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  理科って何?

2005年 秋

 ちょっと難しいですが、現行の学習指導要領(1998年度、平成10年度改定)から、1:理科という教科が存在する期間について、2:その教育目標について、調べてみましょう。

1 理科が存在する期間
 小学校1、2年生から理科と社会科はなくなりました。つまり2つを統合して新しい教科、生活科になったのです。したがって、理科の学習は小学校3年生から始まることになります。そして、中学校になると理科は第1分野と第2分野に分かれ、高等学校になると「普通教育に関する教科としての理科」と「専門教育に関する教科としての理数」に分かれます。大学では理科という名称をほとんど使いませんから、小学校3年生から高校3年生までの10年間となります。

2 理科の教育目標
 指導要領の目標は表1の通りです。これらの違いを分かりやすくするために、それぞれの目標を読点ごとに区切って並べ、さらに、共通する語句を取り出したものが表2です。なお、高等学校には「理科」と「理数」がありますが、「理数」を外して「理科」に限定しました。

表1 学習指導要領(平成10年度改定)の理科の目標

小学校  自然に親しみ,見通しをもって観察,実験などを行い,問題解決の能力と自然を愛する心情を育てるとともに自然の事物・現象についての理解を図り,科学的な見方や考え方を養う。
中学校  自然に対する関心を高め,目的意識をもって観察,実験などを行い,科学的に調べる能力と態度を育てるとともに自然の事物・現象についての理解を深め,科学的な見方や考え方を養う。
高等学校  自然に対する関心や探究心を高め,観察,実験などを行い,科学的に探究する能力と態度を育てるとともに自然の事物・現象についての理解を深め,科学的な自然観を育成する。(ふつう教育に関する各教科、第5節理科)

 事象を探究する過程を通して,自然科学及び数学における基本的な概念,原理・法則などについての系統的な理解を深め,科学的,数学的に考察し,処理する能力と態度を育て,創造的な能力を高める。
(専門教育に関する教科、第9節理数)

表2 小学校から高等学校までの理科の目標の比較

共通する語句

小学校

中学校

高等学校
自然に・・・ 自然に親しみ 自然に対する関心を高め 自然に対する関心や探究心を高め
・・・観察,実験などを行い、 見通しをもって観察,実験などを行い 目的意識をもって観察,実験などを行い 観察,実験などを行い
・・・を育てるとともに自然の事物・現象についての理解を・・・ 問題解決の能力と自然を愛する心情を育てるとともに自然の事物・現象についての理解を図り

科学的に調べる能力と態度を育てるとともに自然の事物・現象についての理解を深め
科学的な・・・

科学的な見方や考え方を養う
科学的な自然観を育成する

 表2の左端はすべてに共通する語句です。それらをつなぎ合わせると、自然に・・・、・・・観察,実験などを行い、・・・を育てるとともに自然の事物・現象についての理解を・・・、科学的な・・・。となります。これでは分かりにくいので、小学校から高等学校までをつなぎあわせてみましょう。すると、次のようになります。

自然に親しみ関心や探究心を高め、
見通しや目的意識をもって観察,実験などを行い、

問題解決の能力と自然を愛する心情と科学的に調べる能力と態度を育てるとともに
自然の事物・現象についての理解を
図り深め、

科学的な
見方や考え方を養う(小中学校)。
科学的な自然観を育成する(高等学校)。

 この中で一番大切なのは最後の語句です。つまり、小学校から高等学校まで、理科は科学的であるということです。そして、自然に親しみ関心や探究心を高め、観察や実験をすることは目的を持った遊びの延長線上です。そこから、さらに自然の事物・現象について理解を深めることで、最後の目的に辿り着くことができるのです。ここで確認しておきたいことは、面白おかしい観察実験をどれだけくり返しても科学的なものに近付かない、ということです。これは小学校であっても避けなければなりません。

3 理科って科学?
 もう1つ、注目したい表現があります。それは最終目標に科学ではなく、科学的、という表現を使っていることです。つまり、厳しく解釈すれば科学ではないことになりますが、小学校から高等学校まで同じようにとらえることはできません。私は表3のように考え、「中等理科は科学の入り口」であると解釈しました。さらにこの考えを推し進め、理科の分野名に「学」をつけました。物理ではなく物理学、というようにです。まだまだ学問としての体系を整えていない単元もありますが、それでも自然科学としての目標を外さないようにするため、また、生徒の意識を高めるためにも理科=自然科学として考えたいと思います。

表3 科学的という語句の解釈

小学校  科学のような(科学の体系を整えはじめるための)
中学校  科学の入り口、あるいは、初等科学としての
高等学校  科学という立場からの

4 自然は科学だけで解明できない
 最後に、自然について少しだけ考察してみましょう。広辞苑第四版によると、自然の意味の1つに「人の力では予測できないこと」とあります。つまり、科学の力では予測できてしまうことは自然ではないのです。これは日本人固有な考えであるような気もしますが、実は世界共通の自然観です。そうでなければ、科学と宗教、あるいは、科学と哲学を融合させるような考えは出てこないはずです。アインシュタインも、「宗教なき科学は不完全であり、科学なき宗教は盲目だ。」と言っています。科学も宗教も哲学も、全く同一のものを違う側面からとらえようとしているだけだと思います。その対象が自然であり、自然=人類が永遠に憧れ続けるもの、永遠に掴むことができないもの、と考えることができます。


参考資料 広辞苑第四版から、理科に関係する語句を抜粋・転載

語 句

意 味
自 然  人工・人為になったものとしての文化に対し、人力によって変更・形成・規整されることなく、おのずからなる生成・展開によって成りいでた状態。/ 人の力では予測できないこと。
科 学  世界と現象の一部を対象領域とする、経験的に論証できる系統的な合理的認識。研究の対象によって種々に分類される(自然科学と社会科学、自然科学と精神科学、自然科学と文化科学など)。
自然科学  自然に属する諸対象を取り扱い、その法則性を明らかにする学問。ふつう天文学・物理学・化学・地学・生物学などに分ける。最近は生化学・生命科学・人間工学など古典的境界をこえる新しい分野も生じている。
理 科  学校教育で、自然界の事物および現象を学ぶ教科。/ 自然科学の学問。理学部・工学部・医学部・農学部などの総称。

ここまでお読み頂いた方は、理科はどこへ行くのか?をどうぞ!


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