このページは、Mr.Taka 中学校理科の授業記録 3年(2004年度)です |
ヒトの染色体と減数分裂
2004 5 24(月)
各教室生徒の理解度を確かめながら授業を展開したが、結論としては体細胞分裂の理解度が低かったので、減数分裂の過程を詳細に説明できなかった。余談を楽しみながら、生物の種類によって染色体数が違うこと、受精するときには染色体数を半分にしなければ、子どもができる毎に染色体数が倍増してしまうことを学習した。
本時の学習内容
1 ヒトの染色体数は46本である
2 生物の種類のよって染色体数が違う
3 子どもは両親(父母)の形質を半分ずつもらう(復習)
4 つまり、染色体数としては23本ずつもらう
5 染色体数が半分しかない特別な細胞を作るための分裂を減数分裂という
<授業の流れ>
1 生物の染色体数
生物の種類によって染色体の数が決まっている。
生物名
染色体の数
アメリカザリガニ 188本 オランウータン 48本 ヒ ト 46本 アカイエ蚊 6本
・ 上の表を見れば明らかなように、高等生物ほど染色体数が多いとは限らない
・ 染色体は2本1組(相同染色体)になっているので、必ず偶数本である
2 親からもらう染色体の数
<説明の例>
「これから、染色体の数に注目して子どもを作りましょう。お父さんの染色体数は何本ですか?」
「46本ですね。」
「お母さんの染色体は何本ですか?」
「やはり46本ですね。」
「すると、子どもの染色体は何本になりますか?」
「正解! 92本です。さらに、92本の子ども同士で作った子どもは何本になりますか?」
「正解! 184本。さらに、その子どもは?」
「268本! 正解です。このように、46本の染色体をそのまま与えたら人類は破滅です。お父さんとお母さんの遺伝情報がどんどん増えていってパンクします。そこで、子どもを作るときには、特別な細胞を用意します。精子と卵子です。これらの細胞には染色体が23本、半分しかありません。そうすれば、精子と卵子が合体して46本に戻り、正常な子ども(受精卵)ができます。では、ここまでをプリントにまとめましょう。」
・ 生殖器官(精巣、卵巣)で生殖細胞(精子、卵子)をつくる
余談: 精巣について
「みなさん、おたふく風邪は知っていますか。」
「そうですね。高い熱が出て、ほっぺたが膨らむカゼです。ところで、そのおたふく風邪を小さいときに罹った人はどれだけいますか? と言いますのは、大きくなってからこの病気をすると高熱が出てなかなか治らなくて大変だからです。もう、罹った人は手を挙げて下さい。」
「はい。その人は安心です。1度罹ると免疫ができて、もう2度と死ぬまで罹りませんから。しかし、ここから先の話しはとても重要です。うっかりすると子どもが出来なくなるので良く聞いて下さい。特に男子です。精子は何処でつくられるか知っていますね。精巣です。卵巣はとても複雑な器官だし(そこそこ)熱に強いのですが、精巣はとても熱に弱いので体の外についています。そうですよね、男子のみなさん?!」
「暑いとだらだらしますが、まあ、何と言いましょうか、熱がたまらない構造になっていますが、精巣は高熱で死にます。体の細胞は42、43度の高熱が続くと死にますが、それより先に精巣の細胞が死にます。実際は、おたふく風邪のウィルスが精巣に入って違う病気(精巣炎、睾丸炎)になるようですが、とにかく男子は高熱にも気をつけて下さい。40度以上の熱が出るようなら、24時間氷で冷やすことになるかも知れません。(成人男子では精巣炎を併発する可能性が15%以上あります。相当深刻です。)」3 46の染色体の内訳
ヒトの染色体数は46本(23組)です。
常染色体44本(22組) 性染色体2本(1組) ・ 第1染色体〜第22染色体(大きい順)
・ 目、耳、鼻、口など顔のつくり、髪の毛の質、血液型など、全ての身体に関する遺伝情報を持っている・ 第23染色体
・ 性別を決める染色体で、X染色体とY染色体の2種類がある(女はXX、男:はXY)
・ Y染色体はX染色体の一部が欠損していると考えても良い(男の生殖器官は女と比較して単純)
2本1組になっている染色体を相同染色体といい、それらの持っている(遺伝)情報は全く同じです。しかし、生殖細胞が作られるときは、単純に分かれて46本が23本になるだけでなく、相同染色体がねじるようにして組み合わせが変わり、新しい遺伝情報となって精子や卵子ができます。兄弟姉妹で遺伝情報が少しずつ違うのはこれが原因です。また、男女を決定する第23染色体を調べると、卵子はXしか持ちませんが、精子はXのものとYのものの2種類ができます。したがって、子どもの性別を決めるのは精子です。
精子の染色体
(23本)卵子の染色体
(23本)受精卵(子ども)の染色体
(46本) 22+X 22+X 44+XX(女の子) 22+Y 44+XY(男の子)
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4 減数分裂の過程
実際の減数分裂は、連続した2回の細胞分裂によって、1個の母細胞から4個の娘細胞が作られるが、授業では混乱を避けるため(遺伝子と染色体の関係を正しく理解できている生徒、および、体細胞分裂について正しく理解できている生徒が少ない)次の図ように体細胞分裂の復習をした。減数分裂の過程は、後日学習する。
図 体細胞分裂の復習
減数分裂の過程
第1分裂
前期: 相同染色体が結合し二価染色体になる
中期: 二価染色体が中央に並ぶが、このとき交叉(キアズマ)が行われる
→ 1箇所ずつの交叉でも、2の23乗(8,388,608)の組み合わせができる
後期: 染色体が2つに分かれる(量は半減するが、数はそのまま)
終期: 核膜が現われるが、間期をはさまず第2分裂へ続く
第2分裂
後期: 染色体が2つに分かれる(量も数も半減する)
余談: 複数の精子が入ったらどうなるか?
