このページは、Mr.Taka 中学校理科の授業記録:化学 3年(2001年度)です

実験16 中和するときのイオン量
              
 2001 6 12(火)

今日も難しいけれど、頑張りましょう。
3年生の化学実験はこれで終了です。
しかも、電流計も使うので、中学校理科の集大成の1つとも言える実験です。


(上:終業のチャイム直前、本時の発見や感想をまとめる生徒達)


<授業の流れ>
1 実験の目的(1分)

 前時は、水酸化バリウムに硫酸を加えて中和させ、生成した沈澱物の量から酸やアルカリの量を推測しました。本時は、水溶液の電流の流れやすさを電流計を使って測定することで、より科学的にイオン量を推測させます。
実験の理論
水溶液 電流の流れやすさ(液性) 水溶液中のイオン
水酸化バリウムだけ (強アルカリ)

Baイオン・水酸化物イオン

少し硫酸を加える (弱アルカリ)

硫酸=水酸化バリウム (中 和) イオンは存在しない



Hイオン・硫酸イオン

さらに硫酸を加える (弱酸)

もっと硫酸を加える (強酸)

 ※実験装置と手順の説明をした後、結果の予想をさせます。

2 実験装置と手順の説明(12分)
 前時に行った実験と同じなので、生徒は口頭の説明でイメージできるだろう。しかし、電流計の使い方は、黒板で図示しながら説明した後、実際の電流計を黒板にあてがいながら、次の点を確認する必要があります。回路は非常に簡単に見えますが、実際に組んでみると、長いリード線がからみ合って上手くいかないことが多いようです。

<直流電流計の使い方>
・ 直列につなぐ
・ 端子のプラスマイナスに注意する
・ 
プラス端子(赤)は、1つしかないので間違うことはない
・ 
マイナス端子(黒)は、500mA端子に接続する
・ ただし、中和点に近づいたら50mA端子、硫酸を過剰に加えたら5A端子に変えても良い

<準備するもの>
・ 電源装置(
直流5V
・ 直流電流計
・ ステンレス電極
・ リード線(3本)
・ 100mlビーカー
・ 水酸化バリウム水溶液(50ml)
・ 硫酸水溶液(60ml)
・ 駒込ピペット(2ml、5ml)
・ ろ紙

 電圧の大きさは調整が必要です。水溶液の濃度、2つの電極の距離、その他の条件により、変えて下さい。予備実験をして、ある程度の値を調べておくことも必要ですが、それより、演示実験しながら適切な大きさを求める方が良いです。実験装置の組み立て方が分かるだけでなく、グラフの書き方、実験の操作方法まで説明できます。次に、説明の例を紹介しますので、参考にして下さい。もし、電流の大きさを調節できる高性能電源装置があるなら、電圧の大きさではなく、電流の大きさが400mA- 500mAになるように調整させて下さい。



<電圧の大きさの説明例(5分)>
 「実験装置の図は書けましたか?・・・ほとんど書けたようなので、大切なところを説明します。後にも時間があるので、まだ書けていない人も説明を聞いて下さい。それでは、全員鉛筆をおいて黒板を見なさい。」

 「大切なことは、電源装置の電流です。失敗する方法は、切り変えスイッチを間違えて『交流』にすることです。交流はプラスマイナスが1秒間に60回入れ変わるので、プラスマイナスがありません。駄目です。/ 次の失敗方法は、実験の途中で電流の大きさを変えることです。ふざけるのが得意な友達がいる班は、注意して下さい。/ 最後に、電流の大きさですが、目盛りの都合で500mA、にします。電流計を見ながら、電源装置を調節し、電流の大きさを500mAにするだけです。中途半端なボルトになると思いますが、学習プリントにその値をメモしておいて下さい。しかし、それでは分からない。何Vかはっきりして欲しい、という人がいるので、そういう人のために先生がお勧めのボルトを設定してあげましょう。」

