このページは『Mr. takaによる若手教師のためのワンポイント・レッスン』です。

第4章 学級経営 

18 子どもの所見を書こう!
     ─ 学級担任から子どもと保護者へ贈る手紙 ─

1 あなたの気持ちを文字に託して
 通知表の子どもの『行動の所見』は、学級担任から子どもと保護者へ贈る手紙です。毎日の学校生活での触れ合いを土台にした、1人の教師からの心のメッセージです。それは言葉によって当事者どうしの心をより深く結びつかせ、言葉という形として残すことを目的としています。

 手紙は他人からとやかく言われるのものではありません。若い先生は、他人の目を気にすることなく熱い心を書き綴って下さい。第3者の介入は教育を荒廃させだけなので、誰よりも深く子どもと向き合うように努めて下さい。
→ 関連ページ『通知表って何?

2 昔の『行動の所見』の思い出
 私が教員になった頃、所見を書くことは楽しい時間の1つでした。子どもの顔を思い浮かべ、担任として子どもの将来を願いながら、自分の思いを書き綴るのは教師として最高の喜びの1つでした。表現の自由度が高く、良いことも悪いことも、同じように正直に正面から書くことができました。「いつもにこやかなA君の顔を見ると、学級が落ち込んでいても雰囲気がパッと明るくなり、担任の私も何度か救われました」のように書いたこともあります。これは教師の立ち場からすると誉められた表現はありませんが、子どもと保護者からすると、心底嬉しい言葉だと思います。もちろん、本当の通知表には、もっと具体的に書きました。

 さらに当時は、下書きに時間をかけませんでした。ペンで直接書き綴った記憶もあります。パソコンが無かったこともありますが、ペンで一字一句、思いを込めて直接書くことが許されていた時代でした。私は過去に戻ることはできないし戻る必要はないと思いますが、現在は、所見を書く喜びが失われたことは問題です。それは同時に、子どもや保護者にとっても「所見を読む喜び」が失われたことを意味するからです。形骸化し、苦痛しか感じなくなってしまったのなら、それは時代の流れとして認め、所見は廃止すべきです。

 しかし、私は所見を書く喜びを知っていますから、若い先生にも是非、自信と誇りをもって書いて欲しいです。その条件を整えることは若い先生には無理だと思いますが、私はこのページを公開することで少しでもお役に立ちたいと願っています。

3 形式を重視する傾向
 みなさんの学校では、「・・・ができた」のように過去形でそろえたり、逆に現在形でそろえたりさせるなど、形式を偏重する傾向はないでしょうか。形式は本来の意義から関係ないので、それに縛られるのは問題です。そもそも文章表現は、個人の嗜好に大きく左右されます。明らかな間違いでない限り、個人の嗜好を他人に押し付てはいけません。個性と表現は等しく多様であるべきです。先生と同じ数の表現があるはずです。心の機微に触れる言葉は、微妙な表現に息づいています。

4 「良いことだけを書こう」とする流行の実害
 私は、悪いことも良いことも同じように書くべきだと思いますが、最近は「良いことだけを書く」ことが流行しています。この流行は、次の2つの弊害を生み出しています。1つは、本当に悪いことをしていている子どもも保護者が、『良いことをしているように勘違い』したり、評価の甘さに慣たりすること。もう1つは、本当に良いことをしている子どもや保護者が、『先生はお世辞を言っているのだろうかと勘ぐる』ようになることです。

 人の好意を受け取らない、人の裏を探るような人間を作ってはいけません。私は、このような弊害を避けるためにも、「悪いことは悪い、良いことは良い」と公平公正、かつ、適切に表現するべきだと提言します。何が悪くて何が良いかの判断は難しいのですが、それを行なうのが先生の仕事であり、責任です。
→ 関連ページ『良いこと悪いこと』

5 言葉の変換作業
 さて、職務命令により「悪いこと」を記述できない場合、次の表のように『負の表現』を『正の表現』に変換する必要が生じます。この作業は、教師からみれば「ごまかし」であり、パソコンで画一的に処理するだけの行為ですが、我慢して下さい。近い将来、変換作業は不要になると思いますが、今は困難な時代なのです。私は、この歪んだ時代が存在していることをこのページで記録してましたので、若いみなさんは、これを打開すべく頑張って下さい。私も頑張ります。

