私の日記
                

 メコンデルタを見よう!
                 
 1998 01 03(土)晴れ 

 ==◎今日の日程=======================
    →5:45ホーチミン(バイク)→チョロン駅06:25→
  09:00ミトー(バイク)→(フェリー)→
  11:15→14:00サン・フォック村
  ・ エンの家に招かれる
                             民 泊

 ===============================

  朝5時半。
  もうすぐサイゴンだ、と車掌に起こされる。

  5時45分。
  サイゴン駅着。
  ハンと一緒に駅前に出る。私がメコン・デルタ先端のサン・フォッ
 ク村に行きたいと言ったので、彼女はチョロン・バス駅までのバイク
 タクシーを探してあげると申し出た。彼女の好意に甘えた。しかし、
 彼女は私が交渉するより高い値段の運ちゃんと話をつけてしまった。
 「まあ、彼女を立てるとしよう。」

  チョロン駅にはたくさんのバスがいた。
  私はミトー行き大型バスに乗った。

  ある方向に向かって時間が流れている。
  私はMITOから船に乗り、AP THOI THUANに向かお
 うとしている。たぶん宿はないだろう。しかし、何とかなる。誰かに
 拾ってもらおう。街に着いたら、できるだけ早く寝る場所を確保する
 こと。英語の話せる人が出合わないかなあ。でも、今回の目的は民泊
 ではない。あくまでメコン・デルタの見学である。

  バスの出発を待っている。2時間後のようだ。今は11時なので1
 3時出発になる。しかし、バス一杯に人が集まれば時間前に出発する
 だろう。

  さっき市場で食った飯はうまかった。3000ドンのフォーと10
 00ドンの『豆腐に甘汁をかけたもの』。特に豆腐の彼女は、ていね
 いに豆腐をすくって、奇麗なゴミのない汁をかけてくれた。その丁寧
 さが、とても美しく印象に残る。

  ところで、バスの目の前にいる少女が私にウインクした。もう溶け
 てしまいそう。こんなに美しい少女を見ていられるのなら、2時間で
 も何でもすぐに過ぎてしまう。

  
  (上:私の日記帳から。少女のスケッチ。)

  11時13分。
  バスはエンジンを掛けた。予定よりずいぶん早いがラッキー。
  今度も先頭に座っているんだぞー!

  11時15分。
  出発。少女と別れるのが寂しい。

  12時10分。
  河を越える。
  切符(400ドン)を買う。

  バスから降ろされ船を待つ間、サトウキビジュースを飲む。ナチ
 ュラルな甘さとライムの香り、砕かれた氷のサクサクする音がたま
 らない。(1500ドン)

  さて、そろそろまずい事になってきた。英語が全く通じないのだ。
 バスに戻った私は、無意味と知りながらジェスチャーを繰り返す。
 「今晩、AP THOI THUAN村に泊まりたい。
 しかし、何ともならん。

  しばらくすると、1枚の紙切れが回ってきた。この紙は、先ほど
 私が行き先を書いた紙である。そこには、英語で、
 『君は何がしたい?』
 と書いてある。私は、
 『今晩村に泊まり、明日サイゴンに帰りたい。』
 と書いた。紙切れは、人々の手から手へと渡たり、満員バスの後ろ
 に消えた。しばらくすると、紙が戻ってきた。
 『私が教えてあげましょう。』
 とある。私は、自分の国籍と名前を書いた。

  紙は何回か行き来した。

  14時。バスが突然止まった。
  「おかしい。」
  「私の予定では16〜7時到着のはずなのに。」
  しかし、乗客は全員降り始める。
  「バスを乗り換えるのだろうか。」

  リュックを担いでバスを降りると2人の若い女性に声を掛けられた。
  「あなた、これからどうしたいの?」
  「私はAP THOI THUAN村へ行きたい。」
  私は、彼女の発音がよく聞き取れない。
  「あなた、これからどうするの?」
  「私は、今晩ここに泊まりたい。」 
  どうやら、AP THOI THUAN村へのバスは無いようであ
  る。
  「私達の家で相談しましょう。」
  
  私は、訳の分からないままバイク・タクシーにまたがり、彼女のバ
 イクを追った。彼女のバイクには、3人の女と小さな荷物が3つ。私
 は、彼女の家に向かっていると思った。

  しかし、私のバイク・タクシーは彼女と一言交し、先に進んだ。
  もう10分は1人で乗っている。
  だんだん、心配になってきた。

  
 (写真上:バイクタクシーの運ちゃん。実は彼はとても親切な人な
  のだ。2人の子供を男手1つで育てている。私に対しては、ほと
  んど無料で乗せてくれた。)

  突然、視界が広がる。
 「メコンデルタだ。」
  よく考えれば、初めからデルタ地帯を走っているが、好い感じに
 なってきた。バイクは1軒の店の前に止った。周囲には何もない。

  運ちゃんが店の人と話をする。私はベトナム語が話せない。氷入
 りの茶が出てきた。とりあえず飲む。ホウジ茶の味がする。
 「カムオン。」
 ありがとうとは言ったが、会話をしたい。ベトナム語のフレーズ・
 ブックを取り出し、片言の会話を始めた。どこから集まってきたの
 か10人位に取り囲まれている。依然、状況は改善されぬまま会話
 と笑いが続く。
 「エン。早く来て!」
 あるいは、来てくれるのか?

