このページは『Mr. takaによる、若手教師のためのワンポイント・レッスン』です。

第6章 社会性と育む自然な争い

6 つかみあっている2人を仲裁する方法

1 つかみあっている2人
 2人の意見が食い違うことはよくある話です。穏やかに解決へ向うなら良いのですが、話し合いが全く進まない場合、しだいに興奮していくことがあります。声が大きくなり、2人の間隔が狭くなり、胸ぐら、服、腕、髪などをつかみあいます。初めは「威嚇するだけ」のつもりでも、一発触発の状態へ進展します。そして、話し合いを完全に放棄した者は、暴力によって相手をねじ伏せようとします。これは生徒どうし、生徒対教師、教師どうしでも同じです。

2 暴力によって解決すること
 暴力によって解決することは何もありません。暴力は、初めの原因とは全く違う犯罪行為『傷害の罪(傷害罪、暴行罪など)』です。興奮して分別を失っている2人を発見したら、まず、冷静になること、そして、暴力による別次元の新しい、初めとは違う事件を作らないように強く警告してください。

3 能面のように表情を失った生徒
 私が教員になった1980年代は、「その喧嘩、やめ!」「何やっとる!」「両者止れ!」など、教師の大音声で多くの喧嘩が制止したものです。しかし、2011年現在の様子は違います。教師を無視するというより、誰の声も耳に入らない生徒が増えてきました。周囲の状況が見えないだけでなく、手加減を知らない危険な暴力事件に発展することが多いのです。この時、暴力行為におよぶ生徒の顔は、表情を失った能面のようになっています。眼球が固定し、焦点が合っていないようです。その表情をマナで見た人は、その顔を一生忘れられないでしょう。

4 つかみ合っている2人を仲裁する手順
 以下の手順は、殴り合っている場合にも応用できます。
(1) 制止を呼びかける
 つかみあっている2人を見つけたら、できるだけ落ち着いた低い声で、「止れ〜ぃ↑ どうした↓」「落ち着け!」「その暴力やめよ!」などと言います。大きな声を出すと、その声によって興奮するので、声量は控えてください。そして、2人に近づき、「手を放して、2人とも離れなさい」と言います。この時の注意点は、両者同じように声をかけることです。一方が異常に興奮している場合でも平等に声をかけてください。不公平感を持つと、さらに興奮するからです。なお、「うるせー、黙ってろ」「てめえは関係ないだろう」「あっち行ってろ」となどと暴言を吐いたり、暴力の対象が先生へ移ったときの対応は、別べージ『興奮した生徒に詰め寄られたら』をご覧ください。
 
(2) 目を合わせられるか調べる
 両者の目を観てください。そして、話し合いができるか、どれだけ余裕があるか判断してください。冒頭の声かけで、2人とも先生を見るようなら、興奮の程度は『低い』です。両者の間に両手を差し入れ、生徒の顔を覗き込んでください。先に顔を見るのは、より興奮している方です。そして、「何があったんだ。正しい方が正しいのだから、暴力を使うな。使ったらその時点で、使った方を新しい事件の加害者とする!」と明確に示します。そして、「2人の話をちゃんと聞くから、2人とも放しなさい」と言って2人を分けます。真横から割って入れば、おしまいです。
 
(3) 興奮している場合
 2人とも先生を無視して強くつかみ合っている状態は、よくある興奮状態です。先生は2人の間に割って入り、強い口調で「離せ!」と言います。ただし、大声は絶対にいけません。さらなる興奮を誘うだけです。先生の目的は、暴力事件を未然に防ぐことであり、そのための目標は興奮をしずめること、硬直した筋肉を弛緩させることです。両者の目を見て、興奮している方を確かめます。そして、より興奮している生徒の目を見ながら「何があったんだ」「話してみろ」「先生が聞いてやる」などと声をかけます。事件の発端について何か言うまで、「大丈夫」「オッケー」「しっかり話をすればわかる」「力を入れなくても良い」などと、粘り強く声をかけます。そして、事件の一端を話しはじめると同時に、力が抜けていくでしょう。先生が代わりに聞くことで、興奮が収まっていくからです。
 
