このページは『Mr. takaによる、若手教師のためのワンポイント・レッスン』です。

第8章 学校教育を超えた少年犯罪

14 対教師暴力には勇気をもって!

1 対教師暴力とは
 対教師暴力とは、生徒が教師に対して殴る蹴るなどの暴力をふるうことです。刑法の『傷害の罪(傷害罪、暴行罪など)』として処罰の対象になる行為です。なお、精神的なダメージを与える暴力行為については別ページ『生徒からの暴言』をご覧ください。

2 暴力をふるう生徒の背景
 暴力を使うの生徒には、さまざまな背景があります。私は、それを次の4つに整理しましたが、実際はいくつかの要因が複雑に絡みあっています。
(1) ジコチュウ(自己中心的)
 第1次反抗期までの乳幼児にとって、自己中心的な考えや行動は正常なことです。それは健全な成長に必要です。これは中学生でも同じで、ある程度の自己中心的な言動を行い、それを客観的に判断して適切な社会性を身につけていきます。しかし、他人を傷つける暴力行為に及ぶことは許されません。他人の痛みがまったく解らない場合、何度でも同じ失敗を繰り返す場合、すぐにキレる場合は、精神的な障害をもっている可能性があります。保護者も同じ悩みを持っている場合は、専門の病院で診察を受けさせてください。発達障害、ADHDなどの診察結果が出たら、それに応じた教育を行うようにすれば良いことです。
(2) 妄想の世界に住んでいる
 暴力的なマンガ、映画、テレビ、テレビゲーム、各種ゲーム、マスメディアの影響を受け、現実の世界を正しく認識できない生徒がいます。空想の世界と現実の世界が区別できない状態です。特に、どれだけ叩いても痛くない、何度でも生き返る、その他記述できないほど残虐なテレビゲームの世界に毎日3時間以上浸かっている生徒は、かなり危ない精神世界を構築しています。
(3) 腕力だけには自信がある
 体が大きく、筋肉が発達していて、腕力だけには自信がある生徒がいます。保健体育の授業、部活動、校外でのスポーツなどで能力が発揮されれば問題ありません。しかし、十分な環境が整っていない場合、自己主張をする簡単な方法として暴力を使います。
(4) 自暴自棄になっている
 親からの愛情を受けないまま育ち、心が十分に発達できず、自分の心だけでなく身体も粗末にする生徒がいます。自分の進路を真剣に考えはじめた頃に、爆発することもあります。このような生徒は、他校の生徒や卒業した先輩などと喧嘩し、骨折や入院するほどの大怪我をしても何も感じないほど自暴自棄になっています。他人の身体も同じように考えるので、殴ったり蹴ったりすることに全く抵抗を感じません。合わせて、「自分は何をしてもダメだ」と自信を失っている場合がほとんどです。

3 日常的に暴力をふるう生徒
 教師を殴る生徒の99%は、日常的に友達を殴っています。「おまえ、こっち向いたろう。キモいんだって」→ 殴る、「ちょっと来い」→殴る、「肩パンさせろよ」→殴る、何も言わずに→蹴る、などです。殴ったり蹴ったりすることに正当な理由はありません。加害者の気分だけで暴力行為に及びます。殴った理由をたずねると、「イライラしていたから殴った」「イライラしていた時に、声をかけた奴が悪いんだろう」「興奮していたから覚えていない」と返答されることがよくあります。

4 暴行される生徒
 殴る相手の90%以上は、普段ほとんど交流してない同級生や下級生、いわゆる「弱い生徒」です。世間では、これを『いじめ』いいますが、私は別ページMr.takaによる『いじめの定義』で紹介したように、『いじめは憲法の人権に触れる暴力行為であり、加害者は相手を自分と同じ人間とみなしていない』と考えています。大人社会(一般社会)なら、暴行された者は被害届を出し、自分や他人が同じ被害にあわないようにしますが、日常的に顔を合わせる学校では非常に困難です。

