第4章 Fのクロッキー技法
70分クロッキー1 70分クロッキーって何?
70分で1枚のクロッキー※を描くことを、70分クロッキーといいます。休息を挟んだり集中を逸らしたりしたら、その時点で終了です。したがって、ある1つのポーズを速写するために作家とモデルが協力し続けるなら、何時間でもオッケーです。私の記憶では、最長記録は2001年10月6日に行われた70分クロッキーです。30分以上連続して描いたことは何度もありますが、途中で集中が切れまま続けると、失敗作として廃棄されてしまうのです。
図1(右図):70分で描いたクロッキー
1103mm x803mm
地塗りしたボール紙、コンテ鉛筆
(クロッキー作品群2001 Oct 6から)
※私は『クロッキーは休息を挟まずに連続して速写し続けること』と定義しました。
(参考ページクロッキーとは、Fって何?)2 長時間クロッキーは1対1で
30分以上のクロッキーは、個人的に描く場合に限られます。理由は2つあります。1つは、初めから長時間ポーズを依頼すると、固定ポーズのような緊張感のないポーズになるからです。もう1つは、数多くの作家が連続して30分以上1つのポーズに集中し続けることは困難だからです。私が個人で行う場合、タイマーを使わず3分〜10分毎に次のポーズを依頼するようにしています。そして、長時間描く方がよい時、どうしても私が長時間描きたい時に描きます。多くの場合、そのポーズは筋肉に負担がかからない寝ポーズになります。.
3 浮遊する意識を見る
私が長時間クロッキーをしている時に共通して感じることは、誰とも交わることのない1つの意識の存在です。それはモデルの肉体から完全に離れ、独立した意識です。その意識は浮遊し、独自の時空間に存在しています。通常のクロッキーにおいて、私はモデルの意識とシンクロさせるようにしますが、長時間を選択した時は違います。他の一切と関係を持たないモデルの意識がテーマなので、私は、ただそれを追うだけです。作家はモデルの自由な意識を認知し、観察し、描き続けます。図2(右図):40分クロッキー
1103mm x803mm
地塗りしたボール紙、コンテ鉛筆
コンテ鉛筆1本で描いた。描き終ってから30分背景処理をしたけれど、意味がなかった。
(クロッキー作品群2001 Oct 11から)
. 4 長時間クロッキーのある共通点
3のような方法でクロッキーすると、その結果としての作品は『ある共通点』を持ちます。それは哲学的問題『人間とは何か』『生きるとは何か』を考えさせることです。私はクロッキーという描画行為をしているのですが、それ以上に、言語を使って思考します。非言語による『クロッキー』と言語による『思考』。これら2つの対決はとても興味深いので、長時間クロッキーのチャンスがあるなら、絶対につかまえるべきです。
5 時間を使っていろいろな方法を試す
長時間だからといって、モデルの意識が常に浮遊するとは限りません。単純にモデルが寝てしまったり、作家の勘違いで長時間になってしまうことがあります。図3は、図1と図2と同じモデルを描いたものですが、このうつ伏せポーズの意識は私に向けられていました。しかし、私が何らかの絵画的表現を試みようとして時間が長くなってしまったようです。その証拠に、次のポーズは私に微笑みかけています。
図3(右図):40分クロッキー
1103mm x803mm
地塗りしたボール紙、コンテ鉛筆
描いているうちに私は時間の感覚を失い、モデルは足の感覚を失っていた。
(クロッキー作品群2003 April 10から)2010年4月26日公開
5を加筆、2010年4月29日