  エンは来た。
  そして、
 「あなたは何がしたい。」
 と聞く。私は「ここに泊りたい」「明日帰りたい」「Ap Thoi
 Thuan 村に行きたい」「海が見たい」と言った。

  長い長い話し合いの後、
  ・ サイゴンに帰るバスは、明日13時発であること。
  ・ Ap Thoi Thuan 村は、誰も住んでいないこと。
               (なくなったのかも?)
  ・ 海へは、バイクで1時間かかること。
  が分かった。そして、今晩エンの家に泊めてもらうことになった。
 (しかし、両親の許可は取れていない。)

  私は再びバイクにまたがり、エンのバイクの後を追った。
  未舗装の道を走る。
  何回かカーブを曲がった。
  そして、煉瓦でできた家の前に止った。

  エンは、ここで待ってと言った。私は彼女にビザ申請書のコピー
 を渡した。これにはベトナム語による許可事項の他に顔写真もある。
 これで両親も安心できるだろう。

  彼女は嬉しそうに私を招き入れた。
  私は奥に通され、父親と母親に挨拶した。そして、庭に面したテ
 ーブルに案内され、父親とお茶を飲んだ。テーブル上の小さな皿に
 は、ビスケットと砂糖菓子がある。何日前のものか分からない。蝿
 も飛んでいる。しかし、彼が熱心に勧めるので私はつまんだ。悪く
 ない。(私は、翌日も自主的に食べた。)

  この部屋の中央には畳5、6枚の広さの板の間がある。夜にはゴ
 ザを敷き、蚊帳を釣って寝るのだろう。今は柱と柱の間にハンモッ
 クが掛けられエンの義姉が赤ちゃんを抱いている。色白の美人だ。
 一家の主はさぞかし満足だろう。

  エンは着替えて、家の仕事を手伝っている。彼女は19歳の短大
 生で将来は英語の先生を目指している。兄も姉も義姉も先生なので、
 エンの家族は先生一家なのだ。生活水準も比較的高い。

  庭を眺め、お茶を飲む。

  お茶を飲んで、親父さんと微笑みを交す。

  私は少し退屈になって、散歩に出かけることにした。エンが一緒
 に行くという。もちろん大歓迎だ。裏庭から1歩外に出ると、子供
 達が集まっている。10メートルも歩かないうちに子供達がエンを
 囃子立て始めた。外国人の男と歩いているのが珍しいのだ。初めて
 異国人を見る子もいるだろう。エンは帰ろうと言い、私は散歩でき
 ぬまま家に戻った。

  家に帰ると、親父さんがシャワーだと言う。私はシャンプーとタ
 オルを持って小さな小屋に入った。広さは畳1枚。中にはバケツ1
 杯の水と石鹸、そして、空っぽのシャンプーがあった。私は茶碗の
 ような器で水をすくい、髪を洗った。そして、身体を洗った。季節
 は冬でも冷水が気持ちよい。それに、バケツから水をすくって身体
 を洗うなんて贅沢なことだ。

  さっぱりして荷物の整理をしていると、夕食ができたと言う。私
 は先ほどのテーブルに座った。同じ位置だ。

  
 (写真上:テーブルに座り食事をするエンの家族。一番左がエン。)

  まず、キュウリと酒が出てきた。
  親父さんの手作りで褐色、いける味。

  それから、ドジョウのような魚の煮物、小さな焼魚、瓜の煮物が
 出てきた。女達はご飯を食べ始めたが、親父さんと私は酒を楽しん
 だ。コップ1杯の酒をちびちびやる。本当にちびちび。私はもっと
 飲みたかったが、身体に悪いというので1杯で終わった。
 「もっと飲みたいよー。」

  魚を煮物と焼いたものは旨い。瓜は、ううう。煮汁に砂糖しか入
 っていないようだ。米は細長いタイプで、ぱさぱさしていた。

  食後のティー・タイム。
  庭をぼーっと眺めていると、テレビを見ている気分になる。鶏が、
 「けぇーーーこぉっこぉっこぉっこぉっこぉっ」
 突然目が覚めた。犬が、
 「わん。」
 彼の鳴き声は変らんなあ。猫が、
 「すりすり。」
 もう、食べ物はないよ。

  自然と動物の世界が展開する。何時間見ていても飽きないだろう。
 私の座る椅子とテーブル。同じ高さの庭、それがメコン・デルタ、
 野性のアヒル、生い茂るバナナへと続くのである。満腹感に浸る私
 は、自分が人間なのか、動物なのか、自然の一部なのか何なのか、
 分からなくなる。
 「あー、変な気分。」

  私が星を見たいと言うと、エンは、
 「一緒に行けなくてご免なさい。私には彼氏がいるし、あなたと一
 緒に歩くと噂を立てられるから。かわりに義姉のトラムが案内する
 わ。」

  トラム、エンの妹ニャー、そして、私の3人は夜の散歩に出かけ
 た。星が一杯ある。私たちの懐中電灯のほかに、明りはない。正確
 に言うと、まばらな家のすき間から蝋燭の明りが漏れている。
 「ぶーら、ぶーら」
 と歩く。
  
  しばらく行くと、ひときわ明るい店がある。ビリヤード場だ。私
 は挨拶をして中に入った。3人の若い男がプレイしている。トラム
 は、
 「夫(エンの兄)はビリヤードが上手なのよ。私もね!」
 と得意げに話した。
  そして、私にもやらないかと誘った。私は辞退した。
  この店の台は1台である。

  家に帰ると、

 
                 

つづきを、どうぞ!
私の日記
ありがとうエン
1月4日

        

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