このページは、Mr. takaによる若手教師のためのワンポイント・レッスンです。

第3章 理科の授業

10 科学って何?

 科学とは何か、この問いに対して正確に答えることはできません。100人の科学者がいれば100通りの考え方があるだけでなく、科学の分野は自然科学、人文科学、精神科学などバラエティーに富んでいるからです。しかし、これでは若い先生が困ると思いますので、科学に関する一般的な考えをまとめておきます。

1 自然科学の手法
 理科の先生が使う一般的な自然科学の手法は、次の(1)〜(6)です。これは、中学校の理科の授業で基本となる手順です。

(1) 自然を観る
 ぼやっと見るのではなく、視点を決めて注意深く自然を観ます。これには、ある程度の時間が必要であり、何年かにわたる長期的な観測が必要な場合もあります。また、測定器具を使って、正確な数値を求めることもあります。

(2) 仮説(予想)をたてる
 自然を観察した結果から、その現象や事物をうまく説明する仮説を考えます。ただし、初めから完全に説明できる仮説を考える必要はありません。限られた現象や事物だけから始め、しだいに広範囲の内容を説明できるようにすれば良いからです。
※科学の性質上、絶対的な『説』は永遠に発見できません。
※仮説は、似たような自然を予測・推測することができます。
※また、私は、板倉聖宣が提案する仮説実験授業を行ないません。
この理由は(5)で述べます。

(3) 実験する
 仮説にしたがって、観察を続けたり、実験を繰り返します。もし、仮説が正しければ、どれだけ観察や結果を繰り返しても同じ結果になるはずです。また、実験結果を完全に予測できることになります。
※ある原因は決まった結果を起こす、という因果律
いんがりつを前提にしています。
※実際に実験できない場合は、頭の中で『思考実験』を行ないます。

(4) 実験結果を考察する
 結果はとても正確に吟味されます。たった1つの例外があれば、初めの仮説は間違いとなります。1つの例外もない場合、それは1つの自然法則として科学者達に認められます。例外が1つもなくなるように新しい仮説を考え、実験を繰り返します。

(5) 法則の検証実験をする
 自然法則が発見されると、たくさんの科学者がそれを確かめます。さまざまな条件を変えても、成り立つか調べるのです。
 ※私の理科の授業は、この検証実験を重視しています。実際の公立中学校では、仮説を立てたり自然法則を予想させたりすることは不可能に近いからです。そもそも、教師が準備したテーマについて、各自の仮説を立てさせ、さらに討論をしてから実験させることは、教師の満足を優先させていると思います。私は実験のテーマを準備するだけで、あとは子どもに任せます。
 子どもは、テーマに従って実験を行なうだけですが、厳密な結果を得ることは簡単ではありません。私は性質を調べる定性実験ではなく、数量にこだわる定量実験を行なわせます。中学生レベルでなくとも、実験には必ず誤差が出ますから、その原因を考えさせる方が、仮説を考えるより自由度が高い科学的思考力が養われるからです。
 誤差やいわゆる失敗実験に対する子ども達の考えは、実に多様で、先生をうならせるものばかりです。私自身も答えられない場合がありますが、本当の実験はそういうものです。そうでなければ真の思考力は育ちません。時間があれば、生徒は誤差が小さくなるように実験装置を工夫して、実験を繰り返します。これは、生徒の仮説や予測による実験であり、先の仮説実験授業と比較できますが、自由度と生徒の自主性、および、思考範囲の幅は、はるかに上です。
 また、偉大な科学者が発見したときの喜びを同じように感じて欲しいと考えています。仮説実験授業の場合は、自分の仮説を確かめるための実験ですが、私の検証実験は、偉大な科学者と同じレベルの正確さまで求めることができた、という喜びを味わうものです。そのためにも、私はほとんどの実験を定量実験とし、時間が許す限り、条件を変えて実験を繰り返し行なわせます。

(6) 自然法則を確立させる
 新しい法則が発見されると、古い自然法則は、より包括的な新しい自然法則に飲み込まれることがあります。古い法則は狭い範囲しか説明できませんが、中学生レベルでは十分な範囲であることがほとんどであり、その範囲で自然法則は正しいままです。範囲が広ければ良いというものはありません。どんなに新しい法則でも、必ず古くなります。

