染色体を数える

 減数分裂で染色体数が半分になることは、直感的にわかります。しかし、ふつうの体細胞分裂でも変わらないのは何故でしょう。分裂なら半分になるはずです。細胞の大きさは半分になるのに、どうして染色体は半分にならないのでしょう。これは私自身20年近く曖昧にしてきた問題ですが、ようやく解決しましたので、悩める中学校教師のみなさまに報告させて頂きます。

 いきなり、結論を申し上げましょう。染色体数をかぞえることはほぼ無意味であるだけでなく、混乱を招きます。細胞分裂で着目すべき点は、DNA量とDNAの変形にともなう名称の変化です。染色体は、DNAの1つの特殊な形に過ぎません。もし、あなたがどうしても染色体を数えたいなら、染色分体と二価染色体の意味を知る必要があります。

 このページでは、これから体細胞分裂における染色体の数え方を説明します。初めにDNA、次に染色分体と染色体について説明します。二価染色体は減数分裂だけにあらわれる形なので、次のページで解説します。ここでは中学校で観察可能なタマネギの細胞分裂(体細胞分裂)の写真を使いながら、生徒から質問されやすい染色体と染色分体の違いと数え方を中心に説明します。

 まず、DNA量の変化はとても明快です。ふつうの体細胞分裂では半分になり、減数分裂では分裂が2回連続して行われるので1/4になります。とても単純ですね。一方、DNAの変形にともなう名称変化は複雑です。名称を覚えるためにはDNAの基本構造、二重螺旋のDNAを理解するのが先決です。ただし、本当に理解するのは大変なので、表1を一通り見て分かる範囲で構いません。その次に、細胞分裂にともないDNAがさらに複雑になった形に与えられる名称、染色糸、染色体、二価染色体、染色分体を覚えて下さい(表1)。

表1 DNAの変形にともなう名称の変化

二重螺旋構造

DNA

(いわゆるDNAです)
・細胞(生命)を決定するもの
・すべての遺伝情報そのもの
・核やミトコンドリアなどに存在する
・日本語でデオキシリボ核酸という
・化学的な構造は、基本単位となる(リン酸)+(糖、デオキシリボース)+(塩基)が長くながーく繋がったものが2本、向かい合い、しかも、ねじれた形で結合している(二重螺旋構造)。
・基本単位3つで、1つのタンパク質を決定する
・タンパク質は20種類しかないが、タンパク質の組み合わせによって、とても複雑な体(細胞)の構造ができていく

・ある体(細胞)の構造を決定するものを遺伝子という
・1本のDNA上に数百程度の遺伝子がある
・ヒトのDNAの数は23本
・ある生物の遺伝情報のセットをゲノムという(ヒトは23本のDNA、タマネギは16本のDNA)
・基本構造の塩基部分には、アデニン(A)、チミン(T)、シトシン(C)、グアニン(G)のいずれかが入るが、AとT、CとGは必ず対応している
・糖の部分が(
リボース)になっているものをリボ核酸(RNA、二重螺旋構造)という
染色糸 ・細胞分裂前期において、二重螺旋構造のDNAが変型し、光学顕微鏡で見える程度に太くなったもの。太くなる理由は、長い糸のままでは分裂し難いので、簡単に分かれられるよに小さく折り畳んだ、と考えれば良い。
染色体 ・細胞分裂前〜中期において、染色糸がさらに太くなり、分裂するための準備を完全に整えたもの。くびれている部分を動原体という。なお、染色体が2つに分かれたものを染色分体というので、染色体は染色分体2本がひっついたもの、と考えることもできる。
・ヒトの染色体の数は46本
二価染色体 ・染色体と同様、分裂するための準備を完全に整えたDNA。ただし、これは減数分裂の第1分裂前〜中期だけに形成されるもので、DNAの一部に組み替えが行われる。理由は、同じ親からでも、多様な精子や卵子を生み出すためである。また、誤解を招かないように注意した上で単純に考えるなら、二価染色体は染色分体2本がひっついたもの、あるいは、染色体が4本ひついたものとなる。
・ヒトの染二価染色体は23組
染色分体 ・細胞分裂後期において、染色体が2つに分かれたもの。終期には二重螺旋構造のDNAに戻る。また、減数分裂では第2分裂後期だけにあらわれ、終期には二重螺旋構造のDNAに戻る
・ヒトの染色分体は46本(減数第2分裂は23本)

