このページは『Mr. takaによる、若手教師のためのワンポイント・レッスン』です。

第6章 学校教育を超えた少年犯罪

8 シンナーによる障害、死亡

1 歯が溶けた生徒
 私が初めてシンナーを吸引した中学生と直接話をしたのは1989年の春、わずかに桜の花が残る校門でした。地べたに座った3人の女子生徒は、陽気に話をするのですが、前歯が半分以上シンナーで溶けているので、とても不思議な笑でした。彼女達の笑い顔とその時の光景は、今でも鮮明に覚えています。私は全身の骨が歯と同じようにぼろぼろになっていると思いましたが、彼女達は全く気にしていませんでした。シンナーに関する正しい知識がないからでしょう。私はたくさんの貴重な話を聞かせてくれたお礼に、シンナーの恐ろしさを教えてあげました。

2 ラリった生徒の対応
 それから10年ぐらいの間に、私はシンナーを吸引した生徒の対応を何度かしました。とても深く吸った場合は、脳が溶けたように暗く落ち込み、虚ろな死んだ目をしています。少し元気な場合は、ハイ・テンションになって支離滅裂なことを口走ります。発覚を怖れた場合は、凶暴な態度をとります。逃げようしても脳のコントロールができないので、10歩も走らないうちに見事に転びます。ただし、もともとの筋力は衰えないので、不用意に近づいてはいけません。なぜなら、常識を失った筋力は、異常な強さを発揮するからです。

3 子ども達のルール
 シンナーの恐ろしさを知っている子ども達の間では、『シンナーを吸った者は、友達から思いっきり殴られる』『もう一度吸ったら、何度でも殴られる』『それでも止めなかったら友達の縁を切る』というルールがあります。このルールはかなり厳格に存在するもので、私は、実際に友達から殴られた生徒を何人か知っています。では、何故このようなルールが存在するかというと、ルールを守ろうとする子ども達の周りに、実際シンナーを吸引して、身体を壊した者がいるからです。それは自分の兄や姉、親戚の子ども、他校の友達、先輩です。その悲惨な姿を知っている子どもは、絶対シンナーに手を出しません。

4 シンナー遊び、は不適切な表現
 シンナー遊びという言葉そのものが間違っています。言葉の響きが良いことに問題があります。『自分の脳細胞を破壊するシンナー』『視神経を潰して、一生目が見えなくなるシンナー』『歯を溶かすシンナー』『臓器を破壊するシンナー』『死にいたるシンナー』の吸引、にするべきです。言い方を変えるだけで、手を出す中学生は激減すると思います。シンナーに手を出す子どもほとんどは、その有毒性を知りません。遊ぶレベルの物質ではないこと知らせることが第1です。

5 警察に通報する
 シンナーの吸引は、すぐに警察へ通報するレベルです。これは身体への有害性だけでなく、その入手ルートの行着く先が普通教育の範囲を超えた暴走族やヤクザだからです。一般に市販されているシンナーの価格を知っている人は驚くと思いますが、何も知らない中学生が購入するシンナーの末端価格は100mlで3000円(2000年頃)でした。したがって、シンナーを吸引する子どもは、少しずつこのような人々とつながっていくことになります。早期発見、早期治療、早期教育、早期処罰が大切なことは言うまでもありません。厳しい教育的指導が大切です。

6 学校の先生の対応
 吸引している生徒を発見した場所によって、対応を変えてください。校外なら、すぐさま保護者へ連絡(警察へ通報)します。そして、吸引している生徒に近づき、止めさせます。穏やかに対応しながら、保護者(警察)が来るのを待ちます。暴力を振るうようなら、逃げてください。暴力と正当防衛の応酬は、教員の仕事から逸脱しています。ただし、シンナー吸引が初回だと判断されるときは、以下の校内の場合と同じように対応してください。

 校内の場合は、吸引している生徒へ静かに近づき、制止させます。そして、別室に移動させ、精神状態が正常になるまで安静にさせます。この間に保護者へ連絡し、来校してもらいます。場合によっては、児童相談所など関係機関に連絡したり相談したりする必要があります。いずれにしても、薬物乱用中の生徒に対して普通教育をすることはできません。

 中学校は教育する現場、強権を使わずに教育する場です。ただし、何らかの理由で完全に超えられてしまった場合は、無理に校内へ引き込んではいけません。覚悟を決める勇気は、公務員の一員として必要なことです。

 なお、私は校内であんぱん(シンナーを入れたビニール袋が『アンパン(小豆入り菓子パン)』に似ている)している生徒に出会ったことは1、2度しかありません。いずれも単独犯です。シンナー吸引は、飲酒と同じょうな酩酊状態になることを知っているからでしょう。
→ 関連ページ『中学生の飲酒

7 厳しい指導
 状況によってはかなり厳しい指導が必要になる場合がありますが、それでシンナーが止められるなら、それは正しい教育的指導です。シンナーの恐ろしさを知らない人は、ネットで『シンナー依存症』などを検索してください。繰り返しますが、シンナーに関する事実を知ることが第1です。

note
 シンナーは違法薬物ではありませんが、それを吸引することは薬物乱用であり、シンナーは依存性が高い薬物の1つです。

2010年10月18日

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