このページは『福地先生の教育の相談箱』です。

BOX3 高校の先生

異性からの相談に応じる方法は?

      多数の生徒から相談を持ちかけられるH2先生からの相談

H2先生からのe-mail

福地孝宏様

 はじめまして。私は関東地方で教員として働いているH2という者です。高校の教員をしています。HP『Mr.takaによる若手教師のためのワンポイント・レッスン』を拝見し、感想をお伝えしたくご連絡申し上げた次第です。

 拝読した際、大変共感いたしました。特に「第7章 悩んでいる生徒 11セクハラ先生と呼ばれても」は強く思い入れをもって読みました。生徒や保護者の反応に敏感になるあまり、腫れ物に触れるかのように距離を取る現代教育の姿勢に私は異を唱える者です。人間と人間の意思疎通を重要視し、文字通り体当たりで関わり続けることが教育の真髄であると信じています。一方でこの考え方を理解されず現場で苦心しています。近く退職し自治体を変えようとも検討しているところです。

 ここで、福地先生に質問がございます。異性の生徒から相談を持ちかけられた時、1対1で対応せずに本音を聞き出す方法はありますか。

 現行の教育制度では「相談、特に異性の児童生徒からの案件には複数教員で対応する」というのは基本かと思われます。私は日ごろから異性同性問わず相談を持ちかけられることが多いのですが、その大体が「他の先生には話せない」などという切り口です。中には他の教員や生徒がいる場では自信を繕い仮面をかぶる生徒もおり、そのような生徒を対象としたときに複数教員での対応はあまり得策とは思えません。福地先生はどのようにして対応し、このようなケースを解決していらっしゃるのか、ご指南いただけますと幸いです。

 お忙しいところ大変恐縮です。お時間がございますときで結構ですので、私の後学のためにご教授いただけたらと思います。失礼いたします。

      H2

 

福地先生の回答

H2様、こんにちは。

 お問い合わせ頂き、ありがとうございます。ご退職、自治体を変えることをご検討されているのですね。微力ながら、お役に立てることがあれば幸いです。さっそくご回答申し上げます。

私は日ごろから異性同性問わず相談を持ちかけられることが多いのですが、その大体が「他の先生には話せない」などという切り口です。
→ 信頼されている先生の証ですね。生徒は先生を感じ、心で判断する力をもっています。生徒たちのためにがんばってください!

他の教員や生徒がいる場では自信を繕い仮面をかぶる生徒もおり、そのような生徒を対象としたときに複数教員での対応はあまり得策とは思えません。
→ まったくその通りです。最近の生徒は、友だちに対しても本心をさらけ出すことが不得意です。主な原因は、幼少の時から母親に甘えたり本心を出せなかったことでしょう。もし、そのような生徒が本心を話せる人(H2先生)に出会えたとしたら、本当に幸せなことです。本心を受け取ることができる力をもっている大人は、世の中に少数しかいないからです。
 
現行の教育制度では「相談、特に異性の児童生徒からの案件には複数教員で対応する」というのは基本かと思われます。
→ 教育制度とは関係なく、必要なことはしなければいけません。例えば、「自殺したい」と漏らしたなら、その場で別室に移動します。自殺に準じるものと判断できる場合も同じです。当然1対1です。後日、第三者からクレームがついたとしても正当な理由があるので大丈夫です。その子の心が十分に回復すれば、命をかけて先生を守ってくれるはずです。それだけ信頼している先生なのですから、、、なお、G先生の保身のためにも、相談日時•場所•内容をできるだけ詳細に記録しておくことをお勧めします。

異性の生徒から相談を持ちかけられた時、1対1で対応せずに本音を聞き出す方法はありますか。
→ 相手が本音を言いたいかどうかは、H2先生なら瞬時に判断できるでしょう。一緒にいたい、世間話をしたいだけなら、話しかけらた場で時間を共有しましょう。それで満足するはずです。
 また、一緒に相談したい友だち(女子生徒)がいないか聞いてください。友だちと一緒なら、何も問題ないはずです。私の経験上、女子生徒の多くは「友だちと一緒」を好みます。とりあえず、複数の女子生徒から相談を受けてみて、その後、必要に応じて個別対応する方法もあります。友だちと一緒に相談することで、『事実』『噂』『主観(感情)』を区別できるようになり、問題が解決することも多々あります。

===

 ところで、私はたくさんの生徒の本心を聞くことに成功しています。聞く場所と時間は、みんなが自由に出入りできる時間と場所です。休み時間の廊下や教室、授業後の下駄箱付近などです。ぼやっと立っていれば、生徒たちから勝手に話かけてきます。他の教員が耳にできないような超マル秘情報を簡単に入手することもあります。

