2 か み つ ま き
2 上 巻
目 次
1 天地の生成
2 天における神の誕生
3 地における神の誕生
4 すべての神隠れ
5 いくつかの神の誕生
表 互いに関係を持たずに生まれた神(1)〜(17)
6 神(6)〜(15)の命令によるイザナギとイザナミの大地作り
7 イザナギとイザナミの性交による日本の島づくり
8 2神による性交による神生み
9 イザナミ(女)の単独行為による神作り
10 イザナギ(男)の単独行為による神作り
11 イザナギによる神(子ども)の殺害
12 刀の力によって生まれた8つの神
13 カグツチの死体から生まれた8つの神
14 黄泉国で生きているイザナミ
15 死んだ人間の女の出現
16 植物の出現
17 黄泉国に生えている桃
18 イザナギとイザナミの離縁
19 イザナギの禊から生れた神
20 イザナギによる3神の任命
21 アマテラスとスサノオのうけい
22 高天原におけるスサノオの乱暴とアマテラスの引きこもり
23 八百万神の作戦会議と実行
24 スサノオの高天原からの追放
25 スサノオによるヤマタノオロチ退治
-26 地上に住む八十神、大国主、因幡の兎の登場
27 兄弟による大国主の殺害、生き返り、逃走
28 大国主による黄泉国の女神奪略
29 大国主の国作り
30 大国主の浮気
31 神産巣日神の命令
32 妻と国作りができなくなった大国主
33 アマテラスによる地上支配構想(失敗1)
34 アマテラスによる地上支配構想(失敗2)
35 アマテラスによる地上支配構想(失敗3)
36 アメノカワヒコの葬儀
37 アマテラスによる地上支配構想(成功)
38 ニニギの天降り
39 サルタヒコの小話
40 アメノウズメの小話
41 天皇が短命になった理由
42 ニニギの疑惑を解いたコノハナノサクヤビメの出産
43 山幸彦と海幸彦
44 山幸彦とヨトタマビメの別離
45 ウガヤフキアエズの子孫
1 天地の生成
(1) 神が生まれる前に、天と地※1ができた。
※1 この地は、のちに芦原中国といわれる。
(2) 天に高天原ができた。2 天における神の誕生
(1) 高天原で、次の神(1)〜(3)が順に生まれた。
※場所(高天原)の位置、大きさ、発生した時間など全てが不明。
(1) 天之御中主神 (あめのみなかぬしのかみ)
(2) 高御産巣日神 (たかみむすひのかみ)
(3) 神産巣日神 (かみむすひのかみ)
※神(1)〜(3)は性別なし。
(2) 神(1)〜(3)が姿を隠した。
※神(2)は、のちに女神として登場する。
その時の名前は、この時よりも卑しい身分に下がっているが、その理由は記載されていない。3 地における神の誕生
(1) 地で、次の神(4)、(5)が順に生まれた。
(4) 宇摩志阿斯訶備比古遅神 (うましあしかびひこぢのかみ)
(5) 天之常立神 (あめのとこたちのかみ)
※いずれも性別なし。
(2) 神(4)、(5)が姿を隠した。4 すべての神隠れ
(1) 神(1)〜(5)が姿を隠した。
※神(1)〜(3)を『造化の三神』、神(1)〜(5)を『別天津神(ことあまつかみ)』と言う。
※高天原より高い空間に隠れたと考えるのが妥当であるが、隠れた場所は不明。
※時間の設定がなされてないので、すべての神が不在になった時間も不明。5 いくつかの神の誕生
(1) 次の神(6)〜(17)が順に生まれた。
(6) 国之常立神 (くにのとこたちのかみ)
(7) 豊雲野神 (とよくもののかみ)
(8)、(10) 宇比地邇神 (うひぢにのかみ)と須比智邇神 (すひぢこのかみ)
(10)、(11) 角杙神 (つのぐひのかみ)と活杙神 (いくぐひのかみ)
(12)、(13) 意富斗能地神 (おほとのじのかみ)と大斗乃弁神 (おほとのべのかみ)
(14)、(15) 於母陀流神 (おもだるのかみ)と阿夜訶志古泥神 (あやかしこねのかみ)
(16)、(17) 伊邪那岐神 (いざなきのかみ)と伊邪那美神 (いざなみのかみ)
※神(6)、(7)は性別なしで、隠れた。
※神(8)〜(17)(五組十柱)は、それぞれ男女の対(左:男、右:女)。
※神(6)〜(17)を『神世七代(かみのよななよ)』と言う。
※神(6)〜(17)は、誕生した場所、誕生した由来など一切不明。
※以上1〜5は、「神が生まれた」言い放っているだけなので「天地開闢」とは言えない。
表 互いに関係を持たずに生まれた神(1)〜(17)
※分かているのは、生まれた順序だけで、それぞれの時間は不明である。
※したがって、神は通し番号(1)〜(17)によって、単純に整理できる。代 柱 名 称 性 備 考 1 (1) 天之御中主神 (あめのみなかぬしのかみ) なし 隠れた 別天津神
2 (2) 高御産巣日神 (たかみむすひのかみ) 3 (3) 神産巣日神 (かみむすひのかみ) ※神不在の時間がここにある(その長さは不明) 4 (4) 宇摩志阿斯訶備比古遅神 (うましあしかびひこぢのかみ) 5 (5) 天之常立神 (あめのとこたちのかみ) ※神不在の時間がここにある(その長さは不明) 6 (6) 国之常立神 (くにのとこたちのかみ) 神代七代 7 (7) 豊雲野神 (とよくもののかみ) ※神不在の時間がここにある(その長さは不明) 8 (8),(9) 宇比地邇神 と須比智邇神 あり 生
または
死9 (10),(11) 角杙神と活杙神 10 (12),(13) 意富斗能地神と大斗乃弁神 11 (14),(15) 於母陀流神と阿夜訶志古泥神 12 (16),(17) 伊邪那岐神と伊邪那美神
※神の数を数える呼称を「柱」としているが、本ページでは「つ」を使う場合もある。
6 神(6)〜(15)の命令によるイザナギとイザナミの大地作り
(1)神(6)〜(15)が、イザナキとイザナミに漂っている大地の完成を命令し、天沼矛(あめのぬぼこ)を与えた。
※イザナギとイザナミは兄妹ではなく、男と女である。
※神(16)の名称はイザナキではなく、イザナギとする。
※イザナギとイザナミは、他の神よりも身分が低いと考えれる。
※天沼矛の原材料は不明。
(2)イザナギとイザナミは、天浮橋(あめのうきはし)に立ち、天沼矛で渾沌とした大地をかき混ぜた。
※イザナギとイザナミは、現在、高天原にいる。
(3)矛から滴り落ちたものがつもり、淤能碁呂島(おのごろじま)ができた。
ここまでの空間(世界)の区分
空間の名称 位 置 住んでいるもの 備 考 高天原
(高天原の記述は古事記のみ)上 神(6)〜(17) ・神(1)〜(17)が生まれた場所。
・天浮橋がある。地 下 この後、イザナギとイザナミは、
国と作るために天から降りる。・渾沌とした大地。
・何もない大地。
・大地からできた淤能碁呂島。7 イザナギとイザナミの性交による日本の島づくり
(1)イザナギとイザナミが高天原から淤能碁呂島へ降り、宮殿を作った。
※ 国作りしている場所は、地上である。
(2)2神が話し合い、性交した。
