このページは、『Mr. takaによる、若手教師のためのワンポイント・レッスン』です。

第9章 評価は不要物か

8 美術で相互評価をさせよう

─生徒どうしに評価させてみよう─

1 美術の先生としてのわくわくする経験
 私は、絵を描いたり写真を撮ったり陶芸をしたりすることが大好きです。そんな訳で、教員になったばかりの頃、美術の臨時免許を使って2つの中学校で「美術」を教えた経験があります。美術の授業ある日は、いつもわくわくし、専門の理科よりも楽しみにしていた記憶があります。

2 2つの活動(表現と鑑賞)
 美術教育は「表現させること」と「鑑賞させること」の2つに大別できます。「表現」は子ども自身が手を動かして何かを作ることで、作られたものは「自分の手で作った作品」としてシンプルに理解できます。一方、鑑賞はその対象を2つ分けて考えなければいけません。1つは他人の作品であり、1つは自分自身の作品です。

 私はこの「鑑賞」で、自分の作品を他人の作品に混ぜてしまい、高いレベルの客観的な鑑賞をさせました。このページでは、子どもどうしがクラス全員の作品を鑑賞すると同時に、相互評価する授業実践を紹介します。

3 キーワードは『作品』
 表現と鑑賞は互いにフィードバックしながら向上していく関係にありますが、その核は「作品」です。下の図を見て下さい。作品を核にすれば、表現と鑑賞は単純にフィードバックしあう関係になります。つまり、他人や自分が「自分の作品」を批評することで、作品の表現方法が向上するだけななく、作品を鑑賞する視点が広がるのです。

表現する → 鑑賞する → 表現を工夫する → 鑑賞の視点を広げる →
表 現 ←→ 鑑 賞
鑑 賞
 ←→ 表 現

※ 美術作品は「自分のため」に作りますが、その目的は「誰かに見せるため」です。自分だけが見て楽しむための『表現行為(作品づくり)』は、皆無といって良いでしょう。もちろん、他人に見せない作品もありますが、それは独立した美術作品に分類すべではないと思います。

中学で作る主な作品
(1)平面絵画(自画像、人物画、静物画、風景画)
(2)平面構成(色彩の学習)
(3)レタリング
(4)イラストレーション
(5)絵本
(6)彫刻
(7)陶芸
(8)コラージュ(写真、図、文字)
(9)写真、ビデオ、コンピューターなどの映像を使った作品
※ これらの作品は音楽作品としての『合唱』や『舞台芸術』とは異なり、半永久的に残るからこそ、実物の作品をいつまでも鑑賞できるのです。

4 他人と自分の作品を並べて鑑賞する
 鑑賞は、表現(作品づくり)と同じように独創的でなければいけません。とくに美術作品は作者の思い入れが大きく反映するので、子どもにとって自分を冷静に客観的に見つめ直すことは困難なように感じます。しかし、教師が自由に発言できるクラス環境を整えれば、他の教科よりも簡単に高い客観視(相互評価)ができるようになります。

 相互評価の時間はとても楽しく新しい発見の連続でした。子ども達にとっても同じように心踊る、ドキドキする時間だったと記憶しています。なにしろ、自分の作品を友達に評価されるのですから、、、その後の、私1人による最終評価の決定は視点が非常に広がっているので、短時間のうちに冷静かつ公平にできました。

5 相互評価の手順
 次に、当時の私が考え、実践した手順を紹介します。なお、相互評価には、たっぷり2時間近く使います。作品作りを同じように重要な時間ですから当然です。

絵を相互評価させる方法

(1)作品の後ろに、クラス・番号・氏名を記入させる。
(2)全員の作品が提出されていることを確認する。
(3)作品をシャッフルし、適当な数(7点前後)を黒板に並べる。
(4)この時、自分の作品が掲載されても声を上げないようにさせる。
(5)それぞれの作品の長所を見つけ、挙手にて発表させる。
(6)自分が気に入った作品2つを選び、挙手させる。
(7)挙手の数によって、作品を分別する。
(8)(3)〜(7)をくり返す。
(9)クラスで一番人気がある作品を、挙手にて決定する。
(10)最後に、教師が、全ての作品について講評を述べる

※ 2008年現在、私に美術を教えるチャンスが与えれたら、私は同じ方法を行なうでしょう。ただし、相互評価を行なう前に「頑張ったこと」「工夫したこと」「自己評価」を裏面に記述させます。

6 子どもどうしは、途中経過をよく知っている
 私が相互評価をさせているときに気付いたことは、子どもはお互いの作品作りの途中経過を良く知っていることです。とくに、作品にかける思いや途中で失敗したことは、私よりもよく覚えていました。しかも、友達の最終作品を評価する時に、それらを十分に考慮して判断するから驚きです。子ども達には、それだけの力があるのです。子どもは、大人よりも敏感な心を持っていることを忘れてはいけないのです。
 
7 上手い作品ではなく、魅力ある作品

 このような鑑賞(相互評価)をくり返していくと、子どもは『上手い作品』よりも『魅力ある作品』を好むようになります。これは「下手でも一生懸命に取り組んだものを愛する心」を育てることになります。

 私は、美術教育の目的は『自己を美しく表現し、美しさの多様性に心を震わすこと』であると考えています。それは、価値観が違う者どうしが非言語の『美しい作品』をとおして互いに理解しあうこと、つまり、人類が『平和』という作品を作ることだと思います。
→ 学習指導要領が定める目標は、別ページ『学習指導要領2011年』をご覧下さい。

note
・作品の評価は、教師が行うのではく、生徒全体の前で、生徒全員に行わせる。
・それは、美術という教科を、作品を制作するだけの行為に終わらせるのでなく、鑑賞という行為までも指導することになる。
・鑑賞は、自分の作品を客観的に見るだけでなく、他人を評価する時の自分の視点さえも明確になる。
・その結果、鑑賞する視点さえ、個性に満ちあふれていることを生徒たちは発見する。
・最終的な評価は、全員が5になる可能性があり、有能な教師なら全員が5になる。
・結論として、美術の世界には競争はなく、順位をつける必要は無い。しかし、職業画家として生活するためには、自分の作品を換金しなければならないので、その結果として作品を順位付けすることになる。これが美術界を混乱させる原因になっている。将来、職業画家にならないのなら、美術科に一切の競争原理を持ち込む必要は無い。また、すべての生徒を美術好きにすることが可能である。もともと、ヒトは絵を描いたり表現することが好きなのだ。
・アイデンティティーの確立とその表現。


2008年5月28日

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