「その場合は死んでしまいます。1つの卵子には1つの精子しか入れません。しかし、時々、さまざまな理由で染色体が多くなったり少なくなったりして大変ことが起きることあります。多くの場合は、赤ちゃんとして生まれる前に死んでしまいますが、時々、生まれてくることがあります。時間があるので、ちょっとだけ説明しましょう。性染色体だけに注目すると、例えばXが1つ多くてXXXになった場合、とても強い女の人になります。スーパーウーマンです。しかし、さらにXが増えて4つになると強過ぎて死んでしまいます。また、XXYはどうでしょう。男になるでしょうか女になるでしょうか。答は男ですが、弱い男になります。」
◎ A君の学習プリント
◎ Bさんの学習プリント(A君と違うクラス)
<評価基準>
1 自然事象への関心・意欲・態度
B 学習プリントを性格かつ丁寧にまとめられる
2 科学的な思考
B 体細胞分裂と減数分裂の違いを正しく比較できる
3 実験・観察の技能・表現
B 減数分裂が行われるときの染色体を正しくスケッチできる
4 自然事象についての知識・理解
B 減数分裂のしくみを理解できる
授業を終えて
余談として性染色体異常の話をしたが、人の尊厳に関わる内容なので慎重に説明した。授業が終わってからもインターネットで調べたが、第1染色体から第23染色体(性染色体)まで、全ての染色体について異常が見られ、それぞれについて切なる思いの個人HPが開設されたり、支援団体の熱心な活動がみられ、5、6時間があっという間に過ぎた。私も、染色体障害を持つ子どもやその親の僅かな支援になればと微力ながら、染色体異常についてまとめてみた。
染色体異常は、形の変型(切断、転座、欠矢、重複、輪状)と、数に異常の2種類に分類されるが、比較的説明しやすい「数の異常」についてまとめた。数の異常には、不足する場合(モノソミー)と過剰な場合(トリソミー)がある。
p:短椀,q:長腕 |
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CAT CRY症候群 | 乳幼児のとき、猫のような声を発する |
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ウイリアムズ症候群 | 妖精顔貌 |
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アンジェルマン症候群 | 話をせず突発的に笑う、手を羽ばたかせる |
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ミラーディッガー症候群 | 滑脳症(脳のひだがない) |
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精神遅滞、成長障害(低身長、痩せ型) |
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アラジール症候群 | 胆汁うっ滞、胆管減少、心臓奇形 |
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ディジョージ症候群 | 胸腺と副甲状腺の発育不全(欠乏)、口蓋裂 |
(X染色体) |
ターナー症候群 染色体45本= 44本+ X |
・ X染色体(性染色体)の2個のうち1個、または、1部が欠失 ・ 女性だけ、出生女児の2000人に1人。低身長、低体重、無月経、性的未発達 |
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エドワード症候群 | ・ 多くが死産となる ・ 心臓・視覚・聴覚などの障害 |
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ダウン症候群 | ・ トリソミー(21番目の相同染色体が3つある) ・ 1000人に1人 ・ 知的発達が遅れる |
(XXY) |
クラインフェルター症候群 44+ XXY 44+ XX/XXY |
・ 44+XXY(その他に、XXYY、XXXY、XXXXY、(XY/XXYモザイク)) ・ 男だけ、男児500出生当たり1人。不妊(成熟した精子ができない)、乳房発育、不完全な男性型体型、社会や学校での学習障害、身長は高い(平均6フィート1/2インチ)、睾丸が小さい、内気で無口、テストステロン療法が不妊以外の治療に効果 |
(XXX) |
超女性症候群 44+ XXX |
・ 女だけ |
染色体異常について、ほんの僅かな部分をまとめてみたが、素人の手におえる分野ではないし、調べれば調べるほど、どんなに医学や科学に優れた人間であっても触れてもいけない分野であるような気がしてきた。私は神を信じないが、冒涜はしない。人の染色体について解明が進めば、ヒトの遺伝的情報が全て分かり、やがて、都合の良い遺伝情報だけを抽出した人工的な染色体を作ることもできるだろう。ヒトからではなく、無機物・有機物からヒトを作る時代も来るだろう。そうした生物を作ることも異常だけれど、今現在でも、自ら生きる力を失った受精卵を発生させたり、未熟児として誕生した赤子を医学的・研究的な興味から生命を持続させることは危険な行為であるような気がする。こんなことを書くと、非人間と思われそうだが、私たちはいつかは死ぬ。天命を全うして死ぬことを理想とするなら、親や医師の意志によって生命を与えられるのは何処か間違っている。本能レベルの行為によって子どもを助けることは良しとしても、どこまで現代の医学の手を借りるのか。すでに、人類は越えてはいけないラインを踏み込えたのか。愛が至上で、最優先させて良いのか。それとも、飽くなき探究心こそ人類である証なのか。
さて、今日も授業記録から大きく脱線してしまったが、生命とは何か。久しぶりに本気で考える時間を頂いた。結論は遠のくばかりである。
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