※ 国作りのために性交するは必要なかった、という可能性を示している。
(3)水蛭子(ひるこ。出来損ない)が生まれたので、葦舟に乗せて流した。
(4)淡島(あはしま。出来損ない)が生まれた。
※水蛭子と淡島は、2神の子に数えない。
※本文は、この島を『子』としている点、に着目したい。
※子どもが島に変化する、と考えることもできる。
(5)2神は、高天原にいる神(6)〜(15)のところへ行き、どうするべきかを聞いた。
(6)神(6)〜(17)は占いを行ない、女から誘うのがよくなかったとした。
※ 占いの結果は神(1)〜(5)が出したと考えるのが妥当である。
(7)2神は淤能碁呂島へ戻り、イザナギが誘って性交した。
(8)イザナミが、以下の島(1)〜(14)を産んだ。
イザナギとイザナミが性交して生んだ島(日本)
名 称 現在の名称 備 考 (1) 淡道之穂之狭別島
(あはぢのほのさわけのしま)淡路島 - (2) 伊予之二名島
(いよのふたなのしま)四 国 ※1つの胴体に、4つの顔がある。顔の名は以下の通り。
1)愛比売(えひめ): 伊予国
2)飯依比古(いひよりひこ): 讃岐国
3)大宣都比売(おほげつひめ): 阿波国
4)建依別(たけよりわけ): 土佐国(3) 隠伎之三子島
(おきのみつごのしま)隠岐島 - (4) 筑紫島
(つくしのしま)九 州 ※1つの胴体に、4つの顔がある。顔の名は以下の通り。
1)白日別(しらひわけ): 筑紫国
2)豊日別(とよひわけ): 豊国
3)建日向日豊久士比泥別(たけひむかひとよじひねわけ): 肥国
4)建日別(たけひわけ): 熊曽国(5) 伊伎島(いきのしま) 壱岐島 - (6) 津島(つしま) 対馬島 - (7) 佐度島(さどのしま) 佐渡島 - (8) 大倭豊秋津島
(おほやまととよあきつしま)本 州 - (9) 吉備児島(きびのこじま) 児島半島 - (10) 小豆島(あづきじま) 小豆島 - (11) 大島(おほしま) 周防大島 - (12) 女島(ひめじま) 姫 島 - (13) 知訶島(ちかのしま) 五島列島 - (14) 両児島(ふたごのしま) 男女群島 -
※ 島(1)〜(8)を大八島という(これは律令政権の支配範囲と一致する)。
※ 日本以外の国は不明なので、世界創造からは程遠い。
※ これ以降、いかなる神も島(国)を生んでいない。
(9)以上14島で、日本の島作りは完了した。
※ 本文で、完了したことを明言している。8 2神による性交による神生み
(1) 2神が性交し、イザナミが次の神(18)〜(34)、合計17つの神を産んだ。
※ これらの神は、神(6)〜(15)の命令ではなく、イザナギとイザナミの自由意志によるものと考えられる。
※ 神どうしが性交して神を産むという行為および可能性が、初めて示された。
※ これ以降の大部分の神は、イザナギとイザナミの子孫であると考えられる。
9 イザナミ(女)の単独行為による神作り
(1)イザナミは、カグツチを出産したときに女陰が焼け、病気になった。
(2)性交ができなくなった。
(3)イザナミは、病に苦しみながら単独で次の神(50)〜(55)を作った。
イザナミが単独で作った神
名 称 生成する原材料 備 考 (50) 金山毘古神(かなやまびこのかみ) 吐瀉物 - (51) 金山毘売神(かなやまびめのかみ) 吐瀉物 - (52) 波邇夜須毘古神(はにやすびこのかみ) 大便 - (53) 波邇夜須毘売神(はにやすびめのかみ) 大便 - (54) 彌都波能売神(みつはのめのかみ) 尿 - (55) 和久産巣日神(わくむすひのかみ) 尿 ・和久産巣日神は、
豊宇気毘売神(とようけびめのかみ、56)を生んだ。
※ 神は単独で神を作ることができるから、男女2神による性交には大きな意味がないことが示された。
※ むしろ、性交する場合、女から誘うと「できそこないの子(島)」ができる。10 イザナギ(男)の単独行為による神作り
(1)イザナミは、病気により死んだ。
※ 細胞などの老化による死でないとすれば、細菌やウィスルなど、神以外の生物(物質)があることを示している。
(2)イザナギは泣き、その涙から泣沢女神(なきさわめのかみ、56)が生まれた。11 イザナギによる神(子ども)の殺害
(1)イザナギは、イザナミを出雲国と伯伎(伯耆)国の堺にある比婆(ひば)の山に葬った。
(2)イザナギは、愛する妻を失った怒りから、カグツチを十拳剣で切り殺した。
※イザナギは、自分の子ども(神)を殺害した。
※神が神を殺した最初の事件である。12 刀の力によって生まれた8つの神
(1)カグツチの血を材料にして、イザナギの刀の力で神(57)〜(64)が生まれた。
※ 刀は、天之尾羽張(あめのをはばり)という。13 カグツチの死体から生まれた8つの神
(2)カグツチの体を材料にして、神(65)〜(72)が生まれた。
カグツチの血や体から産まれた16つの神
名 称 (57) 石折神(いはさくのかみ) 血(十拳剣の先端) (58) 根折神(ねさくのかみ) (59) 石筒之男神(いはつつのをのかみ) (60) 甕速日神(みかはやひのかみ) 血液(十拳剣の刀身の根本) (61) 樋速日神(ひはやひのかみ) (62) 建御雷之男神(たけみかづちのをのかみ) (63) 闇淤加美神(くらおかみのかみ) 血液(十拳剣の柄) (64) 闇御津羽神(くらみつはのかみ) (65) 正鹿山津見神(まさかやまつみのかみ) 頭 (66) 淤縢山津見神(おどやまつみのかみ) 胸 (67) 奥山津見神(おくやまつみのかみ) 腹 (68) 闇山津見神(くらやまつみのかみ) 性器 (69) 志藝山津見神(しぎやまつみのかみ) 左手 (70) 羽山津見神(はやまつみのかみ) 右手 (71) 原山津見神(はらやまつみのかみ) 左足 (72) 戸山津見神(とやまつみのかみ) 右足
※ 死んだ神から、自動的に神が生まれる可能性が示されている。
※ 神が生まれるための理由や目的は必要無い。
14 黄泉国で生きているイザナミ
(1)イザナギは、イザナミを取り戻すために黄泉国へ行った。
※ 死んだ神は、黄泉国へ行くことが示されている。
※ 現時点で、黄泉国にはイザナギとカグツチがいる。
※ 現時点で、高天原および大地には、イザナミとカグツチを除く神(6)〜(72)の合計、64の神が生存している。
※ 生きている神は、自分の意志で黄泉国へ行くこと(戻ること)ができる。
(2)イザナギはイザナミに、戸越しに「あなたと一緒に創った国土はまだ完成していません。帰りましょう。」と言った。
(3)イザナミは「黄泉の国の食べ物を食べ(よもつへぐい)、ここに住む神になったから、黄泉神と相談します。その間、私の姿は見ないで下さい」と言い、奥へ入った。
※ 唐突に、黄泉神の存在が示されたので、神の合計数は73になる。
※ 黄泉神がいつ、どこで生まれたのか示されていない。
※ イザナミのように「死んだ」神は、黄泉国で生きていることが示された。