 このように、科学は、観察→仮説→実験→考察→検証実験→法則化→ 新しい(観察、仮説、実験、考察、検証実験、法則化)の繰り返しです。永遠にとどまることがないのもの、それが科学です。

2 いろいろな科学の分野
 中学で教える9教科は、それぞれに科学的な要素を含みます。科学は経験にもとづく合理的な考え、だからです。国語や社会だけでなく、美術や音楽も客観的で合理的な要素がなければ成り立ちません。
関連ページ『何を教えるか』

3 科学に関するnote
 少し堅くなったので、次に科学に関する私のメモを紹介します。これらのうち、いくつかは主観的な空想や妄想に近いものを含みますが、あえて掲載しておきます。

科学とは何か
・ 常に疑問を持つこと
・ 調べれば調べるほど、疑問が増えることを知ること
・ 永遠の疑問の中で生活すること
・ 疑問の中に美しさを発見できる考え方を持っていること
・ 疑問と共存できること
・ その世界の中にいることを心から楽しめること
・ 真理がないことを知ること
・ 解決がないことを知ること
・ 調べること、未知なことが好きなこと
・ 完璧がないことを知っていること
・ 誤差の概念を知っていること
・ 桁の概念を持っていること
・ 一桁違っていても大したことない場合があることを知っていること
・ 限界があることを知っていること
・ 自然にはある「点」があることを知っていること
・ その点には何も存在しないことを感じること
・ 個人差を知っていること
・ 人間の限界を知っていること
・ 人間の見ている範囲を知っていること
・ 地球の誕生した時間と自分の時間の差を認識していること
・ ウィスルと鯨の認識の違いを感じれること
・ それらが接点を持つことが永遠にないであろうことと、あるかも知れないこと
・ 自然や事物に感動できること
・ 自然の一部に人間の活動を取り組むことができること
・ 人間の感情も自然の一部であると認識できること
・ 最終的には、感じることしかできないと感じれること
・ 数字は、人間の作った思考の道具にすぎないとことを知っていること
・ 言語も同じで、誤解をまねく原因になりやすいことを知っていること
・ 人類のいかなる方法でも、共通認識は不可能であること知っていること
・ 生物と物質を分類することが困難であることを知っていること
・ 全ては、自然であること知っていること
・ 1980年頃から、最先端の科学は「哲学」に近いことを知っていること
・ 科学が哲学を取り込んでしまうかも知れないことを知っていること
・ 科学と芸術が融合しはじめていることを知っていること
・ 物事を表にすること
・ 事物を羅列すること
・ 何回もくり返すこと
・ 失敗を失敗と思わないこと
・ 児童は教師よりすごい部分を持っていることを知っていること
・ それを尊重できること
・ 実践し、確かめること
・ わかっていても実際にやってみること
・ くり返しの中に、新しい視点を見つけること
・ 追求すること
・ 無欲であること
・ 疲れたら、無理にやらずに止めること

4 ほとんどの科学者が認める科学の共通点
 科学は、頭の中で考えたこと、空想したこと、妄想したことは対象にしません。現実だけを対象としています。つまり、あなたの経験から始まり、すべての人が現実として体験できるものが対象です。

 ただし、私自身は、高度な科学的内容は、すべての人が体験できるとは思いません。例えば、虫メガネや光学顕微鏡を満足に使えない人が電子顕微鏡を使って何かを観察できるとは思いませんし、細胞内に蛍光物質を取込ませても、それが意味することを理解できないからです。自然を見るためには、たくさんの訓練が必要です。

5 科学を学ぶために
 厳しい科学的訓練には、自然法則を発見した科学者の喜びを追体験することが欠かせません。中学理科では、自然の法則を確認した喜びを味あわせることが必要です。これろ実践するため、私は検証実験を中心にした日々の授業に取り組んでいます。科学の本質は考えることではなく、自然を観察し、実験し、理解することにあるからです。

2003年
2008年1月17日修正、加筆
福地孝宏

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