このページは、Mr.Taka 中学校理科の授業記録 1年(2012年度)です

第40時
実験16:エタノールの沸点

     2012 9 26(水)、28(金)
     理科室
     2016年追記あり

はじめに
 本時はエタノールの沸点、次時『パラフィンを加熱、冷却する』を挟み、次々時にパルミチン酸の融点と凝固点を測定します。いずれも同じような実験装置で、同じようなデータ処理を行います。簡単な実験ですが、生徒にとって初めの内容なので検証実験にしました。

 他年度の実践
実験9 エタノールの沸点 1年(2002年)


上:友達が記録したデータを見せてもらい、グラフを書く生徒


本時の目標
1 エタノールについてまとめる
2 エタノールの沸点は78度Cであることを検証実験する
3 数10個のデータから、1つのグラフを書く
4 湯煎法を正しく行い、安全に実験する

準 備
生 徒 教 師
  • 筆記用具
  • 教科書、理科便覧、ファイル
  • 本日の学習プリント (1/人)
  • 温度計
  • エタノール
  • 沸騰石
  • 直径18mm試験管
  • 直径15mm試験管
  • 300mlビーカー
  • ガスバーナー
  • 三 脚
  • 金 網
  • マッチ
  • ぬれ雑巾
  • ピンセット、脱脂綿、マッチ(演示実験用)

授業の流れ
(1) 本時の内容紹介(1分)

(2) エタノールとは何か(10分)
 エタノールとは何か、生徒の考えを求めました。以下の3枚は、3つのクラスの板書です。

上:A組の板書
 1学期に行った『実験17 植物がつくるデンプン』の印象が強かったのでしょう。葉の脱色、という意見が1番に出されました。


上:エタノールを使った脱色の様子(授業記録『実験17 植物がつくるデンプン』2012年から)


上:B組の板書
 1番初めの意見は『水より軽い』でした。正しくは『水より密度が小さい』ですが、何故、密度について意見が出されたのか不明でした。


上:C組の板書
 A組と同じように、葉の脱色からスタートです。その後、密度0.789g/?、常温で液体、無色透明、お酒の主成分が出ました。

コラム:日常生活で役に立たないことを学ぶ
 しかし、本時のメイン『沸点』については意見がでません。これは全3クラスとも同じです。私が誘導発問し、『沸点』を引き出しました。子どもの沸点に対する興味関心はゼロ、と言えるでしょう。一般的な大人も同じレベルで、エタノールの沸点が水より低いこと、78度Cであることを知っている人はごく少数です。知らなくても日常生活に支障ありませんからね。

 このような日常生活と関係ない、いわゆる役に立たないことを学習する価値は何でしょう。

 その価値は、知性を持ったものだけが理解できます。未知を知ること、既知のものを新しい視点から捉えること、不思議な現象を説明することは知的興奮そのものです。人類がもっている本能、知的欲求を満たすことです。この喜びを味わうためには特別な努力や勉強が必要なので、特別に学校で学ぶわけです。

 もちろん、日常生活で役に立たないものは何1つありません。その事実に気づかないのは、つまらない日常生活をしている人々です。楽しく豊かな日常生活を営んでいる人にとって、価値のないことは何1つありません。人生において無駄な努力、回り道は何1つないことと同じです。

(3) 実験結果の紹介(10分)
 実験前に結果を紹介しました。

 理想的な実験ができた時に得られるデータ、および、グラフの紹介です。いわゆる検証実験です。中学生は化学的視点や経験が少ないので、私は正しい操作で理想的な実験を行わせることに大きな価値を感じています。操作の基礎・基本を教え、現象を観る視点を教える必要があります。このエタノールの沸点の測定において、子ども1人ひとりに予想を立てさせることは間違っている、教師の自己満足であると言えるでしょう。教師が誘導して予想させることもできますが、誘導もほどほどにするべきです。基礎・基本を教えることの方が重要です。

 なお、次時『実験17 パラフィンを加熱、冷却する』の次に、本時とほぼ同じ実験装置でパルミチン酸の融点を測定します。


上:板書例

指導のポイント
1:グラフの横軸と縦軸は、学習プリントに印刷しておく
2:グラフの横軸は、加熱時間(30秒毎に計測)
 → 1分毎は暇です!
3:グラフの縦軸は、エタノールの温度
 → 基本は、目盛りの1/10まで計測する
 → しかし、温度計そのものの誤差=1度Cなので、0.1度Cまで計測することは無意味
 → 今回の目的は、沸点(78度C付近で温度上昇が止ること)の確認
 → 結論、0.1度Cまで計測しても良いが、グラフに表すことは不可能
4:各データは、なだらかな曲線で結ぶ
5:78度C付近で温度上昇が止まり、エタノールがなくなったら一気に上がる→ 危険!=消火
6:時計係1人、温度計測係1人、記録係1人、安全係1人を選ぶ
 → 兼任可

