このページは『福地先生の教育の相談箱』です。 |
BOX3 高校の先生
新任で休んでしまった自分の道は?
県下有数の進学高校の新任教師、H1先生からの相談
H1先生からのe-mail
突然のメール、失礼いたします。
横になりながらホームページを拝見し、先生に私の悩みを聞いていただきたく、メールを書くことを決心しました。どうか、アドバイスをいただけたらと思っております。
私は高校の国語教師です。新任で、1年目の教師です。
しかし私は、新採用すぐの5月に朝起き上がれず死にたい気持ちがいっぱいになり、3ヶ月病気休暇を経て、8月に復帰しました。そして今、また1月から2月、休んでしまっています。適応障害、うつ病、双極性障害と、様々医者には言われましたが、焦るばかりです。
1年目といっても、講師として5年間働き、やっと受かった夢の仕事です。本当に嬉しかった。それなのに、どうして今、体が動かないのか、わかりません。苦しさだけです。頑張って教材に向かおうとしても、頭に文章が入ってこないうえ理解出来ないのです。教材研究ができない、授業の組み立てができない、ものすごくつらいです。
それでも周りの先生は「戻ってこい」と励ましてくださいます。でも、私は「もう体がついていかないなら、適性がない。辞めるしかないのか」と思います。子どもたちは、私の夢や生活は関係ないく、きちんと授業ができる先生に授業を受ける権利があるからです。
こんなふうに新任で休んでしまった自分に、続ける道はあるんでしょうか。それとも辞めるべきなのでしょうか。助言をいただけたらと思っております。
よろしくお願いいたします。
福地先生の回答
こんにちは
メール拝見しました。アドバイスになるか分かりませんが、とりあえず、返信させて頂くことが大切だと思い、少しだけ書かせて頂きます。
専門医がつけた病名はさておき、現実は休職中ということですね。過去5年間は大きな問題なく講師をされていた、ことも事実ですね。
とうことは、一般的には、採用試験に合格し、張り切り過ぎてしまった! 喜び過ぎてしまった! ということが主な原因だと思います。問題は「過ぎた」ことのあるのですから、それを回復するためには、「足りない」ことが大切です。今、横になっているのは、「過ぎたことを修正して、正常に戻すために必要な時間」です。以上が、一般的な考え方です。
そして、結論としては、休んでいる理由は「回復するため」であり、辞める理由とは直結しません。今必要なのは、もうしばらく休まれることです。生徒や同僚も大切ですが、人は、まず自分のことを1番大切にしなければいけません。
よろしければ、またメールをお寄せ下さい。
それでは、失礼します。
福地孝宏
H1先生からの2回めのe-mail
メールをいただけて、本当に嬉しいです。こんな早くにお返事をいただけて、本当に感謝しております。
先生の文章を拝見し、確かに、嬉しくて本当に張り切ってやりすぎたのかもしれない、と感じます。部活動の朝練習、授業、部活動、土日は部活動と平日出来なかった教材研究、国語科の先生に一度「頑張りすぎ」と言われましたが、仕事が遅いだけなんです。容量が悪くスローなだけで、改善できたら、続ける道はあるのでしょうか。
今の学校は県下有数の進学校です。授業評価も厳しいです。様々な忙しさについていけない面もあります。自分らしく振る舞えない、わけのわからないもどかしさがあります。当たり前なのに、苦しさを解消できずに悶々としてしまいます。
また、根本的に自分の学力が足りなくて(高校三年生を教えるときなど)必死に勉強していることが、そもそも意味があるのかわからなくなってきていました。今の自分では必死に教材研究するしか仕方ないのに、そこで受験対策を視野に入れながらも興味深い授業をする、という気合いというか、意欲が薄れていき、次第に授業もうまくいかなくなり(と自分でひどく落ち込みを感じてますます辛くなり)悪循環です。
私は、続ける道を選びたいのかすら、わからなくなっています。
何を基準に考え方を前向きに修正すればよいのでしょうか。
見ず知らずの私に、温かい言葉をかけてくださって、とにかく本当にありがとうございます。まずはそれだけでも感謝のお返事を、と思って書いたのに、長々失礼いたしました。
どうかまた、お返事をいただけたらありがたいです。よろしくお願いいたします。福地先生様
H1
福地先生の2回目の回答
H1先生
こんばんは返信が遅れて失礼しました。早速、回答させて頂きます。
1 仕事が遅いだけなんです。容量が悪くスローなだけで、改善できたら、続ける道はあるのでしょうか。