 表1を十分に理解できなかった人も、次の写真2を見て下さい。これは観察6 細胞分裂22004年で観察したタマネギです。市販のプレパラートを利用したのですが、早い生徒は数分以内に見つけることができました。もちろん大喜びで先生のところに駆け寄ってくるでしょう。先生から説明したもらった通りに、核内のDNAがいろいろな形に変化しているからです。みなさんも、この感動をたよりに少し頑張ってみましょう。写真2をクリックすると拡大するので、じっくり観察して下さい。


写真2 細胞分裂をしていいるタマネギの根の先端部 画像をクリックすると拡大します

 さて、写真2の中から染色分体と染色体を選びます。図表3に、それぞれの模式図を示しました。ただし、実際の写真では潰れたり、斜や横から見ている場合がほとんどなので、下のような形には見えません。

図表3 染色体と染色分体の模式図

染色体

0

染色分体
1 前期に形成される
2 中期になると中央に並ぶ
3 整列完了時には、染色分体になっている
3 中期以降、染色体が2つに分かれたもの
4 後期、いわゆる細胞分裂らしい姿をみせえる
5 終期に消滅する(DNAに戻る)

 それでは、正解を下に示します(写真4)。染色体16本(前期)、染色分体(後期、終期)です。その他にも、面白い形態をしたDNAがたくさんありますが、どれがどれであるか明確な答えを出すことはできません。細胞分裂は連続して起こっているからです。ですから、生徒から質問された時は、もっとも典型的な形態をした中期と後期に限定して下さい。そもそも、このページを書いた目的は、染色体という言葉に惑わされないようにすることですから、とにかく中期と後期、染色体と染色分体を見分けて下さい。前期や終期については、「へー、面白いね。DNAが変化しているね。細胞質が別れ始めているね」と説明して下さい。


写真4 染色体と染色分体

 次に、染色体と染色分体の本数を調べます。写真3、4から数えることは困難ですが、詳しく調べると、それぞれ16本ずつであることが分かりました。

 大きな団子を2つに分ける(染色体と染色分体の関係)

 ある保育園での話です。A君とBさんが粘土で遊び始めました。2人は16個のお団子を作り、それぞれに絵の具で色をつけていきました。色とりどりの16個のお団子が出来上がりました。とても上手にできたので2人は大喜びです。やがて帰る時間になり、2人はお団子を分けることにしました。8個ずつ持ち帰ることもできたのですが、どうしても16色欲しいのです。2人は、それぞれの団子を小さな半分の団子にし、色を塗り直して持ち帰りました。
 この例え話では、初めに作った16色のお団子が染色体であり、小さくなった16色のお団子が染色分体です。

 最後に、図5と表6を示してこのページを閉じます。図5は体細胞分裂における核内の変化(DNA→染色体→染色分体→DNA)、図6は表5を文で表したものです。これで体細胞分裂における説明は終わりますが、減数分裂について知りたい方は、次のページにお進み下さい。→ 減数分裂におけるDNAの変化執筆中

図5 体細胞分裂における核内のDNAの変化

表6 体細胞分裂の段階

間 期  DNA量が増加
前 期  DNAが変形する(DNA→ 染色糸→ 染色体
中 期  染色体が中央に整列
後 期  染色体が2つに分かれ、染色分体と呼ばれる
終 期  染色分体DNAに変形し、細胞質が2つに分かれ、2つの娘細胞ができる
間 期
ふつうの期間です
 DNA量を増やしながら、次の細胞分裂を待つ

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(C) 2005-2011 Fukuchi Takahiro