このページは、Mr.Taka 中学校理科の授業記録 1年(2012年度)です

第41時
実験17:パラフィンを加熱、冷却する

     2012 10 1(月)、2(火)
     理科室

はじめに
 この実験は、私にとって初めてのものでした。これまで敬遠していた理由は、内容が簡単過ぎること、液体を冷やして固体にすると周辺部から冷え固まるので中央部が凹むという理解しにく結果になること、パラフィンの洗浄は面倒で生徒に任せられないこと、です。しかし、教科書が新しくなり、大きく取り上げているので生徒実験させることにしました。やるからには1時間かけて、教科書に掲載されていない問題点を洗い出し、生徒が説明できるレベルまで持ち込みます。また、パラフィンは何10年前に先生が準備されたかわからない古いものを使います。


上:ビーカーに入れたパラフィンを加熱する生徒達


本時の目標
1 パラフィンについてまとめる
2 固体のパラフィンを加熱し、液体に状態変化させる
3 状態変化しても、質量は変化しないことを確かめる
4 パラフィンの固体は、液体中に沈む(密度が小さい)ことを理解する
5 パラフィンの固体は、液体より体積が小さい(密度が小さい)ことを理解する
6 事故なく安全に実験する

準 備
生 徒 教 師
  • 筆記用具
  • 教科書、理科便覧、ファイル
  • 本日の学習プリント (1/人)
  • パラフィン
  • ビーカー
  • ガスバーナー
  • 三 脚
  • 金 網
  • マッチ
  • ぬれ雑巾
  • 電子てんびん
  • 段ボール紙(10cm×10cm)
  • バット

授業の流れ
(1) 本時の内容紹介(1分)

(2) パラフィンとは何か(2分)
 パラフィンとは何か、生徒の考えを求めましたが何もでません。『ろうそくの原料』『溶けやすい物質』として、さらっと紹介しました。

(3) パラフィンを加熱・冷却した時の変化を5段階にまとめる(15分)
 これからパラフィンの加熱・冷却実験をしますが、いつものように結果とまとめ方を紹介します。予想に時間をかけるのではなく、正確な実験と深い考察のために時間を使う作戦です。パラフィンの粒子をイメージさせ、質量と体積の変化を粒子の数や状態から説明できるようにさせます。加熱・冷却は5つの段階に分けます。
本日のまとめ
 パラフィンは加熱して液体になっても質量は変わらないが、体積は大きくなる。


上:本日のまとめを発表する生徒

加熱・冷却の5段階

第1段階: 加熱前のパラフィン(すべて固体)
 各班の実験台中央にビーカーに入った固体パラフィンを置き、その状態を学習プリントにスケッチさせます。ビーカの側面にこびりついている様子もスケッチさせると良いでしょう。僅かに付着しているパラフィンは、いち早く液体に変わるはずです。


上:ビーカー側面にパラフィンがこびりついているもので実験する生徒

 今回使用するパラフィンは何度も加熱・冷却をくり返して不純物が混入しているだけでなく、班によってパラフィンの量が違いますが、メインの目的『固体と液体の状態変化』を達成するために支障はありません。薄汚れた材料を使って実験します。

 一番早く書き終えた生徒に、各班のパラフィンが入ったビーカーの質量(g)を電子てんびんで計測させ、それをスケッチの下に記録させます。なお、電子てんびんで計測するのは重力(N)ですが、この段階では触れません。重さと質量の違いは、中学1年の物理『』で学習します。

第2段階:半分溶けた状態(固体と液体が半々)
 パラフィンを加熱すると、一気に全部溶けるわけではありません。融点に達した部分から順に溶けていきます。溶ける場所は各班によって違いますが、ビーカーに接する部分から溶けていくことは共通しているでしょう。さて、第2段階としてスケッチさせるのは、半分溶けた状態です。そして、まだ溶けていない固体のパラフィンが液体中に沈んでいる様子を書かせます。液体は無色透明なので、白い固体と区別できます。沈む原因は『密度』の違いであり、固体は液体より大きい密度を持っています。

 もう1つポイントがあります。それはパラフィンの体積が増えていることです。パラフィンが入ったビーカーを見ると、何年か前に実験した時に記した黒マジックの線があります。これは固体の時のパラフィンの位置を示したものです。新しく位置を書直すこともできますが、パラフィン上面が水平ではないので正確に位置を決めることは不可能です。体積変化を調べたいなら、完全に液体になった時に黒マジックで位置を記せば良いと思いますが、実際は中央部が凹むように冷え固まるので定量することはできません。

 また、この時の質量を計測し、記録するための空欄を用意させます。計測する時は、電子てんびんの計測台が熱で変型しないように、段ボール(10cm×10cm)を下に置きます。電子てんびんをゼロリセットする方法は、前の1で質量を計測する時に確認しておきます。


上:パラフィンが半分溶けた状態のときの質量を計測する様子(質量は変化しない)