日本語による表現の変換

負のイメージ

言葉による

変 換
正のイメージ
仕切り屋
でしゃばり
自分勝手
他人ことを考えない
威張り屋
・何事も良く考え、自主的に行動できる
・リーダーシップを発揮して、友達を引っぱる
・自信をもって行動する
・世話好きで、面倒みがよい
・小さな物事にとらわれない
・自信に満ちて堂々とした
・意志が強く、明確な自分の意見を持つ
・いつでも自分の考えを述べ、自己主張ができる
・自立している
授業中、勝手にしゃべる
調子に乗りやすい
なれなれしい
・明るく活発で社交的
・素直で活動的、行動的
・授業中、積極的に発言する
・陽気でユーモアのセンスがある
・笑い声が絶えない
短 気
すぐ怒り、殴る
落ち着かない
・何事も包み隠さない素直な性格
・積極的に行動する
・情熱的で、感受性が豊か
・社交的な
ひつこい
くどい
昔このことを愚痴る
あきらめが悪い
後から1人で質問に来る
・粘り強く、集中して物事をよく考える
・探究心を持って、同じことを繰り返す
・慎重に繰り返しよく考える
印象がない
存在が薄い
自分の考えがない
鈍 感
暗 い
・控えめな性格で、安全に注意して穏やかに生活できる
・優しい心の持ち主
・協調性があり、落ち着いた学校生活をおくれる
・慎重で、おっとりとした性格
忘れ物が多い
だらしない
いいかげん
けじめがない
よく考えずに行動する
・物事にこだわらない、さっぱりとした性格
・何事も明るく素直に考える
・活動的に活発に行動する
掃除をさぼる
無責任
係の仕事をしない
面倒くさがり
強い者に弱く、弱い者に強い
・物事にこだわらない
・何事も前向きに考えることができる
・状況をよく判断して、適切に行動できる
冷たく冷ややかに物事を見る
つまらない性格
・常に沈着冷静に判断する
・真面目
・物事にこだわらず、自分のペースで行動できる
・自分の考えを持ち、ねばり強く行動する
すぐに涙く
いじめられやすい
・感受性豊か
・人間味がある
・控えめで優しい性格
友達の陰口を言う ・自分の考えをはっきりと持つ
・意志が強く、自分の意見を持った
・嘘がつけない性格
不真面目な ・活動的な性格
・独創的な行動
軽率な ・行動的で積極的な 
負けず嫌い
ずうずうしい
・努力家
・向上心がある
・自信をもって、堂々とした行動
周りを気にする
心配性
・気が利く、心配りができる

注意:上の表を見た中学生諸君や保護者の方は、負のイメージに変換しないで下さい。先生はいっしょうけんめいに良いことを見つけだし、書いたのです。嘘ではありません。もし、あなたが悪事をはたらいた事実があるなら、それは悔い改める必要がありますが、そうでないなら文面通りに受け取って下さい。

6 子どもを観る時間と方法
 小学校の先生は子どもと一緒にいる時間がたくさんありますが、中学校では時間が限られています。朝と帰りのショートタイムしか、顔を合わせるチャンスがない日もあります。とくに保健体育の先生は、自分の担任クラスであっても、授業で活動する姿をみるチャンスが男女どちからだけです。そうでなくても、40人の生徒を抱える先生にとって、その全員の様子を詳細に記録することは至難の技です。
 → 参考ページ『マンツーマンの時間』

 そこで、学級活動の時間を使って、簡単なアンケートを行なうことをお勧めします。アンケートの主な項目は次の通りです。
(1)好きな食べ物、動物、音楽、スポーツ
(2)嫌いな食べ物、芸能人、教科
(3)放課によくしゃべる友達、家で遊ぶ友達
(4)得意な教科のランキング
(5)学校で一番嬉しいこと、嫌なこと
(6)最近、学校でがんばっていること
(7)悩みごとを1つ
(8)朝食は食べていますか、風呂に入っていますか、何時に寝ますか
(9)最近の話題(気になること)
※基本的に、学校生活に関するアンケートを行ないますが、「道に100円落ちていたら? 1万円札が落ちていたら?」のような関係ない問題を出して雰囲気を盛り上げる工夫もして下さい。
※学級全体や班単位で『交換日記』をする方法もありますが、私は実践したことがありません。

7 目立たない子ども
 良くても悪くても目立つ生徒の話題はたくさんありますが、目立たない生徒は困ります。普段から注意して観察していても、記述内容が少なくなるので、特別な配慮が必要です。上に示したアンケート結果にもとづいて、ピンポイントで話し掛けたり、友達と会話しているところにさり気なく割り込んで下さい。

 一般企業なら「積極性がなく、成績がつかない社員」として記述できますが、学校は、そのような大人にならないように教育する場所です。あの手この手を使って、積極性を引き出すようにして下さい。目標は、目立つことではなく、『存在感がある大人』になるための基礎を築くことです。

8 若い先生に望むこと
 通知表に関する歴史は、そこに絶対的な形式や内容がないことを示してます。若い先生は、自分の感性を大切にして所見を書いて下さい。校内の点検者に直されることが多々あると思いますが、あなたの感性は間違っていません。自信をもって、子どものために所見を書いて下さい。文字は縛られても、子どもとあなたの心は縛られないようにして奮闘して下さい。子どもとあなたの心の結びつき方も、同じように自由で変幻自在なものでことを忘れてはいけません。

2008年5月25日

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