このページは『Mr. takaによる若手教師のためのワンポイント・レッスン』です。

第1章 学校とは何か

4 
授業のレベル設定

─地域の特色を活かし、さらに発展させるために─

 学校や地域にはたくさんの特徴がありますが、学力をその1つとして考えることができます。ただし、学力の測定方法や定義は簡単ではありません。このページでは、学力をおおらかに捉えること、および、その必要性を述べます。
※関連ページ『特色ある学校

私の経験から得た学力に関する事実
1 ペーパーテストで数値化できる学力は、地域差がある。
2 学力と経済力は、あまり関係ない。

1 ペーパーテスト(紙試験)の限界性
 一般に、学力は数値化できるペーパーテスト(紙試験)によって測定されますが、それはある1面しか表していません。なぜなら、学習内容は地域によって違うからです。違わなければならないからです。しがって、違う内容のものを同じペーパーテストで測定できるわけがありません。

 ここで、2007年4月、文部科学省が実施した全国学力・学習状況調査について考えてみましょう。この一斉テストの目的の1つは、『学力と学習状況』を把握して教育施策の改善を図る、でした。しかし、その単純な集計結果すら完全公開されていません。何故でしょう。おろらく、この目的を設定した人は、このテストで学力が測定できるという誤解をしているのでしょう。そして、それは最重要な個人情報だと思っているのでしょう。その考えこそが、学力や偏差値を偏重する考えを生んでいます。あるいは、調査目的が別にある可能性を示しているといえるでしょう。
 私はこの調査に対して全面的に反対しますが、詳細はこのページの最後にあります。

2 基礎学力のレベル
 されども、実際に授業をする上で、その学校の学力レベルを知ることは必要です。ここでいう学力とは、学習指導要領にある内容を指導するために必要な基礎的な学力です。私の経験では、次の項目を調べるだけで十分です。1教科数100円の金を払って業者テストを実施したり、その何倍、何10倍か分からない全国一斉テストをする必要は全くありません(いくらかかったのかご存じの方は、e-mailにてお知らせ下さい。taka1997@ons.ne.jp 感謝です!)

学力レベルの判断規準

学 年 調査項目
学年の全生徒に対する割り合い(%)
中学1年生 ・九九(かけ算)※1が満足にできるか。
・自分の住所を漢字※2で書けるか。
中学3年生
※3
・計算:3−5−(−2)= ができるか。
・計算:1/2+1/3= ができるか。
※4

※1
 小学校で学級崩壊してる場合は、かけ算ができない児童の割り合いが5%を軽く超えます。かけ算は、人間が社会生活をする上で常識として必要です。本来は、小学校1〜4年までに丸暗記すべきものです。これは躾しつけレベルの内容です。理由はありません。強制です。西暦2008年における人類の常識です。日本は、この躾や常識を失ってしまったので、大人になっても買い物が満足にできず、カード破産者になり、フリーターになるのでしょう。もちろん、真面目にやっていても、大きな不幸や非常識な上司にだまさる場合もありますが、、、

※2
 中学3年生になり、高校受験の願書に、自分の住所を間違えて書く生徒が数%います。これが公立中学校の実態です。もちろん、小中学校の先生は一生懸命に漢字を教えています。その実態も知っています。本当の原因は、子どもや先生を超えたところにありますが、この問題については別ページ『』で解説します。

※3
 中学3年で調べる内容は、数学だけで十分です。なぜなら、それまでの2年間で、およその生活の様子を知っているからです。基礎額力というレベルではなく、食事ができているか、家庭で暴力を受けていないかというレベルです。

※4
 この2つの計算問題が解ければ、高校入試で数学が0点になることを防げます。したがって、これが中学を卒業するための最低規準と考えて良いと思います。
 一般の方は、この実態に驚かれると思いますが、かけ算ができずに入学した生徒には、一般の方だけでなく教師にも理解できないほどの事情や背景があります。その一例を紹介すれば、先生がどうしようもないことを理解して頂けると思いますが、私は、その例を挙げません。個人的な特殊なことを書くと、その表面に囚われたり、うわさ話のねたにされたりするだけで、その本質を見失うからです。

3 私は授業レベルを『中のちょっと下』に設定しています
 学校全体の学力レベルがわかったら、いよいよ具体的な授業レベルを設定します。私は、基本を『中の下』にします。このように書くと、授業レベル設定が簡単なことのように思いますが、実際はとても大変です。なぜなら、1クラスにおける学力差は非常に大きいからです。中学3年生の例をあげると、かけ算『7×8と、8×7』ができない生徒から『任意の二次曲線と直線によって作られる面積』を求めることができる生徒までいるからです。

 学校生活の基本は授業なので、そのレベル設定を間違えると、取り返しがつかないことになります。授業は難しすぎても簡単すぎてもいけません。適切なレベルを見きわめ、生徒が持っている個性と可能性を最大限に引き出すようにしなければなりません。また、万人が受け入れられる授業はできないことを知り、潔く決定して下さい。1年を通して指導するのですから、時には底辺、時には頂点も交えて、平均は『中の下』とするのが良いと思います。