→ 仕事はだんだん速くなりますので、心配ありません。仕事の要領も少しずつ身に付くものなので、心配いりません。2 今の学校は県下有数の進学校です。授業評価も厳しいです。
→ この現実は、誰も変えることができません。受け入れるしかありません。受け入れてあげましょう。3 様々な忙しさについていけない面もあります。自分らしく振る舞えない、わけのわからないもどかしさがあります。当たり前なのに、苦しさを解消できずに悶々としてしまいます。
→ これも現実です。自分自身のことですが、スーパーマンではないので、一気にできるようになることは、ありえません。また、ここで注意したいことは「自分らしさ」です。自分らしさとは何か、本当の自分とは何か、考える必要があります。しかし、休職されているH1先生にとって「考えることはよくない」ので、ここでまた、一般論を紹介させて頂きます。一般に、「自分らしさ」を考えるとき、過去の自分や理想の自分を想定するものです。この自分は、現実に今ある自分とかけ離れていることが多いので、2つの自分が不一致になります。理想と現実のギャップが大きいと、精神的な負荷がそれだけ大きくなるのは当然です。この状態を回避する方法は、現実の自分、今ある自分だけを見て、それを受け入れることです。ほとんどの場合、現実の自分は無力で何もできず、理想の自分とはかけ離れているのですが、それを受け入れ、そこからスタートすることが大切です。全てを忘れ、今の自分をしっかり見てあげること、ゆっくりと休養させ、今褒めてあげられることを見つけてそれを褒めることが大切です。今を、現在をゼロとして、ゼロからスタートすれば、小さなことでも+になります。小さなことを喜び、少しずつ成長させていきましょう。大きな過去を持っていらっしゃるなら、それを忘れて下さい。とても大変なことかも知れませんが、押しつぶされている現在の自分を救うためには、根本原因を取り除くことが不可欠です。ゆっくり、今からスタート。スタートできれば、再出発できれば、ゼロからスタートできれば、何でもできます。怖いものは何もありません。分からないことは分からないと聞き、1歩ずつ進んでいくのです。
4 根本的に自分の学力が足りなくて(高校三年生を教えるときなど)必死に勉強している。
→ 私も若いときは、死ぬほど勉強しました。教材研究ではなく、中学生の教科書に書いてある内容を! です。悲しい現実ですが、そんなものです。まして、高校、進学校ともなれば、私の想像の範囲を超える努力をすることは当然です。学生がしているのですから、教員はその何倍もするべきです。教員である前に、大人なんですから!5 今の自分では必死に教材研究するしか仕方ないのに、そこで受験対策を視野に入れながらも興味深い授業をする。
→ 本当に面白い授業は、内容が良く解る授業です。生徒を笑わせる必要は一切ありません。眉間にしわを寄せていても、完全に納得できれば、最高に面白いのです。これが基本です。それでは、また。少しでもお役に立てれば良いのですが、、、
おやすみなさい
福地孝宏
H1先生からの3回めのe-mail
福地先生
支離滅裂なメールに、すぐに返信をしてくださって、本当にありがとうございます。何度も何度も読みました。寝付けず、天井ばかりみていましたので、書かせていただきました。長文ですが、どうか最後までご覧ください。
先生がおっしゃるとおり、過去を見ないで、一歩ずつ進むしかない。その怖さに打ち勝ちたいです。県の教育委員会の先生方から、3月終わりに「不採用」と言われたら、そのときはまた、
ゼロスタートする。そう思って復帰します。新採用で、「心身に故障」をきたす=不適格。と見なされても仕方ない。大切な子どもたちを育てる仕事ですから。理路整然とした、的確な、しかしあたたかいアドバイス、本当にありがとうございます。
迷いの中ですが、まずは、1日1日を生きることを考えて過ごします。
本当にありがとうございました。
H1
福地先生の3回目の回答
H1先生
おはようございます。正確な数字はわかりませんが、同じように悩んでいる先生は全国で数知れず、H1先生と同じ状況にある新卒の先生も数100人いらっしゃるのではないか、と思います。そのような若い先生方に対して、小さな安らぎ、ささやかなヒントや希望へ向うきっかけになれば、と思います。
それでは、良い1日になりますように!
今日の名古屋は「晴れ」です。
そうそう、ヒトの体内時計は25時間で、それを24時間にリセットする方法は直射日光を浴びることなので、3分で十分ですから太陽の光を浴びて下さい。私も毎日心がけています。失礼しました。
福地孝宏
メールをやり取りした期間:2010年2月
2010年2月23日掲載