※ 死んだ神は、大地へ戻れば「生き返る」ことが示された。
※ さらに、神が(黄泉の食べ物)を食べることを示した。
(4)イザナギは、イザナミがなかなか戻ってこないので、自分の左の角髪(みずら)につけていた湯津津間櫛(ゆつつなくし)の端の歯を折って火をともし、中を覗いた。
(5)イザナミの身体には蛆がたかり、声はむせびふさがり、次の雷神(74)〜(81)がまとわりついていた。
イザナミの身体にまとわりついていた8つの雷神
名 称 身体の部分 (74) 大雷(おほいかづち) 頭 (75) 火雷(ほのいかづち) 胸 (76) 黒雷(くろいかづち) 腹 (77) 折雷(さくいかづち) 性器 (78) 若雷(わかいかづち) 左手 (79) 土雷(つちいかづち) 右手 (80) 鳴雷(なるいかづち) 左足 (81) 伏雷(ふすいかづち) 右足
※ 唐突に、黄泉で生きている8神の存在が示された。15 死んだ人間の女の出現
(1)イザナギは、逃げ帰ろうとした。
(2)イザナミは、自分の醜い姿を見られたことを恥じ、黄泉醜女(よもつしこめ)にイザナギを追わせた。
※ 唐突に、黄泉で生きている黄泉醜女の存在が示された。
※ 黄泉醜女は、死んだ人間の女であると考えられる。
※ 初めから死んでいるとは考え難いので、これ以前に生きていた人間を示すべきであるが、一切記述されてない。16 植物の出現
(1)イザナギは、蔓草を輪にして頭の上に載せていたものを投げ捨てた。
※ 蔓草(植物)は大地に出現していたものと考えられる。
(2)蔓草から葡萄の実がなり、黄泉醜女が食べている間に、イザナギは逃げた。
※ 死んだ人間の女は、黄泉国以外の植物を食べることができることを示している。
※ 神の持ち物から、植物(食べ物)が作られる。
(3)黄泉醜女は、また追いかけてきた。
(4)イザナギは、右の角髪(みずら)につけていた湯津津間櫛(ゆつつなくし)という櫛を投げ捨てた。
(5)櫛からタケノコがなり、黄泉醜女が食べている間に、イザナギは逃げた。17 黄泉国に生えている桃
(1)イザナミは、さらに8つの雷神と黄泉国の兵士達にイザナギを追わせた。
※ 兵士の身分(神、人間など)は、一切不明。
(2)イザナギは、黄泉比良坂の坂本に着いた時、坂本にあった桃の実を3つ投げた。
※ 黄泉国の一部である坂に、桃の木(植物)が生えていることを示している。
※ これまでの記述を総合すると、地上より黄泉国の方が豊かな生活を営んでいる。
(3)桃の実によって、追ってきた黄泉の国の悪霊たちは逃げ帰った。
※ 先に、黄泉に住んでいるものは植物を(イザナミの命令を忘れるほど好んで)食べると記述してあるが、桃は嫌う。
(4)イザナギは、桃に「人々が困っている時に助けてくれ」と言い、意富加牟豆美命(おほかむずみのみこと)と名づけた。
※ 人の存在については、黄泉に住む黄泉醜女、だた1人しか示されていない。
※ 現在、どれだけの数の人々がどこに住んでいるのか、その可能性についても一切不明。
※ イザナギは、黄泉国に生えている植物を『自分の手下の神』にした、と考えることができる。
※ これで、神の合計数は82。
※ さらに重大なことは、「黄泉国の食べ物をたべると、その住人になる」と記されているが、イザナギが桃神に、「葦原中国で苦しむ時があったら助けれくれ」と言ったことである。もし、地上である中国でこの桃を食べたなら、イザナミの身体のように蛆がわき、腐り果てることになる。18 イザナギとイザナミの離縁
(1)イザナミが追いかけてきたので、イザナギは千人がかりで動かすような岩で黄泉比良坂をふさいだ。
(2)この岩を間にして、2神は対面した。
(3)イザナミは「一日に千人を殺す」、イザナギは「一日に千五百人生む」と言い、別れた。
※夫婦の別れ方としては、最悪と言える。
※イザナミは、何らかの方法によって、黄泉国から、大地や高天原に生きている人を殺害できことを示した。しかし、イザナミもイザナギも人を1人も生んだことがない。これまでに作ったものは、島と神だけである。しかも、その総数は100に満たない。
※ 時間の概念(1日という単位)が初めて示された。
(4)イザナミはイザナギと離縁して、黄泉津大神(よもつおほかみ)になった。
※ また、イザナミを道敷大神(ちしきのおほかみ)ともいう。
※ 夫婦の離縁が原因で、イザナミが黄泉神より地位の高い『黄泉津大神』に出世した。
(5)黄泉比良坂を塞いだ大岩は、道返之大神(ちかへしのおほかみ)、黄泉戸大神(よみとのおほかみ)になった。
※ 黄泉比良坂は、出雲国の伊賦夜坂(いふやのさか、現島根県東出雲町)としている。
※ ある巨石が、夫婦の離縁に役立ったことにより、神になった。
※ これで、神の合計数は83。
19 イザナギの禊から生れた神
(1)イザナギは、黄泉国の穢れを清めるために竺紫(つくし)の日向の橘小門の阿波岐原で、禊を行った。
(2)身に着けていたもの脱いで清めると、12の神(84)〜(95)が生まれた。
(3)中流に潜って身を清め、神(96)、(97)が生まれた。
(4)禍(まが)を直すときに、神(98)、(99)、(100)が生まれた。
(5)水の底で身を清めたとき、神(101)、(102)が生まれた。
(6)水の中程で身を清めたとき、神(103)、(104)が生まれた。
(7)水の表面で身を清めたとき、神(105)、(106)が生まれた。
(8)左目を洗ったとき、天照大御神(あまてらすおほみかみ)が生まれた。
(9)右目を洗ったとき、月読命(つくよみのみこと)が生まれた。
(10)鼻を洗ったとき、建速須佐之男命(たけはやすさのをのみこと)が生まれた。
イザナキの禊ぎによって生まれた神々
名 称 身につけていた物 汚れた垢 禍を直す 身体を洗った水の位置 身体の部位 備 考 (84) 衝立船戸神(つきたつふなとのかみ) 杖 - - - - - - (85) 道之長乳歯神(みちのながちはのかみ) 帯 - - - - - - (86) 時量師神(ときはかしのかみ) 袋 - - - - - - (87) 和豆良比能宇斯能神(わづらひのうしのかみ) 衣 - - - - - - (88) 道俣神(みちまたのかみ) 袴 - - - - - - (89) 飽咋之宇斯能神(あきぐひのうしのかみ) 冠 - - - - - - (90) 奥疎神(おきざかるのかみ) 左の腕輪 - - - - - - (91) 奥津那芸佐毘古神(おくつなぎさびこのかみ) - - - - - - (92) 奥津甲斐弁羅神(おきつかひべらのかみ) - - - - - - (93) 辺疎神(へざかるのかみ) 右の腕輪 - - - - - - (94) 辺津那芸佐毘古神(へつなぎさびこのかみ) - - - - - - (95) 辺津甲斐弁羅神(へつかひべらのかみ) - - - - - - (96) 八十禍津日神(やそまがつひのかみ) - ◎ - - - - - (97) 大禍津日神(おほまがつひのかみ) - ◎ - - - - - (98) 神直毘神(かむなおびのかみ) - - ◎ - - - - (99) 大直毘神(おほなおびのかみ) - - ◎ - - - - (100) 伊豆能売(いづのめ) - - ◎ - - - - (101) 底津綿津見神(そこつわたつみのかみ) - - - 底 - - - (102) 底筒之男神(そこつつのをのかみ) - - - - - - (103) 中津綿津見神(なかつわたつみのかみ) - - - 中 - - - (104) 中筒之男神(なかつつのをのかみ) - - - - - - (105) 上津綿津見神(うはつわたつみのかみ) - - - 表面 - - - (106) 上筒之男神(うはつつのをのかみ) - - - - - - (107) 天照大御神(あまてらすおほみかみ)
