このページは『Mr. takaによる、若手教師のためのワンポイント・レッスン』です。

第7章 悩んでいる生徒

14 馬の耳を持つ生徒

1 馬の耳に念仏(うまのみみにねんぶつ)、馬耳東風(ばじとうふう)
 『馬の耳に念仏』『馬耳東風』は、いずれも他人の話が耳に入らないこと、風のように通り過ぎていくことを表す諺(ことわざ)です。これと同じように、先生がどんなに熱く語っても、耳に入らない生徒がいます。私が出会ったS君は、ちょっとした注意でも耳を閉ざすことがありました。それは、貝の殻が閉じるように固く、一旦『聞かないモード』に入ってしまうと、もう何をしても無駄でした。諦めるより他に方法がなかったのです。これは私に限ったことではなく、どの先生に対しても同じでした。つまり、パブロフの犬と同じような条件反射(注意が始まる→耳を閉じる)で、彼に意識はなかったのです。

2 S君の家庭
 S君は理科が大好きで、理科室ではいつも最前列を陣取りました。私の理科は、自由席なのです。しかし、何にでも興味を持つA君は、新しい実験器具があるとすぐに触ります。私の使用説明を待たずに、自分で好きなように何度も触るので、私はいつも目や動作で注意していました。しかし、ある日、名前を出して注意したところ、途端にA君の表情が無くなったのです。理科室の後方に座っている生徒には、名指しで注意することになりますが、S君のように表情を失った生徒を見たのは初めてでした。「S君、先生が説明している間は、話を聞いてね」 大声を出したわけでもなく、むしろ優しく注意したのですが、S君は能面のようになり、心が消えてしまいました。私はとても驚きましたが、気づかない振りをして授業を続けました。そして、授業後、S君の学級担任から次のような話を聞きました。
 「S君のお母さんはとてもうるさい人で、何でもかんでもA君に注意するんですよ。一度話をはじめると、少なくとも30分は同じ話をするそうです。S君はぴくりとも動かなくなるので、お母さんは、『息子は私の話をきいてくれない』と相談するのですが・・・。それに、A君のおばあさんもお母さんと同じで、長い話をするそうなんです。私は直接おばあさんの話を聞いたことがありませんが、S君は、何を言っても返事をしてくれないそうです。うんとも言わないし、首を立てにも横にも振らず、硬直しているそうです。」

3 生徒の忍耐力に敬意を表そう
 根本から問題を改善したいなら、耳を閉じさせてしまった親を教育するしかありません。おそらく、今も同じような口調で捲し立てているのでしょう。若い先生には厳しいかも知れませんが、挑戦してみてください。生徒と同じように、じっと耐えるだけかもしれませんが、少なくとも、生徒の忍耐力の強さを実感できるでしょう。毎日耐えている生徒の忍耐力は、あなたより勝っています。生徒を理解し、尊敬することができると思います。生徒に腹を立てはいけません。彼らは、自分ではどうしようもないとても厳しい現実で今も生きているのです。なお、別ページ『何度話してもダメな生徒』は、先生が原因になっているものです。

2011年1月10日

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