第3段階:すべて溶けた状態(すべて液体)
 すべて溶けた時、パラフィンの液面は水平になります。体積は固体の時よりも増えているはずですが、この時点では確認できません。液体の水平面に黒マジックで印をつけ、これを冷やした時に位置が下がることで体積変化を調べることが可能です。

 理論的に質量は変わらないはずですが、実際の実験では僅かに減ります。その理由を生徒に考えさせると良いでしょう。もちろん、理想的な実験ができて班は質量変化はありません。質量が減少する理由については、実験後に説明してもらうことを予告して、第3段階を終了します。

第4段階:液体を冷やして、半分固まった状態(液体と固体が半々)
 冷たい外気に接している部分から固体に変わっていくので、液体と固体が半々の状態を直接見ることはできません。白色不透明の固体が、無色透明の液体を取り囲むからです。

 スケッチさせる時のポイントは、ビーカーの中央部が凹むように冷え固まっていくことです。この現象が起る原因についても実験後に説明してもらうことを予告します。ただし、この理由は簡単過ぎるので、省略の可能性大です。


上:水を入れたバットに入れて冷やしている様子

 時間がない班は水で冷やします。ただし、写真上のようにパラフィンを揺らし、ビーカー側面につけると体積変化を調べることは困難です。その他の発見があると思いますが、・・・

 適当な頃合を見計らって、質量(g)を計測・記録させます。

第5段階:すべて固まった状態(すべて固体)
 第4段階より中央部が凹んだ様子を書いて終了です。この図のポイントは、ビーカーに付着しているパラフィンの位置が第4段階と同じことです。

 質量は、第1段階〜第5段階を通して変化ありません。第3段階で減少した場合は、第3段階〜第5段階が同じになるはずです。どんなに操作が悪くても、第4段階と第5段階は同じになるはずです。その理由は、実験後に生徒に説明させます。


上:A組での板書

(4)生徒実験 (20分)
 簡単な実験なので、さくさく始まりました。ポイントは弱火で加熱させることです。


上:実験装置を組み立て、ガスバーナーを点火する生徒

 パラフィン入りビーカーを加熱すると、ビーカーに接する部分から溶けます。その結果、写真右のように固体が浮いてしまいます。固体は液体中に沈む、という理論に反します。

 これは一時的な現象なので、下の写真のように、ガラス棒などで突かせてみましょう。固体が液体中に沈むはずです。

写真右:一時的に、液体中に浮いている固体のパラフィン

.


上2枚:固体のパラフィンを突き、液体中に沈める様子


上:大部分が液体になった状態の質量を測定する様子


上:すべて液体に変化したパラフィンを冷やすため、ハンカチを使って移動させる生徒


上:早く冷やすために、水を手で送る様子


上:第1段階〜第3段階のA君の記録
 → 質量不変

(5) 実験の考察(パラフィンの質量が僅かに減少する理由) (5分)
 教科書レベルのまとめは実験前に完了しているので、液体になったパラフィンの質量が僅かに減少する理由、を考えさせます。これを説明するためには、パラフィンの粒子とその状態を考える必要があります。

質量が減少した班の割り合い
 3クラスとも、約30%の班で質量が減少しました。その割り合いはパラフィン30gに対して0.1g 〜 0.3g、です。

生徒から正しい説明を引き出すための発問例
「減少した班は、何かのにおい、パラフィンのにおいがしませんでしたか?」 
「減少した班は、液体になってからも加熱し続けた班です。危険な班、ということになりますが、液体になってからも加熱すると、何になるんだった?」
「パラフィンを小さな粒の集まり、として考えましょう。粒にはいろいろいろな状態がありますが、熱エネルギーをもらって元気いっぱいにんった粒はどうするかな?」


上:身ぶり手ぶりを交えて完璧に説明する生徒


上:A組の板書


上:B組の板書


上:C組の板書

(5) 実験の後片付け(7分)


上:D君の学習プリント
 → パラフィン粒子の動きが記させている
 → まとめとして、重さ(質量)と体積の関係、すなわち、密度について記されている


上:E君の学習プリント


授業を終えて
 身近な材料パラフィンで、その粒子の状態をイメージできました。実践して良かったです。密度(密度=質量/体積)について復習ができたことも収穫です。今日の復習は、数式ではなく言葉を使いました。E君の学習プリント(上の写真)右下をご覧ください。

液体の食塩をつくる
 また、時間があまったりゆとりがあるクラスは、ごく少量の食塩を加熱し、液体の食塩をつくらせました。実験時間は3分です。私自身、初めてのチャレンジでしたが、簡単にできたのでびっくりです。ポイントは、新品の試験管を使うこと、食塩の量を薬さじ小さじ1ぱいにすること、ガスバーナの空気ねじを最大にして温度をあげること(ガスの量を最大にすると逆に温度が下がることがある)、です。

実践ビジュアル教科書『中学理科の化学
第4章 化学変化  1円硬貨の密度 p.26
第4章 化学変化  消したろうそくに火をつける p.43
第5章 状態変化  ロウの体積の変化(固体→液体→固体) p85

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実験18:パルミチン酸の融点、凝固点

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