アマテラス、※女- - - - 左目 三貴子
(イザナキ
に右の空間
支配を命令
された)高天原 (108) 月読命(つくよみのみこと)
ツクヨミ ※- - - - 右目 夜の食国
(をすくに)(109) 建速須佐之男命
(たけはやすさのをのみこと) スサノオ ※男- - - - 鼻 海 原
20 イザナギによる3神の任命
(1)イザナギは、最後に3つの貴い子を得たと喜んだ。
(2)イザナギは、アマテラスに高天原を委任し、首飾りの玉の緒を渡した。
※ 首飾りの玉を御倉板挙之神(みくらたなののかみ)と言う。
※ これで、神の合計は110。
※ イザナギの権限が不明(彼に、誰かが高天原を支配する権利を誰かに与える権限はない)。
※ アマテラスは地上で生まれた神であり、天高原とは無関係である。
(3)ツクヨミに夜之食国(よるのをすくに)を委任した。
※ 夜に対する「昼」があることを示しているが、昼の支配者については不明。
(4)スサノオに海原(うなはら)を委任した。
※ 海原がどこにあるのか不明(現在、黄泉国、大地、高天原しか存在しない)。
21 アマテラスとスサノオのうけい
(1)スサノオは、父イザナギの命令を実行することなく、母イザナミが住む黄泉国へ行きたいと泣き叫び、天地に大きな被害を与えた。
※ このスサノオの愚行から、イザナギが喜びや判断も愚かであったと断定できる。
(2)父イザナギは怒り、スサノオを「この国」から追放した。
※ 「この国」がどこであるのか不明瞭。
※ 海原の支配者はこの時点で不在になるが、これは「不在の方が良い」ことを示している。
(3)スサノオは、黄泉国へ行くことを姉アマテラスに報告するために高天原へ登った。
(4)アマテラスは、スサノオが高天原を奪いに来たと思い、弓矢を携えてスサノオを迎えた。
※ 天高原は、スサノオ1神だけで侵略されるほどの規模であることを示している。
※ 天高原に、その支配者アマテラスを助ける存在があることが示されていない。
(5)スサノオは、アマテラスの疑いを解くため宇気比(ウケヒ、誓約)を提案した。
※ このとき、2神は「天の安河」を挟んで対峙している。
(6)アマテラスが、スサノオの十拳剣を噛み砕き、息を吹き出すと、3つの女神(110)〜(112)が生まれた。
※ 現在は、宗像三女神として信仰されている。
(7)スサノオが、アマテラスの「八尺の勾玉の五百箇のみすまるの珠」を噛み砕き、息を吹き出すと、5つの男神(113)〜(117)が生まれた。
名 称 性 材 料 (110) 多紀理毘売命(タキリビメ) 女 十拳剣 (111) 市寸島比売命(イチキシマヒメ) (112) 中筒之男神(ナカツツノオノカミ) (113) 正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命
(マサカツアカツカチハヤヒアメノオシホミミ)男 左のみづらに巻いている玉 (114) 天之菩卑能命(アメノホヒ) 右のみづらに巻いている玉 (115) 天津日子根命(アマツヒコネ) かづらに巻いている玉 (116) 活津日子根命(イクツヒコネ) 左手に巻いている玉 (117) 熊野久須毘命(クマノクスビ) 右手に巻いている玉
(8)アマテラスは、「男神は自分の物から生まれたから自分の子、女神はスサノオの物から生まれたからスサノオの子」と宣言した。
(9)スサノオは、「自分の心が潔白だから私の子は優しい女神だった」と言った。
(10)アマテラスは、スサノオの潔白を認めた。22 高天原におけるスサノオの乱暴とアマテラスの引きこもり
(1)スサノオは、高天原の田の畔を壊して溝を埋めたり、御殿に糞を撒き散らした。
※ 高天原に田や御殿があることが示された。
※ スサノオは、母のもとに行くという本来の目的を完全に忘れている。その後も、母のことを忘れたままである。
(2)高天原に住む神は、アマテラスに苦情を言ったが、アマテラスはスサノオをかばった。
(3)アマテラスが機屋で神に奉げる衣を織っていた時、スサノオは屋根に穴を開け、皮を剥いだ馬を落とした。
(4)天の服織女が驚き、梭(ひ)で陰部を刺して死んだ。
(5)アマテラスは怒り、天岩戸に引きこもった。
(6)高天原も葦原中国も闇となり、様々な禍(まが)が発生した。
※ アマテラスは、スサノオを直接咎めず、他の神に迷惑をかけているだけである。
※ アマテラスは、高天原の支配者として失格であると言わざるを得ない。23 八百万神の作戦会議と実行
(1)八百万の神が天安河原に集まり、解決策を相談した。
※ これまでに提示された神の数は117なのに、その数は、唐突に八百万(無限大)に増えた。
(2)オモイカネの提案で、次のようにした。
(ア)常世の長鳴鳥(鶏)を集めて鳴かせる。
(イ)天安河の川上にある堅い岩から鉄を採り、鍛冶師アマツマラを探し、イシコリドメに命じて八咫鏡(やたのかがみ)を作らせる。
(ウ)タマノオヤに八尺の勾玉の五百箇のみすまるの珠を作らせる。
(エ)アメノコヤネとフトダマを呼び、雄鹿の肩の骨を抜き取り、ははかの木を取って占い(太占)をさせる。
※ 占いの結果は神(1)〜(5)が出す、と推測される。
(オ)賢木(さかき)を根ごと掘り起こし、枝に八尺瓊勾玉と八咫鏡と布帛をかけ、フトダマが御幣として奉げ持つ。
(カ)アメノコヤネが祝詞(のりと)を唱え、アメノタヂカラオが岩戸の脇に隠れて立つ。
(キ)アメノウズメが岩戸の前に桶を伏せて踏み鳴らし、神憑りになって、胸をさらけ出し、裳の紐を陰部まで下げて踊る。
(3)八百万の神は、アメノウズメの踊りを見て、高天原が鳴り轟くほど笑った。
(4)アマテラスは何事だろうと思い、天岩戸の扉を少し開けた。
(5)アマテラスは、「自分が岩戸に篭って闇になっているのに、なぜアメノウズメは楽しそうに舞い、八百万の神は笑っているのか」と質問した。
(6)アメノウズメは、「貴方より貴い神が現われたので、それを喜んでいるのです」と答えた。
(7)アメノコヤネとフトダマは、アマテラスの前に鏡を差し出した。
(8)アマテラスは、鏡に写る自分の姿がその貴い神だと思い、その姿をもっと良く見ようと岩戸を開けた。
