このページは、Mr. takaによる若手教師のためのワンポイント・レッスンです。 |
第3章 理科の授業
1 自然に感動するための教科─自然に感動する心と五感を育てる─
1 理科は、自然に感動するための教科です
本物の自然に出会った時、人は感動します。本能が揺さぶられるように、心が打ち震えます。理科の学習は、この感動をより深く大きくすることが目的であり、その対象は自然に限られています。その他の科目を調べると、中学9教科の中で自然を対象にしているのは理科だけです。したがって、理科を教える先生は『自然』と真正面に向き合い、できる限り本物の自然を相手にするように心掛けてください。2 感動に始まり、感動に終わる
私の理科は、感動に始まり感動に終わります。その途中には、無味乾燥な暗記や練習をさせることもありますが、より大きな感動を得るために必要なことであることを教えれば、生徒は自主的に我慢、努力します。教師が高いレベルの感動を知っていて、それを真剣に伝えようとするなら、生徒はそれに応えてくれます。学習の原動力は、自然に対する感動です。3 素晴らしさを感じるための見方を教える
自然は心地よいもの、美しいものばかりではありません。残酷で恐ろしいもの、グロテスクで醜悪なもの、生理的に目を背けたくなるもの、などがあります。先生の仕事は、そうした見方を変えることです。全ては自然の摂理、必然であり、その美しい側面に気づかせることです。私は血が嫌いですが、以下の脱線1〜脱線3はそんな私が動物の解剖実習前に生徒に話すことです。
脱線1:ウシガエルの解剖
私は、血や動物の内臓が嫌いです。数時間なら我慢できますが、それ以上は生理的に受け付けません。頑張れば慣れる可能性もありますが、自信がありません。食事や睡眠が上手くできなくなることが分かっているからです。これは私の個性なのです。
大学1年生の時に行った『ウシガエルの解剖実習』を紹介しましょう。この実習は、朝から夕方まで1日かけて行うものでした。気合いが入っていた私は、午前中、キャーキャー騒いでいる女の子を助けたり、生物学教室の科長として頑張っていました。しかし、昼食が喉を通らず、午後はダウン。指導教官の許可をもらって、図書館をスケッチして許してもらうことになりました。実習が終わる頃になり、ちらっと実習室の様子を覗きに行きました。すると、午前中は悲鳴を上げて指1本触れられなかった女の子が、素手でぐいぐいと内臓を掴み、嬉々としているのです。彼女は、その感触や匂いに慣れ、我慢することなく歓びを感じられる能力を得たのです。私は自分を振り返り、自分の限界を感じると同時に、人にはそれぞれ異なる適性があることを知った貴重な体験でした。
脱線2:技と愛に満ちた羊の解体
世界各地を回ると、いろいろな国で動物を解体している現場に出会います。初めはとても残酷な感じがしましたが、それが生きるために当然の行為であることを理解した今は、チャンスがあればその現場を見るようにしています。ヒトは他の生物の命を奪わなければ生きていけないこと、生命の尊さを確認するためです。動物を食べないベジタリアンは、植物を好んで食べる人に過ぎません。私は自分が不得意とするものをあえて見ることで、自然の摂理を受け入れることが大切だと思います。ウシガエルの解剖で紹介したように、訓練によって慣れたり好きになる人もいますから、何でも体験した上で、自分の特性を正しく知ることが大切です。
右は、私が2001年にキルギスで見学した羊の解体(クリックすると別ウィンドーで開きます)の様子です。解体する人は専門の職人ですが、愛情を持って羊の育ててきた家人が手伝いをしています。1本のナイフだけで解体する職人の技は完璧で、家人は愛情をもって最後を見届けます。羊の命は失われますが、それは人の命として受け継がれていきます。1滴の血もこぼさず無駄にしない技術と愛情は、人間を越えた自然そのものです。全ての感情を越えた心の振動を感じていただければ幸いです。
脱線3:美味しそうな小鳥
そんな私は、校庭でさえずる小鳥を見て、あえて「美味しそう」と言うことがあります。「可愛い」でも「美しい声」でもありません。私が生きるための『食べ物』として捉えます。同じように、散歩している子犬や雑草を見て、「美味しいそう」と言うこともあります。意外性が高い見方を生徒に直接伝えることで、子ども達は自然に対するいろいろな見方を自ら発見しようとします。
逆に、フライドチキンになった鶏肉を見て、「かわいそう」「残酷だ」と思うヒトは、生物としての条件を失っています。さもなければ弱い生物として自然淘汰される立場にあります。同じように、ニンジンやピーマンを自分の好き嫌いで食べないヒトは、食物連鎖の頂点に立つ生物としての謙虚さに欠けています。食事を残すヒトも同じです。生態系を破壊するものは、生物ではありません。
4 五感を育てる
自然を調べるためには、5感を研ぎすますだけでなく、その使い方を知る必要があります。細かい技を学ぶ必要があります。個々の自然に適した技を先生が指導します。詳細は、私の『中学校理科の授業記録』をご覧下さい。5 『自然』というキーワードが入った、あなたの目標をつくろう
さて、冒頭に紹介した目標「自然に感動する心と五感を育てる」は、私のオリジナルな目標です。文部科学省よりも大きく深い目標です。私には1年という長い時間が与えられているので、十分に達成できます。幸運にも、同じ生徒を3年間持ち上がることができるなら、より深い感動を伝えられるでしょう。それは全員が達成できる目標であり、筆記テストで30点しかとれない生徒でも達成できるものです。あなたも『自然』というキーワードが入った目標を作って下さい。小さな細々とした目標は、学習指導要領に書いてあるので、心配することはありません。note
・あなた自身に大きな目標があれば、目の前の小さな困難は乗り越えられます
・自然を深く感じ、理解し、より豊かな生活をすること
・関連ページ『自然って何だろう』↑ TOP [Mr. takaによる若手教師のためのワンポイント・レッスン][home] (C) 2002-2009 Fukuchi Takahiro