 その理由は、私が先生としてではなく、信用できる大人として認知されているからでしょう。本人に不利益になることを勝手に口外しない大人、としてです。生徒はその大人が十分に信頼できるなら、その大人と個人情報を共有したい(聞いて欲しい、確認してみたい)と願っているものです。

 また、私から特別な情報を得たい時は、その内容に応じて個別か友だちがいる場面か、を適切に選択して(友だちがいる場面では友だちも適切に選択して)聞きます。時間は休み時間、場所はオープンペースです。ほとんどの場合、それで成功します。

 1対1の個室相談することもありますが、それはすでに事件が終わっている場合です。後手にまわった場合です。私は事件が大きくなる前、生徒自身で解決できる段階で話を聞くことが重要だと考えています。つまり、1対1の対応をしなければならなくなる前に本音を聞くわけです。

 私からの回答は以上です。不明瞭なこと、分らないと、追加のご質問がありましたら、お聞かせください。お待ち申し上げます。なお、全国で同じような苦境に立っている人のために、H2さんとのメール交換を一般公開してもよろしいでしょうか。その場合、個人名などの情報について漏れがないように、細心の注意を払わせて頂きます。よろしくご検討ください。失礼します。

福地孝宏


H2先生からの2回目のe-mail

福地様、お返事ありがとうございます。迅速なご対応に感謝申し上げます。
 
最近の生徒は、友だちに対しても本心をさらけ出すことが不得意です。主な原因は、幼少の時から母親に甘えたり本心を出せなかったことでしょう。もし、そのような生徒が本心を話せる人(G先生)に出会えたとしたら、本当に幸せなことです。本心を受け取ることができる力をもっている大人は、世の中に少数しかいないからです。
→ 全く同感です。一言に「愛情表現を受けてこなかった」と片付けることはできないまでも、この要因は大きいと考えます。文化的に婉曲表現を好む傾向はあるにしても、率直な愛情表現は彼らに健やかな影響を与えると思います。
 
教育制度とは関係なく、必要なことはしなければいけません。例えば、「自殺したい」と漏らしたなら、その場で別室に移動します。自殺に準じるものと判断できる場合も同じです。当然1対1です。後日、第三者からクレームがついたとしても正当な理由があるので大丈夫です。その子の心が十分に回復すれば、命をかけて先生を守ってくれるはずです。それだけ信頼している先生なのですから、、、なお、G先生の保身のためにも、相談日時•場所•内容をできるだけ詳細に記録しておくことをお勧めします。
→ 私のところにも自殺願望オーバードーズ自傷など生命の危険を伴う相談が比較的多く寄せられます。中には精神疾患の診断が下りている生徒もおり、一層寄り添って対応しなければならないケースもあります。そのような場合でも「複数教員で対応」「個室は×」「カウンセラーにつなぐ」といった杓子定規な思考が大勢を成している現場に驚きを隠せません。カウンセラーにつなげられるなら当然つないでいるわけで、つなげられないから個別で対応しているのです。「守ってくれるはず」という言葉に強く励まされた一方で、学校という組織やチームで動くと銘打っておきながら教員や管理職が同じ現場の教員を守る気がないことに嫌気がさしています。私の思う組織とは大きく外れている気がしてなりません。

一緒に相談したい友だち(女子生徒)がいないか聞いてください。
→ ありがとうございます。すぐに実践できる方法をご伝授いただき大変助かります。たしかに客観性を高められますし、個別対応に難色を示す教員に対しても一定の効果がありますね。盲点でした。
 
聞く場所と時間は、みんなが自由に出入りできる時間と場所です。休み時間の廊下や教室、授業後の下駄箱付近などです。ぼやっと立っていれば、生徒たちから勝手に話かけてきます。
→ ここが私のネックになっている箇所です。今まで受けてきた相談のうち、大半がかなりの時間を要するものでした。昼休みの20分程度ではなかなか話を聴きとり切れず、放課後は生徒も私も部活動があるために結局部活後の遅い時刻土日の部活後に個別で対応することが多かったです。短い時間で複数回対応することも考えたのですが、それは生徒の側に負担なのではないかと感じやめました。周囲の教員からは「わざと人目の少ない時間や場所を選んで個別で対応している」と思われているようです。

