このページは旅行記『メキシコとキューバの旅行記2008夏』 2008 jul. 19 - 2008 aug. 19  です。

私の日記 4日目
2008年7月22日 火曜日           
                      
◎ ソカロ周辺観光、強盗に遭う ====================
1 メキシコシティーのソカロ観光
(1)メトロポリタン・カテドラル
(2)テンプロマイヨール
(3)国立宮殿
2 
首絞め強盗に襲われる
                       メキシコシティー泊4
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 午前3時半起床。どうも、この時間が気に入っているらしい。トイレへ行き、階下のロビーで水を飲みながらパソコンを打つ。一昨日と同じようなパターンだ。今日はソカロ(街の中央にある広場)周辺を見学しようか、それとも近代美術館にしようか迷っている。メキシコシティー観光は今日までにして、明後日はプエブラに移動しようか、それも迷っている。

 午前9時前に地下鉄『ソカロ駅』を出て、正面にあるメトロポリタン・カテドラルを見学した。ソカロに来たら見学しなければいけない教会だと思うけれど、感想はとくになし。見学を予定している人は、パスポートを提示しなければいけないので、忘れないこと(無料)。

 次に、そこから徒歩5分の距離にあるテンプロマイヨールを見学した。ここは必見だ。簡単にメキシコシティーの歴史を紹介すると、500年昔、スペイン人が侵略するまで、ここは中央に小さな島が浮かんでいる広大な湖だった。その島の寺院が『テンプロ・マイヨール』で、交通手段は船しかなかった。現在の人口2000万人を超える巨都市『メキシコシティー』からは想像できない歴史だ。とにかく、この寺院を無視したメキシコシティー観光はあり得ない。昨日訪問した国立人類学博物館の目玉『太陽のカレンダー』は、ここに捨てられていたものである。とにかく、ここは必見である。

 それから、屋台で不味いタコスを食べてから、国立宮殿を見学した。ディベラは描いた壁画が素晴らしい。これだけを見学するだけでも価値があるので、ここまで来たら、合わせて見学すると良いと思う。その他にも見るべきものはいくつかあったが、詳細は忘れてしまった。

 それより、今日は今回の旅のクライマックスとも言える出来事があった。それは、首絞め強盗の被害者になったことである。こんな体験はなかなかできるものではないし、自分からすすんで頼むことはできないので、本当に貴重な体験だったと思う。事の顛末を記そう。私は知人とコロセム(プロレス会場)で会う約束をしていた。待ち合わせ時間より1時間早くに着いたので、近くの屋台でタコスを3つ食べた。これは大変美味しかったので、また食べに行きたいくらいだ。また時間が余っているので、落ちついた茶店でコーヒーでも飲みたいところだが、適当なところがないので、近くの商店でコーラを買い、その店の前の椅子で時間を潰した。カメラのレンズを掃除したり、ガイドブックを読んだり、iPodでスペイン語会話の練習をした。適当な時間になったところで、全ての荷物を鞄にしまい、鞄を肩から斜がけにして、鞄を正面にして歩き始めた。会場までは50mの距離であり、人通りは少なくなく、15m先の交差点には警察官もいる。しかし、私が10歩も歩かないうちに2人組の男に襲われた。1人が鞄を引っ張り、1人が後ろからクビを絞めた。一瞬のうちに両足が浮いたので、その時点で私と強盗との勝負はついていた。正直な話、それは私の不注意だから仕方ないが、私は非常識な快感を味わった。俊敏な肉食獣に急所を噛まれた草食動物が、確実に死に至ることを察知したときの感覚である。自分ではどうにもならいない状況に一瞬にしてなったこと、芸術ともいえる相手の鮮やかな技術に敬服するより他に、術はない。もちろん、これは私が正常に大きな怪我もなく意識を取り戻したから言えることだが、、、

 結局50万円以上の金品をやられてしまったが、私は後悔していない。それに匹敵する貴重な経験をしたと感じている。これまでに、たくさんの危険な目に遭ってきたし、首締め強盗にあった人を助けた経験もあるけれど、自分が意識を失って倒れ、流血、自力で立ち上がる経験は初めてだった。そうそう、立ち上がった時の状況も記そう。私は、なぜ倒れているか分からなかったし、なぜ顔から血が出ているのか分からなかった。両肘をついて顔を30センチほど持ち上げ、真っ黒な地面を見ながら「酔っぱらっちゃったかな?」とか「ここはどこかな?」と考えたけれど、答えは出ないし、それ以上顔を持ち上げる力はなかったし、頭がくらくらするので、もう一度倒れることにした。否、正確には立ち上がろうと努力したけれど、十分に呼吸ができなかったし、咳き込んで涎が出るので、頭を打ち付けて倒れるより、残っている力で自分で倒れ直す方が良いと判断した。酔っぱらっているなら、10分寝るだけでも効果はあるような気がした。

 次に起き上がった時は、正座の状態で考えた。何が起こったのか、そして、ここはどこなのか。とりあえず、顔面の流血は見た目が悪いけれど大怪我ではないこと、喉は痛いけれど呼吸できるし骨折していないこと、その他の部分は怪我はほとんどないこと、カメラバックはないけれど、ガイドブックとスペイン語の本と、それから、眼鏡と引きちぎれたイヤホンが落ちていることを発見した。ここで私が感じたことは「メガネが割れていなくて良かった」だけれど、とよりも不思議だったとこは、2册の本が落ちていたことだ。私は鞄のチャックを間違いなく閉めていたから、犯人は2册の本を置いていってくれたことになる。私は、犯行時も日本に帰った今も、犯人をそれほど恨んでいない。むしろ、本について感謝している。その後、2册のうち1册は、別な場所でスリにとられてしまうだが、私は、その『スリ』の方に怒っている。顔を隠しているからだ。首締め強盗の顔は見たけれど、顔がない犯人は本当に汚いと思うのだ。良いことをするときも悪いことをするときも、相手に自分の顔を見せ、正面から堂々として欲しいものだ。善悪は、当事者どうしで決めることで、他人がどうのこうの言うのは間違っていると思う、とさえ思う。