(4) 実験装置の紹介(10分)
 実験装置を板書しながら、準備するものと組み立て方を指導します。


上:板書例

安全上の注意
1:エタノールは簡単に燃焼する
2:液体のエタノールは、こぼすと机に広がって燃焼する
3:液体のエタノールは、衣服にしみ込んで燃焼する
4:エタノールの中に、沸騰石を2、3個入れる
5:試験管は2重にする
6:ビーカーの中にも沸騰石を入れる

エタノールの危険性の指導例
 理科室の暗幕を閉め、室内を暗くします。少量の脱脂綿を固く丸め、それをピンセットでつまみます。脱脂綿にエタノールをつけ、マッチで点火します。生徒から「わあ、きれい!」の歓声をもらいます。これは、エタノールが簡単に燃焼することを示す指導法ですが、危険性の指導法は以下の通りです。

 脱脂綿にエタノールをつけるとき、わざと大量のエタノールをとり、脱脂綿からピンセット、ピンセットから手へ滴り落ちるようにする。そして、次のように示す。「わあ、冷たい! 取り過ぎてしまいましいた。これは危険です。点火したら、先生の手が燃えます。さらに衣服についたら、水道水を直接かけることになります。もっと大量なら、服を脱ぐことになります。実験台にこぼれ、さらに台からこぼれたら、男子はズボン、女子はスカートが燃えることになります。もしかしてパンツまでしみ込んだらもう大変ですが、ま、今回使うエタノールは5mlなので大丈夫でしょう。とにかく、十分気をつけてください。ガスバーナーの炎は中火、エタノールは直接ではなく、湯煎法で加熱します。」


上:脱脂綿とエタノールの燃焼
 画像をクリックするとpdfファイルで開きます。その右上。実践ビジュアル教科書『中学理科の化学』の原稿から


上::A組の黒板


上:B組の黒板

(4) 生徒実験(20分)

 30秒毎に計測することがポイントです。理科室の壁にある時計の秒針を使えば十分です。

 加熱を始めてからしばらく安定しませんが、この実験では気にしなくて良いでしょう。

 できる生徒は、計測データをグラフに直接打たせます。データはできるだけ正確に打ちますが、誤差は1度C以上でも構いません。その理由は前述したように、温度計そもののに誤差があるからです。今回の目標は、加熱しても温度が上がらない時間=沸騰している時間、の確認です。78度C付近で合格です。

右:実験装置の全体像

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上:液体内部で気体にかわる現象(沸騰)を観察する生徒たち


上:壁にかかった時計の秒針を読む生徒(右)と温度計の目盛りを読む生徒(左)

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上2枚:エタノールに大量の沸騰石を入れた班
 → 温度計のクッションになるので悪くないかも


上:友達が記録したデータを見せてもらい、グラフを書く生徒

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上2枚:生徒2人の学習プリント(いずれもクリックすると拡大)

生徒実験に関する追記:2016年9月20日

火力について
 ガスバーナーの炎の大きさは『中火』です。この曖昧な表現によって、良い実験結果を出させる方法は、以下の通りです。
 大きく黒板に『中火』と書く
2 弱火でも強火でもない『中火』である、と言う
3 炎が温度計を直接温めることがないように注意させる
 → これで、最強の強火にはならない
 → 中火は、曖昧なまま進む!
4 実際に、点火させる
 → とにかく、実際に加熱させることが第一条件
 → 先生は、安全に加熱を開始できたか確実に確認する
 → 火力調整の方法は、すべての班が加熱できてから行う

5 5分間ほど測定、グラフ化させる
 → 一番早い班は、すでに8分(8回)ほど加熱している
 → グラフの形は、初めは不安定でも、3分後から安定することを知らせる