(9)隠れていたタヂカラオは、アマテラスの手を取って外へ引きずり出した。
(10)フトダマが注連縄を岩戸の入口に張り、「もう中に入らないで下さい」と言った。
(11)アマテラスが岩戸から出ると、高天原も葦原中国も明るくなった。24 スサノオの高天原からの追放
(1)八百万の神は、スサノオに罪を償わせるためにたくさんの品物を科した。
(2)さらに、髭と手足の爪を切って高天原から黄泉国へ追放した。
※ スサノオは、本来、高天原に住んでいなかったから、追放という表現は不適切である。
※ 高天原の支配者であるアマテラスは、八百万の神の決定にしたがっている。
※ 姉アマテラスと弟スサノオの行為は大差がないので、八百万の神によって追放されても当然である。25 スサノオによるヤマタノオロチ退治
(1)スサノオは、出雲国の肥河(斐伊川)の上流の鳥髪(とりかみ、現奥出雲町鳥上)に降りた。
※ この後の記述から、スサノオは黄泉国へ追放される途中に立ち寄った、解釈される。
(2)箸が川を流れてきたので、上流へ行くと老夫婦アシナヅチとテナヅチ(オオヤマツミの子)が泣いていた。
※ 老夫婦は、神なのか人間なのか不明。
※ 生きている人間の初登場であり、神「オオヤマツミ」が人間を生んだことを唐突に示している。
(4)夫婦には8人の娘がいたが、毎年、高志のヤマタノオロチが娘を食べていた。
※ 時間(1年という単位)が初めて示された。
※ ヤマタノオロチがいかなる生物であるのかは全く示されていない。
(5)今年もその時期になり、最後の末娘クシナダヒメも食べられてしまう、と泣いていた。
※ ヤマタノオロチは7年前に出現した、と考えることもできる。
※ 末娘の名称から、クシダノヒメは人間であることが示された。
※ したがって、神が人間を産んだことが、ここで初めて示された。
(6)スサノオは、クシナダヒメを妻として貰い受けることを条件に、ヤマタノオロチ退治を請け負った。
※ 神が人間との結婚を希望した、初めての出来事である。
(7)スサノオは、自分の姿を櫛に変えて髪に刺した。
(8)スサノオは、アシナヅチとテナヅチに強い酒を醸し、垣で8つの門を作り、それぞれに酒桶を置くように命令した。
(9)ヤマタノオロチが来て、8つの頭をそれぞれの酒桶に突っ込んで酒を飲み始めた。
(10)オロチが酔って寝てしまうと、スサノオは十拳剣でオロチを切り刻んだ。
※ ヤマタノオロチから見れば、スサノオは自分を殺害した神にすぎない。
(11)尾を切り刻んだとき、剣の刃が欠けた。
(12)剣で尾を裂くと、大刀が出てきた。
(13)スサノオは、この太刀(天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ))をアマテラスへ献上した。26 地上に住む八十神、大国主、因幡の兎の登場
(1)ところで、地上にはたくさんの神(八十神)が住んでいた。
※ これらの神の出生については不明。
(2)八十神は、因幡に住むヤガミヒメを妻にしようと出掛けた。
※ 文脈から、これらの神は1箇所に住んでいたと考えられる。
※ 八十神が、ヤガミヒメを選んだ理由は不明。
(3)八十神は、その兄弟の1人である大国主に荷物を全部持たせた。
(4)気多(けた)の岬に着くと、丸裸の兎が伏せっていた。
(5)八十神は、兎に「海水を浴び、高い山の上で風に当たると良い」と教えた。
(6)兎がその通りにすると、海水が乾くにつれて皮がひび割れ、さらに傷がひどくなった。
(7)兎が痛みに苦しんで伏せっていると、大国主が来た。
(8)兎は大国主に、次のように言った。
(ア)私は淤岐嶋にいて、こちらに渡ろうと思った。
(イ)渡る手段がないので、海の和邇(わに)に「どちらの仲間が多いか競争しよう。できるだけ仲間を集めて気多の岬まで一列に並びなさい。私がその上を走りながら数えて渡るから」と言った。
(ウ)和邇は言われた通りに一列に並び、私はその上を跳んで渡った。
(エ)岬について、地面に下りるとき「私に騙されたんだよ」と言うと、和邇は私を捕えて皮を剥いだ。
(オ)そして、この一件を八十神に話し、治療方法を教えてもらった。
(カ)八十神の言う通りにしたら、さらに悪化した。
(9)大国主は、「河口の真水で体を洗ってから、蒲の花粉の上で寝ると良い」と教えた。
※ 蒲の花粉は傷薬に良く使われた。
(10)兎が教えられた通りにすると、体は元通りに直った。
(11)兎は、後に兎神と呼ばれるようになった。
※ 兎はワニを騙した悪い動物なのに、神になった。
(12)兎は大国主に、「ヤガミヒメはあなたを婚約者に選ぶでしょう」と言った。
※ 兎は予言する能力がないので「お世辞」として考えるべきである。27 兄弟による大国主の殺害、生き返り、逃走
(1)八十神は、因幡のヤガミヒメに求婚した。
(2)しかし、ヤガミヒメは「大国主と結婚する」と言った。
(3)八十神は大国主を恨み、殺害計画を実行し、成功した。
(ア)大国主を伯岐国の手前の山麓につれて来る。
(イ)大国主に、「赤い猪がこの山にいる。我々が一斉に追い下ろすから、お前は待ち受けてそれを捕えよ」と命令する。
(ウ)大国主が山麓で待ち構えて所に、八十神たちは猪に似た大石を火で焼いて転がし落とす。
(エ)大国主は、それを捕えようとして、石に焼かれて死ぬ。
(4)大国主の母サシクニワカヒメは嘆き悲しんで高天原に上り、神産巣日神に救いを求めた。
※ 神産巣日神は隠れた存在であり、神であっても、占いよってしか意志を知ることができないものだった。
※ しかし、サキクニワカヒメは一方的にその生活場所を知っていたので、ここで古事記内部の理論は壊滅した。
(5)神産巣日神は、キサガイヒメとウムギヒメを遣わした。
(6)キサガイヒメとウムギヒメの治療で、大国主は生き返った。
※ 死んだ神は、生き返ることができるが示された。
※ 死んだ神を行き返らせる方法は、不明。
※ この一件は、先に死んだイザナミの治療をしなかったイザナギの行動に疑問を投げる。
(7)八十神は、大国主が生き返ったことを知り、再び以下の殺害計画を実行した。
(ア)大木を切り倒して楔で割れ目を作る。
(イ)その中にオオナムヂを入らせる。
(ウ)楔を引き抜いて打ち殺す。
(8)母は、大国主が挟まっている大木を見つけ、木を裂いて生き返らせた。
(9)母は、「あなたはここにいたら、八十神によって滅ぼされてしまうだろう」と言い、木国のオオヤビコの所へ行かせた。
(10)大国主は、木国のオオヤビコの所へ行った。
(11)八十神が追いかけて来て、オオヤビコに引き渡すように求めた。
(12)オオヤビコは、木の股を潜り抜けさせて大国主を逃がし「スサノオが住む黄泉国へ行け」と言った。
※ 原文は黄泉国ではなく「根国」であるが、本ページでは黄泉国で統一する。28 大国主による黄泉国の女神奪略
(1)大国主は、黄泉国に住むスサノオの家に来た。
(2)スサノオの娘スセリビメ(須勢理毘売命)が出て来た。
(3)大国主とムセリビメは、互いに一目惚れした。
