このページは『世界自然遺産に指定されたばかりの
父島と毋島を巡る13日間の旅
2012 march.20 - april 1 です。

2012年3月下旬に出会った
小笠原諸島のザトウクジラ

ザトウクジラ
 世界にはたくさんの種類のクジラがいますが、私が出会ったのはザトウクジラ1種類だけです。この季節、無数のザトウクジラが小笠原諸島に集まり、出産、子育てをします。少し遅かったかな、と心配していましたが、たくさんのクジラに出会うことができました。

 その名前は背中の形が座頭(江戸時代に平家物語を琵琶を使って語る人で、盲人が多い)を連想させることに由来します。生物学上の位置は、私たちと同じ哺乳類です。さらなる細分は、鯨偶蹄目くじらぐうていもく>ヒゲクジラ亜目あもく>ナガスクジラ科>ザトウクジラ属ぞく>ザトウクジラ、です。ザトウクジラは種しゅの名前です。

クジラとイルカの区別
 この分類で興味深いのは、クジラ、という位置がないことです。つまり、一般的なクジラ(ホェール)という呼び方は曖昧で、クジラとイルカの区別ができません。大きな鯨偶蹄目をクジラ、小さな鯨偶蹄目をイルカと言いますが、どこから大きくてどこから小さいのか、明確な基準はありません。

 その一方、ヒゲクジラ亜目という分類ははっきりしています。ヒゲクジラはヒゲ(髭)を持ったクジラです。髭は口の中にあり、海水中に生活する小さな生物を濾し捕る『ろ過装置』です。上顎だけについています。これは人間の毛や髭とは違い、皮膚が変化したものです。

髭か歯か
 鯨偶蹄目(クジラとイルカ)は、ヒゲクジラとハクジラに2分されます。ヒゲクジラは『髭』のようなろ過装置を使って比較的小さな生物を濾し捕ります。一方、ハクジラは『歯』で獲物を捕えます。髭クジラと歯クジラは、口の構造や食物の取り方が全く違うわけですね。

 ということで、大きな分類名に「イルカ」という名称はないわけです。髭クジラや歯クジラをより詳しく調べたようとしたとき、初めて「イルカ」をいう名称が登場するわけです。


 以下は、日記に掲載したクジラに関するものを集め、一部加筆編集したものです。

2012年3月23日(金)12:37〜12:19、曇、気温20度C

 昼食を食べている途中に、雄のザトウクジラの群れに遭遇しました。迫力満点です。

上:背中の形が座頭に似ているザトウクジラ


上:尾鰭の方向は潜る方向を示す
 尾鰭や体の方向に注目すると、クジラの進む方向が分かります。そして、尾鰭が垂直になると、クジラは真下に深く潜ります。呼吸間隔は8分〜12分になるので、1km離れた地点で浮上することが多くなります。クジラが安心して遊び、深く潜らなくてもよいように観察してください。ていうか、99%以上は船長さんの腕にかかっているのですが・・・


上:2匹のクジラ


上:大人の雄は、大きくて迫力があります。このクジラの口の下は大きく膨らんでいます。食事をする時は、水中の小さな生物を海水ごとここに入れ、『クジラの髭』といわれるの濾過器で濾し採ります。何もない海水は、もちろん外に出し、生物だけを胃袋にいれます。このような鯨偶蹄目くじらぐうていもくをヒゲクジラといい、ザトウクジラらはヒゲクジラの仲間です。歯はありません。


上:もう1枚上の写真の0.1秒後です。口のすき間から海水が吹き出しています。


上:バイバ〜イ


2012年3月24日(土)午前8時半、薄曇り、20度C

 おっと、クジラ発見! とりあえず、シャッターを押しました。3枚連写です。後から見ると、クジラに見えないようなジャンプでした。

 それから、親とはぐれしまったのでしょうか。子どもクジラが近寄ってきて、まるで母乳をねだるような仕種を見せてくれました。一緒にいたダイバーやスタジオの方によると、こんなに接近して珍しい動作を見たのは初めだそうです。私が大感激しても当然なわけです。どうぞ、その写真をご覧ください。


上:バイバーイ
 小クジラと遊んでいる私たちのボートに気づいて、他のボートが近づいてきました。そろそろお別れの時です。バイバーイ! また逢おうね。

 ベイビーと十分に戯れてから、兄島瀬戸を通って兄島東側へ向いました。この海峡を通過中のザトウクジラの写真を1点紹介します。


上:兄島瀬戸で潮を吹くザトウクジラ(8:50)


2012年3月25日(日)、小雨がぱらつく天気、20度C
 この日は、9時から15時までのホェールウォッチングツアーに参加しました。しかし、私が初めてシャッターを押したのは午前11:18です。天気が悪かったことも一因だと思いますが、クジラは天気に関わらずどこかで食事をしたり遊んだり、10分間隔で呼吸しなければ死んでしまうわけですから、今日は運が悪い日、といえるでしょう。

上:大人のクジラ


上:クジラ3匹


上:300mm望遠で撮影した写真の部分拡大
 ジャンプする瞬間のクジラを見つけ、瞬時にシャッターを押す。ライフル銃で狩猟しているようなものです。良い写真を撮るためには、よいカメラとよい技術が必要ですが、写真という結果が残るのでとても楽しいです。もっと良い機材を使えば、切れ味のよい画像になるだろうな。