 「実際にやってみますよ。まず、100mlのビーカーに水酸化バリウム水溶液を50ml入れて、それに電極を入れて電流を流します。・・・ほら、遠くの人は見えないかも知れませんが、電圧を上げれば電流も上がります。ほらね、電源装置のつまみを動かせば、電流計の針も動きますね。当然です。/ それで、えっと、電圧の大きさを決めるのでしたね。電流計の針を500mAにすると、あっ、それでは駄目か。班によっていろいろ条件が異なると思うので、400から500の間になるようにしましょう。もう1度やり直します。電源を切って、つまみが0になっているか確認してから、電源を入れて、つまみをゆっくり回します。そして、電流計を見ると、・・・100、200、300、針が動いてきました。良い感じです。そして今、400mAを超えました。この辺りにしておきましょう。それで今の電源装置の値を読むと、5.7ボルト。ですから皆さんへのお勧めボルトは、5ボルトにます。針が振り切れると話になりませんからね。もちろん、自分達で500mAを調節できる人は、何Vでも構いません。学習プリントに、実験に使ったボルトをメモしておいて下さい。」

<グラフの書き方の説明例(5分)>
 「ついでにグラフの書き方も説明しておきましょう。今日の学習プリントは方眼用紙に印刷してありが、もちろん、グラフを書きやすくするためです。横軸に加えた硫酸の量(ml)、縦軸に電流の大きさ(mA)を書いて下さい。1目盛りの間隔は、横軸は1センチ10ml、縦軸は1センチ100mAが良いと思います。小さく感じる人は、もう少し大きく書いて大丈夫です。」

 「さて、ここに、先ほど皆さんにお勧めした電流計の値、5ボルトの時の電流の大きさを書いてみましょう。/ Aさん、読んで下さい。・・・422mA。そうです、さすがにAさんは正確に読んでくれました。この値を、グラフに書き込むと、硫酸は0なので、縦軸422mAのところに点を打ちます。・・・えっと、ここです。あっ、皆さんは自分の実験結果を書くのですから、書いてはいけません。見ているだけです。」

 「ちなみに、素早く硫酸を5ml加えた時の点も書いてますしょう。/ こうやって、5mlの駒込ピペットで硫酸を加えてから水溶液をよく掻き混ぜ、再び電極を入れて測定すると、・・・ Aさん、もうお願いします。・・・370mA、ありがとうございます。これをグラフに書くと、硫酸5mlのときに370mAだから、ここになります。こんな風に、硫酸を5mlずつ加えていきます。」

3 電流の大きさの変化を予想させる
 予想1 硫酸を加えていくと、電流の大きさは?
 → ほぼ100%の生徒が「小さくなる」と予想した
 → 正解です
 → これまでの説明が原因です

 予想2 中和点の時、電流の値が0になるかならないか?
 → 80%の生徒が「小さくなる」と予想する
 → 正解です
 → ここで次の点を確認する

<中和点近くのグラフの書き方>
・ 各点は、直線ではなくなだらかな曲線で結ぶ
・ 中和点に近づいた時、急に変化するので注意する
・ 実際は、中和点を見つけるのは非常に難しい(生徒は、前時に経験している)
 ・ 中和点に近づいたら、硫酸は5mlずつではなく、1mlずつ、あるいは、それより少なくする


 予想3 硫酸をどんどん加えると、初めの値より大きくなるか?
 → 80%の生徒が「大きくなる」と予想した
 → 正解です


4 生徒実験

 ・ 中和できた班は、クラスに1つか2つだけでした。
 → 中和に近づいた班には、個別にアドバイスし、硫酸の量を調整させて下さい

(上:ほとんどの班は、正しく実験装置を組み、電圧を5ボルトに設定して実験開始。)
・ この班は、5ボルトのとき、400mAになっています。
・ ちなみに、この班の電源装置は電流の大きさも分かるタイプなので、電流計を使う必要はありません。


5mlの駒込ピペットで硫酸を加えていきます


(上:まだまだ水酸化バリウムが強いようです)
・ ちなみに、この班の電源装置は旧式なので、必ず電流計が必要です。


さらに、硫酸を加えていきます


(上:硫酸を過剰に入れて終了。)
・ 電流は、ばんばん流れす
・ 白い沈殿物(硫酸バリウム)ができています

4 実験結果のグラフ化と考察
 各班の代表者には、初めの電流計の値(mA)と、中和した時に加えた硫酸の量(ml)を黒板に発表させました。この2つを確認すれば、その班が上手くいっているかどうか分かります。(写真下)

