第5章 クロッキー心理学
感情を消し去ったポーズ1 はじめに
このページでは2001年11月15日のクロッキーを分析します。その動機は2つです。1つはクロッキー当日のnote に『感情を消し去ったポーズ』という語句が記されていたこと、もう1つは当日の私が悪戦苦闘の末、それを作品として発表できたことです。この日のモデルと作家を分析すること、すなわち、モデルが感情を消し去る過程と意味、および、作家(私)それを作品化する方法とプロセスを考察することは、感情とクロッキー作品の表現を理解するのにとても良い例だと思ったからです。
クロッキー当日のnote
最後はモデルが「感情を消し去ったポーズ」をとった
私はデッサンをしたけど、それは形だけだった
空虚なものを感じたが
それは存在を消し去ったものではなく、ただの無意味だったモデルを見直すと、そこには意味がある
意味と無意味と存在
自分とモデルの関係は存在しなかった
感情がないからだでも、感情のない作品は私の中に存在しない
時間は30分以上経過していた手を洗った後、もう一度画面を見直して茶色の部分を加えた
無意味で感情のない存在が意味を与えた2 当日の作品
その日の作品は、現在3点(図1〜図3)残されています。支持体は、ワイト・ジェッソやアクリルを使って地塗りした大きな白ボール紙(1103mm x803mm) です。この他に何枚か小さな紙に描いた可能性もありますが、これらの形式と内容から、3枚が全てだったと思います。
1103mm x803mm
全判ボール紙(ホワイトジェッソ、アクリル)
コンテ鉛筆、色コンテ、リキテックス社のアクリル
モデル:r
図1 15分→
図2 25分→
図3 35分3 3つのポーズ
次に、図1〜図3を1つずつ観ていきます。まず、それぞれのポーズを分析し、次にその意味を推測します。興味ある人は、モデルと同じポーズをとってみて下さい。ポーズと感情は互いに切り離せないことがわかるでしょう。。4 モデルの心の動き
図1は安心感から生まれた喜びを感じますが、図2では感情の興奮が消え、穏やかな安定した精神状態になっていくようです。そして、図3では身体を横たえ、全身の筋肉を弛緩させ、忙しく動き回っていた精神を完全に停止させいます。この3つを通して、モデルの心がゆっくりと鎮静していくことが判ります。ポーズの目的は、心の安らぎを得て、疲れた心、エネルギーを失った心を充電することです。最終的な完全な脱力、および、意識の停止は、ごく自然な心身の動きの1つです。これを促進するのはクロッキーの効果の1つだと思います。5 意識や感情を感じないポーズの描き方
最後のポーズ(図3)は、モデルの意識や感情を感じることができません。そこで、私はモデルの形態を追うデッサンをしました。しかし、その結果画面に現れたのは『空虚で無意味な形態』です。予想された結果ですが、重要なものが抜け落ちている気がしてなりません。モデルを見直すと、そこにはモデル存在している、という揺るぎない事実がありました。モデルが今ここに存在している意味と価値がありました。いつもの私なら、ここでクロッキーを諦め、途中まで描いたものを廃棄していたでしょう。しかし、モデルが眠ってたからでしょうか、モデルは私が手を洗いに外出したことに気づきませんでした。私はこの幸運を使い、茶色のコンテで『影』を描きました。それは、私が黄色で描いたモデルを照らす光の対極であり、モデルが光を遮ったことによってできた影です。モデルを照らす光とモデルが作った影、その両者を描くことで、私は感情を持たないモデルを描くことに成功したのです。空あるいは無が、モデルの存在を際立たせたのです。と、たいそうなことを書きましたが、作品の完成度としてはかなり低く、辛うじて廃棄処分を逃れたレベルです。6 比較して欲しいページ『モデルを光源として見る』
通常の私は『モデルを光源』として描いています。光源とは、自ら光り輝くもの、内側から光を出すものです。2010年5月1日公開