5 暴行を受けた教師は勇気をもって決断すること!
 したがって、対教師暴力は、加害者を現行犯逮捕する絶好のチャンスです。前に述べたように、彼らが犯行に及ぶ対象は、現在のところ同級生、下級生(上級生)、教師ですが、この先、保護者(親)や一般人に拡大していきます。教師より先に親が殴られているなら、親が自分の子どもを警察に出すことは一般的に考えられないので、教師が決断するべきです。あなたが殴られるまでに、どれだけ多くの人が悲しい思いをしてきたか。そして、今も恐怖の中で生活しているのか考えてください。あなたの身体できた傷は小さくても、大きな心の傷を負い、トラウマ(心的障害)を持っている生徒がいます。いわゆる「弱い生徒」が負った心の傷を正面から見てください。自分の身体の傷だけで判断してはいけません。

6 教育の場は学校だけではない
 将来、その生徒が凶悪な犯罪者になったら、教育の名のもとに暴力行為を継続させた者が責任をとるべきだ、と私は考えています。暴力を受けた被害者としての教師は、加害者のためにもその暴力の犯罪行為として指摘する義務があります。先生は、学校という特別な場所で犯行を受けた被害者です。先生は、生徒に対して真摯に向き合い、「暴力はいけない」と指導し続けたと思います。自分に誇りをもって、暴力を受けた一般人代表として英断してください。暴力で解決することは、この世界に何もありません。古来より、『殺人と窃盗は法で裁かれる』ことは別ページ刑法を学習しよう! で紹介した通りです。先生1人で頑張ることは、この世の中のためになりません。学校以外にも、あなた以外にも、生徒を教育しよう更正させようする専門の人達がいます。みんなで、よりよい日本社会をつくりましょう。

7 関連機関と密な連絡を!
 詳細な手順は示しませんが、病院、警察、教育委員会、児童相談所など、関連の機関と十分に連絡を取り合ってください。

8 世間やマスコミ
 世間やマスコミから誹謗中傷を受ける可能性もありますが、精一杯努力しているという事実がある限り、先生は胸を張ってください。実態が明らかになればなるほど、世間はあなたに味方するでしょう。マスコミが社会を良くするという目的を持っている限り、大丈夫です。考えてみましょう。もし、地下鉄構内やコンビニ店の中で乱闘している中学生を一般人が止めようとしたら、世間や警察から感謝されるでしょう。これと同じように、私たち教員も日常的に自分の身体を張って、全校生徒のために仕事をしています。

9 典型的な例
 インターネットで『対教師暴力』で検索したところ、『教えてgoo!』に中学生からの典型的な書き込み(投稿日2005年11月)がありましたので、引用します。生徒の声がよく表現できている好例です。著作者は非公開になっていました。

数日前なんですけど・・・
僕の中学ではなぜか他クラスには入っちゃいけないという意味わかんないことを言われていました
でそんな規則守れるかみたいな感じで友達のクラスに入ったらいきなりそこの先生が胸倉つかんできてガンガン押されたりされました・・・その時僕はふとその先生の顔を一発殴っちゃったんです・・・
んでそのあと会議室に連れて行かれて夜まで説教でした・・・しかも親まで呼ばれて・・・・その時なぜか先生達はそのあっちの先生が胸倉つかんだことには話しをしないで僕が殴ったことにしか話しをしてきませんでした・・・
「先生が胸倉つかんだのもちょっと暴力っぽい事やったのもお前のせいだろ」とか意味わかんないこと言ってきて・・・
たしかに殴ったのは僕が悪かったですけどあっちにも落ち度はないのでしょうか・・・
すごくイライラしてます。

10 学校現場における警告は、1度だけ
 生徒が暴力行為に及ぶ状況はさまざまです。例えば、取っ組みあいの喧嘩をしている生徒2人の仲裁に入った先生に対して、興奮のあまり殴り、その途端に「しまった」と反省し、しかも、両親そろって謝罪に来るようなら、ギリギリの通常の学校教育の範囲内です。ただし、保護者が学校の対応に噛み付いてくるなら、即刻決断してください。前にも述べたように、先生以外にたくさんの人(生徒)が泣かされ、恐怖の学校生活を送っている可能性が高いからです。学校の秩序を守るのも先生の仕事です。その先生が暴力行為に屈しているようでは、安心した健全な学校生活は期待できません。なお、このような対応は1回限りです。本人と保護者に約束してください。そして、みんなで約束したことは、他の全員が破っても、先生は絶対に守ってください。この約束はとても重いものです。

2011年1月23日

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