 私は強盗に遭ったことより、誰も助けてくれないということがショックだし、倒れている私を誰も助け起こしてくれなかったことがショックだ。(ここで内容が重複するが、犯行当日の夜の手記を残しておく)朦朧とする意識の中、私は自分で立ち上がろうとしたけれど、何故、血が出ているのか分からなかったし、どこにいるのかわからなかったし、どうして立ち上がるのができないのか、どうして再び道路に倒れたのかわからなかった。おそらく、2回は同じように起き上がろうとして顔をうつぶせにして倒れたのであろう。眉毛の下の怪我は、自分で起き上がれなくて顔を打ち付けた時にできた二次的な怪我に違いない。頭は相当に重いから、流血をするぐらいの怪我をする事は簡単だ。起き上がろうとした時、私は酔っぱらっているのかと思い、何とか自分をコントロールしようと思ったけれど不可能だった。もうあと1分だけ寝ようとして寝た事は覚えているが、2分も3分も寝ていられる状況ではない事にも気づいていた。それだからそこ、何回も顔を打ち付けてしまったのかも知れない。それに血液と一緒に涎も出てしまったことが、とても不覚だった。ようやく立ち上がった私は、自分が生まれたての子鹿のように振る舞った。しかし、実際は、焦点の定まらない意識朦朧とした流血の日本人男性が辺りを見回しているだけの事だから、周囲はさぞかし、奇異な出来事として見物していたことだろう。私は自力でパトカーまで歩き、首絞め強盗に遭った事を伝えたが、血にまみれた私の顔は事件発生からの時間を明確に物語っていたことだろう。それにしても、パトカーまで5メートルの距離も無いのに、警察官は何をしていたのだろうか。私はパトカーに自分のガイドブックとメキシコ会話の本を放り込み、・・・さて、今は怪我をしたのでクラビットを1錠飲んだ。汚い路面の汚れの中に、たくさんの細菌がいるからだ。それからビールも飲んでしまった。これは飲まなくても良いのに、失敗したと思う。一番頭に来るのは警察官の対応だ。彼らが私にしてくれたことは、2つ。1つは、ズボンのボケットからくちゃくしゃになった『トイレットペーパー約3メートル』をくれたこと。もう1つは、私の指示で、犯人の逃走経路を一緒に歩いてくれたこと。以上2点である。そもそも、「お前! 犯行を見ていたんじゃないの?! それに、俺が倒れていたのに気づかないの?!」と言いたい。まあ、一時は警察官が30人ぐらい集合して事件らしくなったけれど、被害者の指示や誘導がなくても犯人の逃走経路を確認したり、事情を確認しても良いんじゃないかと思う。だって、見物客はぐるりといるんだからサ。・・・さらに、私が唖然とした対応は、「これからどうしたい?」と聞くから、「警察署に行って、盗難証明書を作りたい」と答えた時の対応だ。「それよりも先に、タクシーで病院へ行け。それがダメなら、タクシーでホテルに帰れ」と言うではないか。もちろん、もっと穏やかな口調だったけれど、結論は同じことである。私が「お金もとられたので1ペソもありせん」と言うと、「君のホテルは歩いて帰れる」と言い出す始末である。警察署にもタクシーで行け、と言うし、もう頭に来た私は、トイレットペーパーをもっとくれ!と言うしかなかったけれど、警察官は紙も切れていた。こうして、逆上した私の顔からは新しい血液が流れ出たが、私に紙を買う金はない。役に立たない野次馬に『物乞い』するより他に、方法はないのである。こうして、書いているだけでも頭に来る。

 それから、私が倒れていた唯一とも言える証拠物件である『私の血痕』を野犬が舐めてしまったことも頭に来る。私が警察官に声をかけた数分間で、1匹のイヌがすべて舐め尽した。私が「ここです!」指差した路面には、何もないのである。野次馬も警察官も野犬も、全員ぐるになって、「何もなかった」と言えば、それで終わるような有り様だった。私は狂人ではない。

今日撮影した写真は全て失われてしまった。当然の事であるが、それはそれで仕方ないし、もうどうでも良い事だ。そもそも私が死んでいたら、私1人だけは幸せな世界にいることになる。そもそも生きているとは何なのだろう。仏陀は「一切皆苦」と説いたが、何事も楽しい事に変換させれば良い。今日の出来事も良い方向に変換すれば良いのであって、その他にどうしようというのだろう。今は締められた首が物理的に痛いが、それ以上の痛みは無いように思う。

 さて、今日の訪問地は、ソカロだった。今日を思い出そうとしても、さっぱり思い出せない。私は写真に頼った、つまらない時間の過ごし方をしているのかも知れない。そもそも「過ごし方」という表現もよろしくない。・・・(中略)・・・ 強盗の話よりも、私が興味あるのは、これからカメラを買うべきか買わないべきか、という点だ。確かに最小限度のものは欲しいから、一番安いデジカメを買おうかしら? 買ったカメラは、日本に帰る前に売ってしまおう。それから、パソコンもいらないような気がしてきた。ノートに鉛筆で書いた方が味わいが・・・/ 23時半、そろそろ眠ろう。事件から5時間が経過した。

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