このページは『Mr. takaによる、若手教師のためのワンポイント・レッスン』です。

第6.2章 アドバイス、説教と懲戒

12 教師不信の生徒と関係をつくる

1 『親への不信感』という土台
 生徒が教師不信になる土台は、別ページで紹介した『親への不信感』です。親に対して不信感を持っている生徒は、すべての大人に対して同じような不信感を抱きます。この土台はとても強固で、どんなに優秀な教師でも破壊することは不可能です。まず、生徒の大人に対する不信感は簡単には払拭できないことを認識した上で、可能な限り生徒と関係をつくる方法を紹介します。

2 部活動で同じ汗を流す
 部活動で同じ活動をすることは、信頼関係をつくる上で最高の方法の1つです。同じ目標に向って一緒に悩み、努力することは、本当に素晴らしい時間です。中学校の思い出は部活動しかない、という生徒はたくさんいます。とくに、体育会系の部活動で汗と涙を流すことは、人生で最高の経験ともいえるでしょう。試合に勝った時、チームがばらばらになりそうな時、一緒に励まし合うことは、かけがいのない経験です。ただし、残念なことは、部活動に参加する生徒は限られていること、関係をつくれる先生は部活動顧問に限られることです。

3 偶然のチャンスを逃さない準備をする
 部活動をしていない生徒との関係づくりは、基本的に偶然に頼るしかありません。しかし、チャンスがあったら逃さないようにする心の準備をしておけば、偶然のチャンスがたくさん訪れるようになります。もちろん、学級活動や学校行事もチャンスですが、個人的な関係を教師不信の生徒とつくることは困難です。多くの場合、「私とは関係ない」「めんどうくさい」「塾がある」などと言って、勝手に下校します。

4 個人的な関係をつくる偶然のチャンス
(1)昼放課、意外な場所でばったりと出会った時
(2)授業の自習時間、みんながざわついている時
(3)授業後の誰もいない教室、廊下、下駄箱
(4)先生に呼び出されて何時間も待たせて暇をしている時
(5)学校の帰り道、偶然に出会った時

5 核心について話す
 チャンスを見つけたら、いきなり核心を突いてください。核心を聞くからこそ、心に響きます。生徒はストレートで、回り道を好みません。家庭で大人どうしの騙し合いをうんざりするほど体験しているからです。ストレート1本で攻められることを喜ぶでしょう。以下は、タバコ常習者A君へ切り込み方の例です。A君と私は同じ学年でしたが、授業に行っていないのであまり面識がありませんでした。
 「おっ、久しぶりじゃん! 元気にしてた?」「元気だよ」「で、タバコの数は減ったのか? 禁煙2回目だと言っていたけれど」「もう2週間吸ってない」「すごいじゃん。禁煙続いているんだ。この調子で辞めれるといいね。それからさあ、A君のところってお父さんとお母さんいるの? お母さんいる?」「いるよ」「お父さんいる?」「いると思うけれど、ずっと会っていないよ」「どうして?」「オレが小さい時に、@@へ行って、今はそこに住んでいるらしいけれど知らない。母さんは連絡とっているらしい。」「それは寂しいなあ。最後に会ったのはいつ?」「小学校の時だけれど、覚えていない」「じゃあ、中学卒業したら会いにいったら! 良いチャンスだし、喜ぶと思うよ。僕がお父さんだったら、絶対に嬉しいけどなあ。A君だって、自分のルーツっていうか、自分の父親をみてみたいだろう」「うん」・・・

6 先生から、ヤバい話をする
 不良少年と話をする時、私は自分自身の体験談を話します。私が実際に行った、ヤバいことを、です。私がカミングアウトすると、生徒は同じレベルまで話します。同じ仲間だと感じ、自慢話で競争することがあります。この手法はとても有効ですが、あなたが真面目で悪いことをしたことないなら不可能です。あなたが不良少年だったなら、悪い先生なら、どんどん話してください。とても楽しい時間が過ごせるはずです。彼らはリラックスし、とても安心します。ただし、口が軽い生徒はダメです。一般に、口が軽い生徒は不良グループに属していません。仲間から外されるからです。さて、以下は、私が学校の仕事を終えて地下鉄へ向う途中、公園で仲間とサッカーをしていたB君と偶然であった時の会話です。B君は、いわゆる『ヘッド』でしたが、その時は、遊び疲れて1人公園のフェンスにもたれていました。B君は3年生。私とは違う学年なので面識はありませんが、明るい性格のB君と私は、挨拶だけは交わす関係ができていました。
 「おー、B君じゃない! こんなところで何しているの?」「サッカーだよ」「いいね。B君はやらないの?」「ちょっと疲れちゃったからね。キュウケイ」「そっか。ところでさあ。B君って、かっこいいよね。よくモテるでしょう!」「まあ、それほどでもないけど」「今、彼女いるの?」「今はいないよ」「えっ、それは珍しいね」「先生は今、・・・(ここでカミングアウトする)」

 この後、さまざまな種類のヤバい話をしました。ともて盛り上がり、15分以上話ていたと思います。そして、サッカーをしていた3年生が集り、驚くべき不良行為の自慢話大会が始まりました。B君はヘッドだったので、私はこの学年の生徒とは、それ以来特別な関係ができました。それは、同じ秘密を共有している、いつでも同じ話題で盛り上がれる、という関係です。

7 教師である前に、人としてのルールを守る
 
どんなにヤバい情報が手に入ったとしても、絶対に口外してはいけません。それは教師として得た情報ではありません。信頼しあった人間どうしだから知り得た情報です。それが法律に触れることなら、「それは止めないといけない」とアドバイスしてください。それは真の友人である証です。もし、どうしても他の先生に話さなければいけないように感じるなら、あなたのその気持を生徒に伝えてください。生徒は「他の先生に話して良いよ」「親に話して良いよ」あるいは、「絶対ダメ」と言います。あなたは、生徒と何を話しても構いませんが、無断でそれを口外することは、信頼関係をゼロにします。否、修復不可能にするでしょう。あなたはスパイではありません。生徒を騙すような真似をしてはいけません。今回知り得た情報は2人の秘密としてしまっておきましょう。それは人間としてのルールです。教師という社会的立場による使命感より重い、世界共通の人間の道徳です。

8 絶対に嘘をいわない
 嘘は絶対に言ってはいけません。彼らはとても敏感です。先生の嘘は簡単に見破られるでしょう。そして、1度嘘をついた先生には、2度と本心を言わないでしょう。もし、結果として嘘をついてしまったなら、「ごめん」と素直に誤ってください。わざわい転じて福となる、ことがあります。

2011年1月10日

↑ TOP

[Mr. takaによる若手教師のためのワンポイント・レッスン]
[→home

(C) 2011 Fukuchi Takahiro