他の教員が耳にできないような超マル秘情報を簡単に入手することもあります。その理由は、私が先生としてではなく、信用できる大人として認知されているからでしょう。本人に不利益になることを勝手に口外しない大人、としてです。生徒はその大人が十分に信頼できるなら、その大人と個人情報を共有したい(聞いて欲しい)と願っているものです。
→ 同感です。私も様々な情報を仕入れました。その情報の信憑性がさらに信頼関係を強めていると感じます。こちらの開襟の成果だと実感しています。

全国で同じような苦境に立っている人のために、Gさんとのメール交換を一般公開してもよろしいでしょうか。
→ 問題ありません。むしろお願いいたします。私が福地先生のHPを見つけて救われたように、他の人の助けになれるのならそれは大変うれしいことです。活用していただけますと幸いです。
P.S 自治体の変更を希望していると書きましたが、名古屋市が今後の転職先の候補に入ったことは言うまでもありません。本当にありがとうございます。 
お忙しいなかお返事いただきありがとうございました。救われました。今後ともよろしくお願い申し上げます。

      H2

 

福地先生からの2回目の回答

H2様、とても速いご返信に驚きです。
(私は3年生担当だったので、今は時間があります)

学校という組織やチームで動くと銘打っておきながら教員や管理職が同じ現場の教員を守る気がないことに嫌気がさしています。私の思う組織とは大きく外れている気がしてなりません。
→(口外できませんが)・・・(中略)・・・です。

昼休みの20分程度ではなかなか話を聴きとり切れず・・・
→ 20分で聴き取れないことはよくあります。聞くはと違う「聴く作業」は1時間単位で用意すべきものです。
  そもそも、聴く(=心理カウンセリング)=先生から答えを出さないとすると、一般教員は手を出さない方が無難です。H2さんがおっしゃるように専門家に依頼すべきものだと思います。その判断はできるだけ速やかに行いますが、1回で判断できないこともあるでしょう。そのような場合、初回は個室で行っても、2回目以降はオープンスペースでの立ち話をお勧めします。H2さんの実力なら、立ち話数回で今後の方針を判断できるでしょう。
  おそらく、初回で判断できない場合、相談生徒の第一目的は「H2先生と心でつながること」です。したがって、オープンスペースで先生から積極的に声をかければ、心が安定していくはずです。その過程で、他の生徒(とくに女性生徒)から嫉妬のような感情問題が発生することがあります。H2先生は嫉妬の当事者になることを覚悟の上で(微妙な立ち位置を形成することになりますが)がんばってください! H2さんの実力ならできると思います。

カウンセラーにつなげられるなら当然つないでいるわけで、つなげないから個別で対応しているのです。
→ H2さんがおっしゃるように、カウンセラーにつなげられない事例はたくさんあります。しかし、その理由を調べると、大半は次のようになると思います。『問題生徒が求めていること=H2先生との心のつながり』 これを解決する方法は直接対話することだけではありません。H2先生を求めざるを得ない根本原因、それを明らかにしたり、その原因を解決するために一歩踏み出したりすることがあります。

===
一般公開についてご快諾頂き、ありがとうございます。お互い、悩める子どもたちのためにがんばりましょう!さらなる情報交換、ご質問、ご意見をお待ち申し上げます。

福地孝宏


H2先生からの3回目のe-mail

福地様、お返事ありがとうございます。逆に今回はかなり時間がかかってしまいました。
 
(口外できませんが)〜です。
→ なるほど。その本音が聞けて嬉しいです。気になる一つの自治体として、より調べてから結論を出します。
 
20分で聴き取れないことは〜がんばってください!
→ 冬に話を聴く際にはどこで聞き取りをしていますか? うちの学校は棟と棟を屋根のない渡り廊下でつないでいる関係で、廊下や下駄箱がとても寒く、話をできる環境下ではありません。放課となった一般教室でもオープンスペースとして扱ってもらえるでしょうか。周囲の先生方に伺ってもその辺りが曖昧で動きにくく思っております。こちらこそ、今後ともよろしくお願いいたします。

      H2

 

福地先生からの3回目の回答

H2様、こんにちは。

 自治体の問題より、直属や近くの管理職(学校長など)の問題の方が大きいと思います。教育の本質を理解し、それを実践できるならH2先生を支援したり守ったりしてくれるはずです。それが管理職本来の仕事の1つであると私は思います。ただし、そのような人に巡り合う幸運はめったにありません。(H2さんのような先生に出合えた生徒は幸せですね)

冬に話を聴く際にはどこで聞き取りをしていますか?
→ 私は理科教諭なので、季節に関係なく理科室、または、理科準備室を使います。それができない時は、かなり苦労します。しかし、学校には、普段利用されていない部屋や準備室がたくさんあると思いますので、それらの責任者に相談してみてください。(進路主任に『進路指導室』、図書主任に『図書室』など)それ以前の問題として、貸してもらうことを相談できる先生(理解者)がどれだけいるかが問題です。私の場合は、・・・(中略)・・・1人/40人の割合です。