(4)スセリビメは、父スサノオに「とても立派な神が来られました」と報告した。
(5)スサノオは、次のように大国主を殺害しようとしたが失敗した。
(ア)蛇がいる部屋に一晩寝させた。
(イ)スセリビメは、蛇の比礼(ひれ。スカーフの様なもの)を大国主に授け、蛇が食いつこうとしたら3回振るよう言った。
(ウ)蛇は自然と鎮まり、大国主は無事に室を出た。
(エ)翌日、スサノオは、ムカデと蜂がいる室に大国主を寝させた。
(オ)大国主は、スセリビメから授かったムカデと蜂の比礼により無事だった。
(カ)翌日、スサノオは、鳴鏑(なりかぶら)を広い野原の中に射込み、その矢を拾ってくるよう大国主に命じた。
(キ)大国主が野原に入ると、スサノオは野原に火を放った。
(ク)鼠が「穴の内側は広い、穴の入り口は狭い」と言った。
(ケ)大国主がその場を踏むと、地面に穴が空き、落ちて隠れることができた。
(コ)火が過ぎた。
(6)鼠が、スサノオが射った鳴鏑を咥えて持って来た。
(7)一方、スセリビメは大国主が死んだと思い、葬式の準備をしていた。
(8)スサノオが野原へ出ると、矢を持った大国主がいた。
(9)スサノオは大国主を家に入れ、頭の虱を取るように言ったが、それはムカデだった。
(10)スセリビメは、椋(むく)の実と赤土を大国主に授けた。
(11)大国主が木の実を噛み砕き、赤土を口に含んで吐き出すると、スサノオはムカデを噛み砕いていると勘違いし、寝入った。
(12)大国主は、この隙に逃げようと思い、次の行動をとった。
(ア)スサノオの髪を部屋の柱に結ぶ。
(イ)部屋の入口を大きな石で塞ぐ。
(ウ)スサノオの大刀と弓矢、スセリビメの琴を持ち逃げする。
(エ)スセリビメを背負って持ち逃げする。
(22)大国主が逃げ出そうとした時、琴が木に触れて鳴り響いた。
(23)その音でスサノオは驚き、部屋の柱を引き倒した。
(24)大国主は、スサノオが髪を解いている間に遠くへ逃げた。
(25)スサノオは追いかけたが、黄泉津比良坂であきらめた。
(26)スサノオは「大刀と弓矢で八十神を追い払い、お前が大国主となり、スセリビメを妻として、立派な宮殿を建てて住め。こんちくちょう!」と言った。
※大国主は、黄泉国の支配者イザナミと接触していない。
29 大国主の国作り
(1)大国主は、八十神を追い払った。
(2)大国主は、スセリビメと結婚し、出雲で国づくりを始めた。30 大国主の浮気
(1)大国主は、ヤガミヒメと浮気して子どもを作った。
(2)ヤガミヒメは、本妻スセリビメを恐れ、子どもを木の俣に刺し挟んで実家に帰った。
※女を二股にかけたのは、大国主が初めてである。
(3)大国主は、高志国のヌナカワヒメを娶るために出かけた。
※大国主は、違う女神との2度目の浮気を試みた。
(4)大国主とヌナカワヒメは、歌を詠み交わした。
※大国主は浮気神である、とも言える。
(5)妻スセリビメは嫉妬したが、次のようにして和解した。
(ア)大国主がいつものように高志国へ浮気に出かける時、スセリビメに歌を詠んだ。
(イ)スセリビメは、杯を捧げ、歌を返した。
(ウ)二神は杯を交わし、和解した。
※和解の詳細については不明。31 神産巣日神の命令
(1)大国主が出雲の美保岬にいると、海の彼方から天の羅摩船(あめのかがみのふね)に乗って、鵝の皮を衣服着た神が来た。
(2)大国主がその小さな神に名を尋ねたが答えなかった。
(3)突然、ヒキガエルが現れ「クエビコなら知っているでしょう」と言った。
(4)ビエビコに尋ねると、「神産巣日神の子の少名毘古那神である」と答えた。
※ クエビコ(久延毘古)は山田のかかしで、歩くことはできないが、天下のことは何でも知っていた。
(5)神産巣日神は、少名毘古那が自分の子であることを認めた。
※ 別天津神として登場できない神産巣日神が、ここで出現するのは理由がなく、きわめて不自然。
※ この神が、どこに立って発言しているのかも不明。
(6)神産巣日神は、大国主と一緒に国づくりをすることを少名毘古那に命令した。
※ 現在、大国主と妻は仲良く国作りをしているので、神産巣日神の意図が不明。
32 妻と国作りができなくなった大国主
(1)大国主と少名毘古那は、協力して葦原中国の国づくりを行った。
(2)国づくりの途中に、少名毘古那は常世へ行った。
※ そもそも必要なかった少名毘古那が、途中で帰った意図が不明。
※ 常世については、今後調べます!
(3)大国主は「これから私一人でどうやって国を作れば良いのだろうか」と言った。
※ 少名毘古那が来る前は、妻と国作りができていた。
(4)すると、海を照らしながら1つの神が来た。
(5)その神は「我は汝の幸魂奇魂(さきみたまくしみたま)である。私を祀れば、国作りに協力しよう」と言った。
(6)大国主が「どう祀ればよいか」と問うと、「大和国の東の山の上に祀れ」と答えた。
33 アマテラスによる地上支配構想(失敗1)
(1)高天原の支配者アマテラスは「葦原中国は私の子のアメノオシホミミが治めるべき国だ」と言った。
※ 大国主は、自分が作った国をアマテラスに侵略される危険が出てきた。
(2)アマテラスは、アメノオシホミミに天降りを命じた。
(3)アメノオシホミミは、天の浮橋に立って下界を覗いた。
(4)ホメノオシホミミは、「葦原中国は騒がしくて手に負えない」と言い、高天原に帰って来た。34 アマテラスによる地上支配構想(失敗2)
(1)アマテラスと高神産巣日神は、天の安の河の河原に八百万の神々を集めた。
※ これまで、別天津神として1度も登場していない高神産巣日神が出現した理由が、極めて不自然。
※ アマテラスと高神産巣日神を比較すると、高神産巣日神の方が高位だから、記述する順序が違う。
※ 誰が支配しようと、高神産巣神にとっては、自分の子になる。
(2)アマテラスと高神産巣日神は、どの神を葦原中国に派遣すべきか問うた。
※ 別天津神が、一般の神に意見を問うことは、古事記内部の理論的崩壊を意味する。
(3)オモイカネと八百万の神が相談し、アメノホヒを大国主神の元に派遣するのが良いという結論になった。
(4)アマテラスと高神産巣日神は、アメノホヒに大国主の元へ行くよう命じた。
(5)アメノホヒは大国主の家来になり、三年たっても高天原へ戻らなかった。35 アマテラスによる地上支配構想(失敗3)
(1)アマテラスと高神産巣日神は、再び、八百万の神に派遣する神を聞いた。
(2)八百万の神とオモヒカネが相談し、アメノワカヒコだと答えた。
(3)アマテラスと高神産巣日神は、アメノワカヒコに天之麻古弓(あめのまかこゆみ)と天之波波矢(あめのははや)と与え、中国へ派遣した。
(4)アメノワカヒコは、大国主の娘シタテルヒメと結婚し、自分が葦原中国の王になろうと考えて八年たっても高天原に戻らなかった。
※ アメノカワヒコは、アマテラスを裏切ったと解釈できる。
※ さらに、中国を支配したのち、アマテラスと対抗できると考えたことも予想される。