6 グラフの曲線を見て、火力を大きくするか判断させる


上:火力を大きくするかどうか判断させるための説明図

説明例

 みなさんのグラフを見てください。グラフの角度から、今のままで78℃に達する時間を予測してください。もし、角度が急で、授業時間内に終わるならそのままで描いません()。しかし、グラフの角度が緩やかで、78℃になるまでに時間がかかりそうなら、火力をアップしてください(B)。これは各班によって違いますので、みんなで話し合って決めてください。

 A:10分以内に78℃になるならそのまま
 B:火力が弱く、78℃にならないようなら火力アップ

 そして、火力をアップする場合は、グラフに『火力UP』とメモしてください(上の説明図参照)。そこからグラフの傾きが急になるはずです。

授業現場の様子&注意点
 火力アップをした班は約40%でした。アップさせる時のポイントは、ガス量をそのままにさせることです。つまり、空気量だけを増やすことで、炎全体の大きさを小さくしながらも燃焼温度を上げるようにするのです。もちろん、初めのガス量が少な過ぎる時は多くさせますが、ガス量を多くすると炎が金網の上に上がり、エタノールが燃焼したり温度計が頂点を超えたりするなど重大な事故に繋がるので注意してください。机間巡視を行い、確実に炎の大きさを確認します。なお、私がガスバーナーを実際に触って調節しなければいけなかった班は、約10%(各クラス1班)程度でした。

新しく発見したワンポイント
 エタノールが78℃で沸騰したら、5分間(5回)そのまま加熱を続け、計測をさせます。沸点では、そどれだけ加熱しても温度が変わらないことは周知の通りです。ここから新しい指導方法ですが、5分後、火を止めさせ、温かい湯の中で実験時間終了まで計測を継続させます。どうなるかは生徒に知らせませんが、理想的な実験の場合、湯の温度は100℃から下がっていきますが、78℃になるまでエタノールは沸騰を続けます。生徒は、エタノールの温度だけでなく、エタノールの状態を記録します。ビーカーの水の温度は測定していませんが、沸騰がなくなることは目で確認できます。


上:火を止めた熱湯の中で沸騰するエタノール


授業を終えて
 単純な実験なので、30秒毎にデータを取ることがポイントです。生徒はそれを楽しみます。大量のデータをグラフ化することは大変ですが、少量のデータよりたくさん発見することができます。

2016年9月20日追記
 今年度は1分ごとに記録させました。最近の生徒は落ち着いているので、1分ごとに確実に記録させる方が適しているように思います。 また、加熱時間は20分あれば十分なので、加熱前の指導は、落ち着いてしましょう。
(1)エタノールの量
  火力をきちんと設定できれば、引火する可能性が極めて低くなるので、エタノールの量を増やし、試験管の1/4になるまで入れても良いでしょう。沸騰する様子がとてもよくわかります。
(2)沸騰石
 エタノールに5個、熱湯に50個程度入れさせます。熱湯にはたくさん入れるほど安全性が高まります。
(3)試験管は大と小を使う
 サイズの違う試験管を組み合わせれば十分です。古い教科書にあるように、それらの間に割り箸や木切れなどを入れる必要はありません。
(4)ビーカーと水
 ビーカーは300mL、水は250mLが良いようです。
(5)ビーカーの底と試験管の底の距離

 接していない方が良いですが、接していても実験結果に支障は見られません。

 以上全ての内容は、上の写真を見てください。

(6)温度計
 まず、各班3本ずつ用意させ、誤差があることを確認さます。次に、誤差の原因の1つとして「アルコールが切れていること」があるので、最も温度が高い温度計1本を選び、残りの2本は片付けさせます。
 また、温度計のメモリは初めから誤差を含んでいるので、目盛りの1/10まで読む必要がないことを指導します。これは、これまでの私の誤った指導法を改めたものです。ただし、夏休み前に学習したメスシリーンダーは目盛りの1/10まで読まなければ、定期テストで不正解になります。中学1年生にとって、同じように目盛りがある測量機器であるのにもかかわず、読み方がわかるのは疑問に思うかもしれませんが、実際のところ、それを指摘する生徒はほとんどいません。メスシリンダーは特別すごい器具! と指導するほうがベターでしょう。

関連ページ
実験9 エタノールの沸点 1年(2002年)

実践ビジュアル教科書『中学理科の化学
第1章 分 子 脱脂綿とエタノールを加熱する
 
↑ 印刷原稿をご覧になれます
p.11
第5章 状態変化  エタノールの沸点 p.84、p85

第39時 ←
実験15:沸騰した水の泡を集めよう

→ 第41時
実験17:パラフィンを加熱、冷却する

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