クロッキー F 美術館


第2章 本物そっくりのデッサン
デッサンって何?

1 素描としてのデッサン
 デッサンという言葉はフランスで生まれました。その明確な定義はありませんが、その日本語訳は『素描』です。素描は、たくさんの色を使わず、単色(あるいは少ない色数)で、本物そっくりに描くことです。これ以上の詳しい定義は不毛な議論を招くだけです。なお、クロッキーの定義も同じように不明瞭です。別ページ『クロッキーとは、Fって何?』もご覧下さい。

2 デッサンとクロッキー(フランス語)の違い
 デッサンとクロッキーの大きな違いの1つは、時間です。デッサンはどれだけ長くても良いのですが、クロッキーは短い時間でなければいけません。ここで注意したいのは、クロッキーはデッサンのための練習、デッサンは完成した絵画(タブロー)のための練習、ではないことです。フランス語『練習』の日本語訳は『エチュード』であり、「クロッキー」でも「デッサン」でもありません。

3 日本におけるデッサン
 日本におけるデッサンの目的は、(1)絵画の基礎訓練、(2)美術学校の入学試験科目、(3)大作の下絵、などです。

4 絵画の基礎訓練としてのデッサン
 物体を正確に描く基礎訓練としてのデッサンは、絵画を志すものにとって不可欠です。立方体、直方体、円柱、円錐、球など単純な立体を平面に描く技術は、すでにいくつかの方法が確立されています。三点透視図法、明暗の調子、空気遠近法などの技法は、義務教育を終えている人なら独学できます。自分で専門の書物を購入し、集中的に学習すれば1年である程度修得できるでしょう。画材は鉛筆と画用紙を使った「鉛筆デッサン」が中心になります。人物クロッキーをしたいなら、人物や顔に関する技法書も同じように購入し、基礎技術として独学することができます。

5 美術学校入試のためのデッサン
 美術学校の入学試験の1としての石膏デッサンは、2つの価値を持っています。1つは予備校や絵画教室における商業的価値、もう1つは入学試験における客観性です。前者は説明しなくて良いと思うので、後者について少し述べます。

 デッサンの基礎技術は、いわゆる「芸術的センス」や主観的な感覚とはほとんど無縁で、誰でも同じように修得できるものです。この客観性は、卒業することよりも入学することの方が厳しい日本の教育制度、その入学試験に適しているのです。試験官である先生達も同じ石膏像に繰り返し描いたり見たりしているので、微妙な違いを指摘できます。なお、画材は木炭を使うことが多いので、石膏デッサン=「木炭デッサン」の意味に使う場合もあります。これは入学試験を受けない人は必要ない技術なので、他の基礎訓練に時間を使うことをお勧めします。

6 下絵としてのデッサン
 デッサンを下絵(フランス語で『エスキース』)として考えるなら、デッサンはクロッキーと同系列になります。すなわち、『クロッキーは短時間の下絵』、『デッサンは長時間の下絵』です。ただし、私はデッサンもクロッキーも下絵ではない、独立した1つの作品になることができる、と考えています。何を作品とするかについては、別ページ『クロッキーが作品になる時』をご覧下さい。

7 関連ページ
 ・ 写実を進化させる
 ・ クロッキーとは、Fって何?
 ・ クロッキーが作品になる時
 ・ デッサンに関するnoteクロッキーF美術館コレクションvol.2006 b 2

2010年2月7日公開

↑ TOP


Copyright(c) 2010 All rights reserved.