(5)アマテラスと高神産巣日神は、アメノワカヒコが帰って来ないので八百万の神に解決策を求めた。
(6)八百万の神は、オモイカネは雉(きぎし)の鳴女(なきめ)を遣わし、理由を聞くべきだと答えた。
(7)アマテラスと高神産巣日神は、「アメノワカヒコに葦原中ッ国に遣わしたのは、其の国の荒ぶる神どもを平定せよと言ったのに、何故八年経ても帰ってこないのかを、聞くように」と鳴女に命令した。
(8)ナキメは、アメノワカヒコの家の木にとまり理由を問うた。
(9)アメノサグメは、「この鳥は鳴き声が不吉だから射殺してしまえ」とアメノワカヒコをそそのかした。
(10)アメノワカヒコは、高神産巣日神から与えられた弓矢でナキメの胸を射抜いた。
(11)矢は、高天原の高神産巣日神のところまで飛んで行った。
(12)高神産巣日神は、矢に血が付いていたので、この矢はアメノワカヒコに与えた矢であると諸神に示た。
(13)そして、「アマノワカヒコの命に別状無く、悪い神を射た矢が飛んで来たのなら、この矢はアメノワカヒコに当たる。もし、アメノワカヒコに邪心があるのなら、この矢に当たれ」と言って、矢を下界に投げ返した。
(14)矢はアメノワカヒコの胸を射抜き、アメノワカヒコは死んだ。
(15)ナキメも高天原へ帰ってこなかった。36 アメノカワヒコの葬儀
(1)アメノワカヒコの死を嘆く、妻シタテルヒメの泣き声が天まで届いた。
(2)高天原に住むアメノワカヒコの父アマツクニタマや母は、下界に降りて泣き悲しみ喪屋をつくった。
(3)アヂシキタカヒコネが弔いに訪れた時、アヂシキタカヒコネがアメノワカヒコによく似ていたため、アメノワカヒコの父と母が「我が子は死なないで、生きていた」と言って抱きついた。
(4)アヂシキタカヒコネは、「穢らわしい死人と見間違えるな」と怒り、剣を抜いて喪屋を切り倒し、蹴り飛ばした。
(5)この喪屋が美濃国の喪山である。アヂシキタカヒコネの妹のタカヒメは、歌を詠んだ。37 アマテラスによる地上支配構想(成功)
(1)アマテラスは、八百万の神にどの神を派遣すべきか聞いた。
(2)オモイカネと八百万の神は、イツノオハバリか、その子のタケミカヅチを遣わすべきと答えた。
(3)また、アメノオハバリはタケミカヅチを遣わすべきと答えた。
(4)アマテラスは、タケミカヅチにアメノトリブネを副えて葦原中国に遣わした。
(5)タケミカヅチとアメノトリフネは、出雲国伊那佐の小濱に降りた。
(6)2神は、十掬剣を抜いて逆さまに立て、その切先にあぐらをかいて座り、大国主に「この国は我が御子が治めるべきであるとアマテラス大御神は仰せである。そなたの意向はどうか」と訊ねた。
(7)大国主は、自分が答える前に息子の事代主に訊ねるようにと言った。
(8)事代主は「承知した」と答え、船を踏み傾け、逆手を打って青柴垣に化え、その中に隠れた。
(9)2神は、大国主に「コトシロヌシは承知したが、他に意見を言う子はいるか」と訊ねた。
(10)大国主は、もう一人の息子のタケミナカタに訊くよう言った。
(11)タケミナカタがやって来て、「ここでヒソヒソ話をしているのは誰だ。それならば力競べをしようではないか」と言った。
(12)タケミナカタがタケミカヅチの手を掴むと、タケミカヅチは手を「つらら」から「剣」へ変化させた。
(13)タケミカヅチがタケミナカタの手を掴むと、葦の若葉を摘むように握りつぶして投げつけた。
(14)タケミナカタは逃げ出した。
(15)タケミカヅチはタケミナカタを追いかけ、科野国の州羽の海(諏訪湖)まで追いつめた。
(16)タケミナカタは、「この地から出ないし、大国主やコトシロヌシが言った通りだ。葦原の国は神子に奉るから殺さないでくれ」と言った。
(17)タケミカヅチは出雲に戻り、大国主に再度訊ねた。
(18)大国主は「二人の息子が天津神に従うというのであれば、私も逆らわずにこの国を天津神に差し上げる。その代わり、私の住む所として、天の御子が住むのと同じくらい大きな宮殿を建ててほしい。私の百八十神たちは、事代主に従って天津神に背かないだろう」と言った。
(19)出雲国の多藝志(たぎし)の小濱に宮殿を建て、たくさんの料理を奉った。
※ この主語は不明なので、後日調べます!
(20)タケミカヅチは葦原中国の平定をなし終え、高天原に復命した。38 ニニギの天降り
(1)アマテラスと高御産巣日神※は、アマテラスの子アメノオシホミミに、支配権を奪った葦原中国の統治するため「天降り」を命令した。
※ 本書は、何の理由もなく高御産巣日神(性別なし)を「高木神」に変えているので、本ページでは混乱を避けるために「高御産巣日神」として記述する。
※ アメノオシホミミは、アマテラスが単独で作った子か、誰かと性交して産んだか子か不明。
(2)アメノオシホミミは「高御産巣日神の娘ヨロヅハタトヨアキツシヒメとの間に子ニニギが生まれたので、天下りはニニギに変えましょう」と言った。
(3)アマテラスと高御産巣日神は、天降りをニニギに命じた。
(4)この時、天の八衢(やちまた)に、高天原から葦原中国まで照らす神がいた。
(5)マテラスと高御産巣日神は、その神の名を尋ねてくることをアメノウズメに命令した。
(6)その神はサルタヒコで、天津神の御子が天降りすると聞き、先導しようと中国から迎えに来た国津神だった。
※ 国津神と天津神の分類基準についは不明だが、これまでの文脈からは、誕生地が基準であろう。
(7)ニニギは、五伴緒(いつのおとも。アメノコヤネ、フトダマ、アメノウズメ、イシコリドメ、タマノオヤ)を従え、三種の神器(八尺瓊勾玉、八咫鏡、草薙剣)を持ち、さらに、常世の3神(オモイカネ、タヂカラオ、アメノイワトワケ)を従えた。
※ 空間は、高天原、葦原中国、黄泉国、常世の4つに区分された。
(8)アマテラスは「鏡を私(アマテラス)の御魂と思い、私を拝むように祀りなさい。また、オモイカネは、祭祀を取り扱い神宮の政務を行いなさい」と言った。
(10)ニニギは、日向国の高千穂の久士布流多気(くじふるたけ)に降りた。
(11)アメノオシヒとアマツクメは、武装して先導した。
※ アメノオシヒは大伴連らの祖神。
※ アマツクメは久米直らの祖神。
(12)ニニギは「この地は韓国(からくに)に向かい、笠沙(かささ)の岬まで道が真っ直ぐで、朝日がよく射し、夕日のよく照る国(土地)だ」と言い、宮殿を建て住んだ。
39 サルタヒコの小話
(1)ニニギは「サルタヒコを送り届け、サルタヒコの名を負って仕えよ」とアメノウズメに命令した。
注:サルタヒコは、天降りのとき光を持ってきた神
(2)アメノウズメは、サルタヒコを伊勢国の五十鈴川へ送り、自分の名前を猿女君に変えた。
(3)サルタヒコは、阿耶訶(あざか)で漁をしている時、比良夫貝に手を挟まれて溺れた。
(4)サルタヒコが底に沈んでいる時の名はソコドクミタマ、泡粒が立ち上る時の名はツブタツミタマ、その泡が裂ける時の名はアワサクミタマと言う。40 アメノウズメの小話