(4) どちらか一方の思考が停止し、危険な状態になっている場合
 どちらか一方が完全に状況判断能力を失っている場合は、最終的に拘束します。まず、2人の間にいったん割るように入ってから、「力を出している方を止めるぞ!」と警告し、危険な状態にある生徒の後ろへ回ります。抱きかかえるように後ろから両腕を回し、相手をつかんでいる腕を握ります。この時、腰の位置は生徒より低くし、重心を低く保ちます。暴れた生徒の背中に乗ると、どれだけ腕力がある先生でも振り回わされます。次に、横から生徒を覗き込むようにして、「2人とも力を抜きなさい」と言います。その声で、相手は力を抜くと思いますが、先生が腕を握っている生徒は簡単に力を抜かないでしょう。できるだけ落ち着いた優しい声で、「@@君、先生を見て。先生も力を抜くから、君も抜きなさい」「相手はすでに放しているぞ」と言います。生徒と目が合うようになれば、50%成功しています。ただし、先生を騙して、力を抜いた瞬間に相手を殴ることがあるので注意してください。同じようなことを4、5回繰り返し、十分に力が抜けるまで粘り強く我慢してください。ここで、つかみ合いになった原因を少しでも話すようなら、70%成功です。完全に落ち着くまで最低5分、数10分以上続くこともあります。腕力ではなく、持久力の勝負です。
 
(5) 一方が、一方的に殴っている場合
 すでに一方が暴力行為に及んでいる場合は速やかに拘束しますが、警告は欠かせません。迫力のある静かな声で「暴力をやめよ」「暴力している方を押さえるぞ」と強く警告します。そして、背後から全力で押さえます。小さな生徒なら、飛び乗るようにして押さえても良いでしょう。大きな生徒なら、他の先生が駆けつけるのを待って数人で取り押さえます。メインになる先生は上半身、応援の1人は腰の位置にまたがるようにして、もう1人は両足を押さえます。20分以上、興奮している場合もありますが、体力を使い果たすと自然に静かになります。そして、別室に移動させ、正常な精神状態になるのを待ちます。
 
(6) 2人とも完全に表情を失っている場合
 2人とも表情を失っている場合は、かなり危険です。1人で割り込んではいけません。先生の数がそろうまで、時間を稼ぎましょう。4人以上そろったら、「2人ともやめよ」「2人とも離れよ」と両者に警告を発します。そして、両者の背後から抱きかかえるように、あるいは、両者を壁に押し付けるようにして取り押さえます。そして、「2人とも力を抜きなさい。先生も力を抜くから、とくにかく力を抜きなさい」と声をかけます。ポイントは、先生全員が同じように行動する姿勢を崩さないことです。同じように力を入れ、同じように力を抜いていきます。不平等な声かけは絶対にいけませんし、声をかけずにいきなり押さえつけてもいけません。目を見て安心させることが重要です。睨んではいけません。厳しくも優しい目をして「絶対大丈夫だから」「一緒に離れよう」「先生は約束を守るから、君も守れよ」などと、たくさん声をかけてください。興奮している生徒は、初めは全く聞こえなくても、だんだん聞こえるようになってきます。これは、生徒と生徒がつかみ合っている場合だけでなく、生徒と先生がつかみあっている場合も同じです。警告を与え、興奮している方の目を見ながら拘束します。

5 ポイントのまとめ
(ア) 目をみて、どれだけ話が通じるか判断する
(イ) 全員に、同じように声をかける
 「なんでオレだけに声をかけるんだ」と言われたら、もう一方の生徒に同じように声をかけてください。100%公平な対応をしていることを示すのは、とても重要です。ただし、先生に暴言を吐く生徒に対する対応は違います。別ぺージ『興奮した生徒に詰め寄られたら』をご覧ください。
(ウ) 必ず、警告してから行動する
(エ) 取り押さえる時は、全力を振り絞る
(オ) 常に、落ち着くように声をかける
(カ) つかみ合いになった理由を話し始めたら、目を見ながらしっかり聞く

6 1人でがんばり過ぎないこと
 身体が小さい先生、女性の先生は無理しないようにしましょう。無理して先生が殴られるようなことは絶対にあってはいけません。できる範囲で精一杯の努力をしましょう。声かけをしたり、応援を呼んだり、野次馬の整理をしたりするなど、現場での仕事はたくさんあります。また、どれだけ腕力に自信がある先生でも、暴力はいけません。正当防衛は非常手段です。非常事態は、専門の機関にゆだねるべきです。私は、暴力に対して正当防衛するより、警察に出動を要請する方が教育者としてふさわしい判断だと思います。

2011年1月24日

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