5 本時のまとめ
 1 グラフに各点を記入させます
 2 中和しなかった班にも、中和したであろう点を推測させます
 3 各点をなだらかな曲線で結ばせます
 4 青、緑、黄の色鉛筆を準備させます
 5 次のように説明し、本時の実験をまとめます

(上:Bさんの班は電圧7ボルトで実験を開始した。また、硫酸28.5mlで中和した。)

<説明の例(5分)>
 「まず、中和点から確認しましょう。何色にしますか?・・・そうですね。緑が良いですね。緑色で、ぐるぐるぐるっと、点を打って下さい。そして、中和点、電流が流れないから電流=0と書きましょう。」

 「そして、これが重要ですが、中和点には、どんなイオンがあると思いますか?・・・えっ、違います。・・・何?、違うよ。落ち着いて下さい。中和点では電流が流れていないのだから・・・イオンは・・・イオンは電気を帯びた原子で、電流を流す原因になっていたものですから、中和点では?・・・そうですね。イオンはありません。大丈夫ですか。しっかりプリントに書いて下さい。」

 「次に、中和点の左側に色を塗ります。何色にしましょうか?・・・そうです。青ですね。」

 「では、この青色ゾーンには、どんなイオンがあるでしょうか?これは難しい問題なので、C君に答えてもらいましょう。はい、C君!・・・さすがです。正解です。みなさん、答えは聞こえましたか?ここは青色なのでアルカリ性です。つまり、水素イオンではなくて、何イオンがあるのですか?みなさん、答えて下さい。・・・そうですね。水酸化物イオンがあります。そして、ここは水酸化バリウムががあまっているので、水酸化バリウムが水に溶けた時にできるもう1つのイオンがあります。みなんさん、答えて下さい。何ですか?バ、・・・そうですね。バリウムイオンです。では、ここまでプリントに書いて下さい。できた人は、中和点の右側について、同じように色を塗って、そこにあるイオンを書いて下さい。」

 「チャイムがなりそうなので急ぎましょう。右側は何色ですか?・・・そうですね。黄色です。ここの部分には硫酸が余っているので、つまり、硫酸が水に溶けてできるイオンがあるはずです。つまり、何と何ですか?・・・そうですね。硫酸イオンと水素イオンです。」

 「最後に確認ですが、今日の実験は、中和した時にできる硫酸バリウムが水に溶けない物質、つまり、イオンにならない非電解質なので、中和点のでの電流が値が0になりましたが、もし、中和によってできる塩が電解質の場合は0になりません。」

◎ 生徒の感想

◎ D君の学習プリント

<ポイント:硫酸の濃度について>
 硫酸の濃度については、生徒の前で調整してやるとよい。実際に水酸化バリウム50mlを測りとり、硫酸を5mlずつ加えて(中性になる)硫酸量を見せる。もし、ここで硫酸濃度が高い場合は、「*倍に薄めましょう」と言いながら水で薄める。そうすることで、生徒は水溶液の濃度やそこに含まれるイオン量について理解が深めていく。具体的な硫酸濃度は、水酸化バリウム50mlに対して30mlになるのが適切である。しかし、水酸化バリウムの濃度(飽和水溶液が望ましい)は、たくさん準備する都合上ばらつきが出てしまうので、毎時間生徒の目前で演示操作したほうがはるかに教育的効果が高い。


◎ 授業を終えて
 私自身、この実験は3年ぶりに行ったが、ほぼ全ての班が正しく操作することができた。実験結果も良好だったが、反応中におけるイオンについての理解度は60%までだろう。しかし、BTBの色の変化から、始めは水酸化バリウムによって、中和以降は硫酸によって電流が流れたことは直観的に理解できたと思う。また、イオン量については触れなかったが、ここまで理解できた生徒にとって、電流の流れやすさ=イオン量であることは簡単であり、今回の実験で得られたグラフは、そのままイオン量を表わしていることも理解できるだろう。

 また、時間が許せば塩酸と水酸化ナトリウムを使って同様の実験を行いたい。3年前には行ったものと記憶している。

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(C) 2001-2005 Fukuchi Takahiro