上:2匹


上:ザトウクジラが船の真下を通過するところ
 船尾から水中に腕を突っ込んで撮影しました。急なタイミングだったので、ハウジングとワイコンの間に入った水が画面左上に写っています。ザトウクジラは、画面右上から左下へ向って泳いでいます。


2012年3月29日(木)午後0時半頃、曇、強風、22度Cぐらい
 ははじま丸で母島から父島に向う時、毋島周辺で何度もクジラに出会いました。遠くなので望遠レンズで撮影するしかありませんが、シャッターチャンスはたくさんありました。


上:ザトウクジラも手を振ってくれました


ホェールウォッチングに関する率直なアドバイス

1 ツアーに参加するべきか
 ボートダイビングの予定があるなら、わざわざクジラ観察のツアーに参加する必要はありません。ダイビングの予定にクジラ観察が組み込まれていなくても、目の前に現れたクジラを見逃して走り去るようなことは通常ありません。ポイントに行く途中、ダイビングの休息中、ダイビングからの帰りにクジラに遭遇することになるでしょう。海を愛する船長は、クジラを見つければ時間を都合して向います。仲がよいショップ同士は無線で連絡を取り合っていますし、クジラがいるところには何艘かの船が停まっているものです。あなたの船長がポイントに直行するなら、クジラ観察のために寄り道をしているショップのボートの名前をチェックしましょう。船体に書かれた名前を読んだり、港に停泊しているボートの特徴から割り出すこともできますが、「あれはどこのショップのボートですか」と質問すれば良いだけのことです。この他、ボートを使って移動するツアーに参加する予定があるなら、わざわざ『ホェールウォッチング』と明記してなくても大丈夫です。南島ツアーやドルィンスイムツアーなどです。クジラがいれば見る、見ればお客さんは喜ぶ、喜んだお客さんはリピーターになり、評判がよくなるものです。私が利用したパパスさんはお勧めです。料金は若干高めですが、金よりハートでしょう。

2 クジラが観察できる季節
 毎年、微妙に違います。ネットで最新情報を入手しましょう。現地の人に訊ねるのも良いと思いますが、ホェールウォッチング専門店よりダイビングショップの方が客観的な情報をくれるでしょう。クジラがいなくてもお客さんは来るわけですからね。

 良い季節なら、クジラは毎日見られます。クジラはわざわざ小笠原に来ているわけです。広大な海で、小笠原を選んで来ているわけですから大丈夫です。ただ、季節が終ればいなくなります。それだけのことです。

3 撮影機材
 シャッターを押した時に写るカメラが欲しいです。あっ、と思った時には若干遅いので、カメラを構えたまま海を見つめ、クジラの動きを予測してシャッターを押す必要があるからです。できるなら、1秒間に5コマ以上連写したものです。それでも決定的なものは1枚あるかないかです。

 望遠レンズは300mm(標準50mmの場合)ぐらいが欲しいです。肉眼より6倍アップになるレンズです。最近のコンパクトカメラはとんでもない倍率になりますが、画質が粗くてがさがさになったり、手振れがひどいものがあるので、よく調べてださいね。なお、私の撮影機材は、ニコンD700、80-200ズームでした。本当はD300を持っていく予定でしたが、間違えてしまったのです。

4 防寒具
 風が強く、海水が衣服にかかります。したがって、雨合羽が必要になりますが、ほとんどの船は常備してあるので、事前に確認してください。これは体調管理のためにも必需品なので、無料で装備してある場合がほとんどです。ただし、ダイビングボートの場合は違います。海に潜るダイバーを想定しているので、持参してください。もちろん、オシャレなウィンドブレーカーでも大丈夫です。私は自前のブレーカーを着て、必要の応じて合羽を重ねました。

5 持ち物
 帽子、サングラス、日焼け止めは必須です。双眼鏡はあっても悪くありませんが、覗いていると1分で船酔いの可能性があります。地元の人で、双眼鏡でクジラを探す人はいません。発見したクジラを見るとき利用できますが、私はカメラのファインダーに集中していました。揺れるので大変した。

 おっと、その他の持ち物は、飲み物、食料。酔い止めは事前に飲むものだから不要かな。お湯を準備しているボートが多いので、昼食にカップ麺を食べるもの悪くありません。現地に行けば、カップ麺の偉大なる存在感がわかります。

6 雑 談
 正直なところ、ホェールウォッチンは期待していませんでしたが、凄かったです。最も大切なのは運ですが、手が届くところまで近づいてきた時は、本当に感激しました。写真右を良く見ると、クジラの目が写っています。この子は、僕達を見ていたのではないかと思うと、今でもぞくっ、とします。その時は、キャー、可愛い! うそうそ! まじー、まじー! と連呼しなが拍手喝采を送っていたのですが、水中ではその様子を聞くだけじゃなくて見ていた感じです。逆ウォッチングで、くじらちゃんに1本やられたな〜。それから、僕の顔を覚えてくれたかな。顎ヒゲのおじさんです。あ、僕は2階で撮影していたから、これは遠くの珍しい人間と目があった瞬間かな。サンキュ。そして、またね。
 

↑ このページのトップへ


home (c) 2012 fukuchi takahiro