(1)アメノウズメは日向国に帰ると、あらゆる魚を集めてニニギに仕えるかと聞いた。
(2)多くの魚が仕えると答えたが、ナマコだけは答えなかった。
(3)アメノウズメは「この口は答えない口か」と言い、小刀で口を裂いた。
(4)それが理由で、今でもナマコの口は裂けている。41 天皇が短命になった理由
(1)ニニギは、笠沙の岬で美しい娘カムアタツヒメに逢った。
(2)ニニギが求婚すると、娘は「父に聞いて下さい」と言った。
(3)ニニギが娘の父に尋ねると、父のオオヤマツミは喜び、姉のイワナガヒメも同時に差し出した。
(4)しかし、イワナガヒメはとても醜かったので、ニニギはイワナガヒメを送り返し、コノハナノサクヤヒメとだけ結婚した。
※ ニニギは面食いであることが示された。
(5)オオヤマツミは「私が娘二人を一緒に差し上げたのは、イワナガヒメを妻にすればニニギの命は岩のように永遠となり、コノハナノサクヤビメを妻にすれば木の花が咲くように繁栄するだろうと誓約(うけひ)をしたからである。コノハナノサクヤビメだけと結婚したので、ニニギの命は木の花のように短いだろう」と言った。
(6)面食いが原因で、現在でも天皇の寿命は短かくなった。
※ 現在、ニニギは天皇ではない。
42 ニニギの疑惑を解いたコノハナノサクヤビメの出産
(1)ニニギの妻コノハナノサクヤビメは、一夜の性交で身篭った。
(2)ニニギは「たった一夜で身篭る筈はない。それは国津神の子だろう」と疑った。
(3)コノハナノサクヤビメは「この子が国津神の子なら、産む時に無事ではないでしょう。天津神の子なら、無事でしょう」と誓約をした。
(4)コノハナノサクヤビメは、戸のない御殿を建ててその中に入り、産む時になって御殿に火をつけた。
(5)コノハナノサクヤビメは、無事に次の3つの子を産んだ。
産んだ時間 名 前 備 考 火が盛んに燃えている時 ホデリ ・海幸彦(漁師)
・後日、山幸彦に仕える火が弱くなった時 ホスセリ ・特になし 火が消えた時 ホオリ ・山幸彦(猟師)
・海神の娘と結婚する
43 山幸彦と海幸彦
(1)ニニギの第1子ホデリは、海幸彦(漁師)として大小の魚を採っていた。
(2)ニニギの第3子ホオリは、山幸彦(猟師)として大小の獣を捕っていた。
(3)山幸彦は、「それぞれの道具を交換ししよう」と兄ホデリに提案した。
(4)ホデリはしぶったが、少しの間だけ交換することにした。
(5)山幸彦は、魚を釣ろうとしたが1匹も釣れず、釣針を海の中になくした。
(6)ホデリも獲物を捕えられず、「山の幸も海の幸も、自分の道具でないと得られない」と言い、自分の道具を返してもらおうとした。
(7)山幸彦が「釣針をなくした」と告げると、ホデリは弟を責めた。
(8)山幸彦は、自分の剣から1000の釣針を作った。
(9)しかし、兄ホデリは「あの釣針でなければだめだ」と受け取らなかった。
(10)山幸彦が海辺で泣き悲しんでいると、塩椎神(しおつちのかみ。潮流の神)が来た。
(11)塩椎神は、小船を作ってホオリを乗せ、ワタツミ神(海神)の宮殿へ行くように言った。
(12)宮殿で待っていると、海神の娘トヨタマビメの侍女が水を汲みに外に出て来た。
(13)山幸彦が水を求めたので、侍女は器に水を入れて差し出した。
(14)山幸彦は水を飲まず、首にかけていた玉を口に含み、器に吐き入れた。
(15)玉が器にくっついて離れなくなったので、侍女はそれをトヨタマビメに見せ、事情を話した。
(16)外に出たトヨタマビメは、山幸彦を見て一目惚れした。
(17)父である海神も外に出て、山幸彦であることが分ると、娘と結婚させた。
(18)山幸彦は、海神のところで楽しい生活を始めた。
(19)三年後、山幸彦はここに来た理由を思い出し、深い溜息をついた。
(20)海神が溜息の理由を聞くと、山幸彦はここに来た事情を話した。
(21)海神は魚たちを呼び集め、釣針を持っているものはいなきかきいた。
(22)その結果、赤鯛の喉に引っかかっていることがわかった。
(23)海神は、釣針と鹽盈珠(しおみちのたま)と鹽乾珠(しおひのたま)を山幸彦に差し出した。
(24)そして、「この釣針を兄に返す時、『この針は、憂鬱になる針、心が落ち着かなくなる針、貧しくなる針、愚かになる針』と言いながら、手を後に回して渡しなさい。そして、兄が高い土地に田を作ったらあなたは低い土地に、兄が低い土地なら高い土地に作りなさい。さらに、兄が攻めて来たら鹽盈珠で溺れさせ、苦しんで許しを請うてきたら鹽乾珠で命を助けなさい」と言った。
(25)海神は、鮫に山幸彦を乗せて送った。
※ その鮫は「佐比持神(さいもちのかみ)」という。
(26)山幸彦は言われた通りに釣針を返し、言われた通りに田を作った。
※ 山幸彦も海幸彦も、農民のようになった。
(27)海神が水を掌っているので、兄の田は水不足で貧しくなった。
(28)兄が攻めて来ると、山幸彦は塩盈珠を出して溺れさせ、兄が許しを請うと塩乾珠を出して救った。
(28)これが繰り返されたので、兄は弟に「昼夜仕えてお守りする」と言った。
※ 兄(海幸彦)は隼人の祖である。44 山幸彦とヨトタマビメの別離
(1)ところで、トヨタマビメは海宮で懐妊した。
※ 文脈から、懐妊した時期が全く特定できない。
(2)しかし、天神の子を海中で生むわけにはいかないので、陸に上がった。
(3)浜辺に産屋を作ろうとしたが、茅草がわりの鵜の羽を葺き終らないうちに産気づいた。
(4)このため、産まれた子どもは「ウガヤフキアエズ(鵜茅葺き合えず)」と名付けられた。
(5)この出産にあたって、トヨタマビメは、「他国の者は子を産む時には本来の姿になる。私も本来の姿で産もうと思うので、絶対に産屋の中を見ないように」と山幸彦に言った。
(6)しかし、山幸彦は産屋の中を覗いた。
(7)トヨタマビメは、姿を八尋和邇に変えて這い回っていた。
(8)それを見た山幸彦は逃げ出した。
(9)トヨタマビメは、覗かれたことを恥ずかしく思い、産まれた子を置いて海に帰った。
(10)トヨタマビメは、自分の代わりに妹のタマヨリビメ(玉依毘売)を遣わした。
(11)また、トヨタマビメはホオリが覗いたことを恨んだが、やはり恋しくて、妹を通してホオリと歌を詠み交わした。
45 ウガヤフキアエズの子孫
(1)ウガヤフキアエズは、育ての親タマヨリビメと結婚した。
(2)タマヨリビメは、次の4つの子を産んだ。
産まれた順序 名 前 備 考 1 イツセ(五瀬命) ・後に、戦いの途中で死んだ。 2 イナヒ(稲氷命) ・母のいる海原へ行った。 3 ミケヌ(御毛沼命) ・常世へ渡った。 4 ワカミケヌ(若御毛沼命)
別名:カムヤマトイワレビコ・後に神武天皇になり、原因不明で死亡した。
※原文は、以降しばらくワカミケヌをカムヤマトイワレビコと記述しているが、神武天皇で統一する。+++++
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+続きは、3中巻(なかつまき)と下巻(しもつまき)