関連ページ『学力差を活かす授業

4 間違えないように!
 誤解を避けるために一言付け加えておきますが、人の魅力は、学力で決めることはできません。はっきり申し上げておきます。この事実は、勉強ができるといって威張っている全ての人々に捧げます。学力で決めることができるのは学力だけ、テストによって推し量ることができるのはテストの点の取り方の力だけです。金持ちが持っているのは金であり、幸せを持っている人は幸せを持っています。

 その一方で、私は学力を向上させるために全精力を費やしています。また、テストの点を取ることにも力を注ぎます。これについては別ページ『テストの得点を上げる方法』をご覧下さい。

 私は新しい学校に赴任すると、その個性や長所・短所を探し、良いところを伸ばし、足りないところを補うように努力します。私自身の考えや方法を押し付けることなく、学校の特徴を伸ばしたいからです。それぞれの地域の特徴を理解し、授業に利用しなければいけません。私は、毅然とした態度で『その学校の学力レベル』に合わせて授業内容を考えます。


参考:平成19年度全国学力・学習状況調査

 平成19年(2007年)4月24日、日本政府は見出しの調査を行いました。政府が示した目的は次の通りでしたが、紙を使った一律な調査で得られるものは、地域のある一面を示すだけです。私は、このような画一的な調査は税金の無駄遣いであると主張します。もし、本当に教育的な効果を期待してるなら、調査の前に、調査前の予想、目標を達成するための具体的な分析方法、および、予想と結果の比較方法などを政府が示さなければなりません。さらに、調査後に、政府による結果と考察を国民に示さなければなりません。これらがない調査は科学的であり、国民から「目的が他にあるのではないか」と言われても受け入れざるを得ないでしょう。さらに、2007年の結果を十分に分析・考察しないまま、2008年も同様な調査が行なわることが決定していることは無謀としか言えません。

調査の目的(2007年)
○ 国が全国的な義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から各地域における児童生徒の学力・学習状況をきめ細かく把握・分析することにより、教育及び教育施策の成果と課題を検証し、その改善を図る
○ 各教育委員会、学校等が全国的な状況との関係において自らの教育及び教育施策の成果と課題を把握し、その改善を図るとともに、そのような取組を通じて、教育に関する継続的な検証改善サイクルを確立する。
○ 各学校が児童生徒の学力や学習状況を把握し、児童生徒への教育指導や学習状況の改善等に役立てる。
※ 青色部分は、読みやすさをはかるために筆者が着色した。

私の見解
 このような画一的な調査は、数字がひとり歩きする危険性があります。人間は数字で測ることはできません。地域も数字で測ることはできません。私は校内の定期テストを自作しますが、それは私が自分の授業を反省するための資料だと思っています。テストの結果や数字は、私自身の評価です。また、この結果は民間企業(小学校は(株)ベネッセコーポレーション、中学校は(株)NTTデータ)が保有しています。個人名、学力、生活環境、生活習慣などの重要個人情報を握っているのです。私は個人情報について神経質に考えない性格ですが、この調査については夜も眠れないほどの恐怖を覚えます。よく考えて下さい。私が作った定期テストの点数といった単純なレベルではないですよ。子どもの学力がその家庭環境と同時に蓄積されているのです。しかも、小学校と中学校と追跡調査されて資料化されたら、、、、本当に怖いです。政府は個人情報の扱いに神経質になっていますが、この情報は極めて重要であり、危険な情報です。もし、営利目的に利用されるなら、法外な値段で取り引きされるでしょう。住所、電場番号、e-mailアドレスの比ではありません。私は独身ですが、もし自分に子どもがいたなら、絶対に調査は受けさせないか、当日学校を欠席させます。自分の子どもと家庭環境が数値になって民間業者が保有することは、考えられません。親の責任として、義務として子どもの将来を守ると同時に、自分の生活環境を死守します。

2007年12月

余 談
 このページのような問題について発言することは、私自身の立場を危くします。しかし、きちんと発言しなければ、私の考えは誰にも伝わりません。黙っていると、私も全国調査に賛成しているかのように言われても反論できない立場になるので、本当に重要なことは身を投げ出して発言しなければなりません。そうした気持ちをもった先生が1人で増えれば、日本は安泰です。若いあなたも、自分自身に正直である気持ちを態度に示して下さい。子どもは、先生や大人の背中を見て育ちます。ごまかしは効きません。

 こうした意味で、2007年の全国調査に不参加を表明した犬山市教育委員会は立派です。犬山市民は立派です。犬山の地域の特色を守るために、一丸となってがんばって下さい。私は応援します。全国調査に参加したことで残される数字は、現在、生き生きとした特色をもって生活している犬山の人々にとって必要ありません。もうだめだ、特徴を失ってしまった、というなら気安めのためにテストも有効かも知れませんが、、、

2008年1月19日
福地孝宏

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