放課となった一般教室でもオープンスペースとして扱ってもらえるでしょうか。
→ 透明ガラスの一般教室でも、オープンスペースとして認められないでしょう。もっと言えば、渡り廊下でも人影を避けるような場所に見えたならアウト、になる可能性があります。全てグレーゾーン、と考えるべきでしょう。相手がアウトと感じればそれでお終いなので、私は本当に必要な時は、先ほど述べたように理科準備室(密室)を使います。そのような場合は、年に1回程度ですが、、、
 オープンスペース利用時のポイントは、制限時間を5分にすることです。5分あれば、事件の核心は得られるからです。その後、必要に応じて理科室を利用します。また、理科室を利用する時は、これも前のメールで紹介したように友だちと一緒に複数で行うことが基本です。1対1の場合は、密室となる理科準備室です。

 私は利用したことがなく壁はとても高いと思いますが、スクールカウンセラーさんと仲良くなって、カウンセリングルームを使わせてもらえるようになると完璧に近くなると思います。それでは失礼します。

福地孝宏


H2先生からの4回目のe-mail

福地様、お返事が遅くなり申し訳ないです。

 自治体が異なれど抱える問題は似通っていますね。信じたくない事実です。私は福地先生と出会えてよかったです。大変支えていただいております。ありがとうございます。
 
私は理科教諭なので〜1人/40人の割合です。
→ 私も同様に教科の指導室や特別室を使っていました。それもやはり閉鎖空間、密室などと言われ辟易しています。しかし、やはりそのようにせざるを得ないことがわかりよかったです。先輩教員のノウハウであれば説得できそうです。
 また、いわゆる「協力者」の存在ですが、それも私は見つけられませんでした。私のサーチ能力のなさゆえか、絶対数がゼロなのかはわかりかねますが。きっと福地先生も、そのお一人を探し出しご協力を仰ぐまでに数多の障壁を乗り越えられたものとご推察いたします。
 
 鉄則をたくさん学びました。「グレーゾーンではあるもののオープンスペースを利用すること」「5分の制限を設けて話の核心を掴むこと」「協力者を探すこと」「その生徒の友達と一緒に話を聴くこと」「密室での1対1は時と場合を十分に吟味すること」ここでの学びは必ず今後に生かします。ありがとうございました。

      H2

 

福地先生からの4回目の回答

H2様、おはようございます。抱える問題は世界共通、いずこも同じでしょう。・・・(中略)・・・運がよければ、直属の長が身を盾にして私たちを守ってくれるはずです。しかし、(以下、2020年3月公開時に改変)逆にパワハラに合うこともあります。私もこれまでに何度か苦しみ、複数の専門機関に通ったことがあります。同様に、社会的立場がもっとも弱い(低い位置にある)子どもたちは教員よりも苦しんでいるはずです。私たち教員は、一般家庭や子どもたちから見れば社会的に高い位置にあると自覚すべです。弱いものいじめは公の場で正すべきですが、それができない場合、誰かが自らの責任において正すように努力しなければ、負の連鎖は弱い者へと進んでいくことになります。(改変はここまで)

 これは教職に関することだけでなく、どの職場でも同じだと思いますので、覚悟を決め、個人で、あるいは、仲間とともにがんばらなければいけないでしょう。国と時代を超えた問題だと思います。

 協力者を探す方法は、生徒に聞くことです。H2先生と同じように子どもが信頼している先生がその人です。ただし、信頼できる場面が何か吟味してください。全面的ではなく、限定されている場合があります。例えば、「学級担任としての最低限の仕事を完璧にこなすから信用できる」というものがあります。最低限の仕事をこなすことはとても難しいことなので、それだけでも十分に信頼がおけることです。

 それではまた何かありましたらご連絡ください。なお、近日中に私のHPにH2さんとのやりとりとアップしたいと思います。よろしくお願いします。

福地孝宏

 

H2先生からの5回目のe-mail

福地様、夜分に失礼いたします。大変ためになるお話をいただきました。ありがとうございました。覚悟を決め、生徒を信じ、常に子どものいる現場を意識して生き抜きたいと思います。

 HPへのアップ、楽しみにしています。また何かございましたら、ぜひご連絡させてください。ありがとうございました。

      H2

メールをやり取りした期間:2019年3月
2020年3月4日掲載

↑ TOP


→home]
(c) 2020  fukuchi takahiro