このページは中学校2年理科『化学』/takaの授業記録2003です

 実験3 鉄を熱する(酸化)
                          2004 1 26(月)
                          第1理科室
  鉄を熱するとどうなるか?
 などと質問されてもピンと来ない。が、家庭で使われているスチールたわし(写真下、安いものは鉄100%)を使って実験してみよう。


(上:スチールウールを加熱する)

<班で準備するもの>
・ ガスバーナー
・ スチールウール
・ 燃えかす入れ
・ ピンセット(1人1本)
・ 薬包紙
・ 古 紙
・ 電子てんびん
・ セロハンテープ
<教師が準備するもの>
・ 同 左
・ 酸素ボンベ
・ 窒素ボンベ

  → 2000年度の実践『実験1スチールウールを燃やす(2年)』も参考にして下さい


 <授業の流れ>
 1 導入から予想・実験手順まで

  「これは何ですか?」
  「家で使っている人もいますね。」
  「そうです、台所にあるタワシです。ところで、これは何でできているか知っていますか。」

  「よく知っていますね。鉄です。さて、これから、これを加熱するとどうなるでしょう。その
  ままでは危険なので、ちょっとだけにして、良く捻って、ぽんぽん叩き、粉が出ないようにし
  てから加熱します。いろいろな変化がありますが、まず皆さんに予想して欲しいことは、重さ
  です。軽くなる、変わらない、重くなる、の3つのうち、どれかです。じゃあ、いきなり質問
  します。予想して下さい。」
  「軽くなると思う人?」
  「変わらないと思う人?」
  「重くなると思う人?」
 「なるほどね。じゃあ、実験手順の説明をかねて、実際に加熱してみます。まず、スチールウールを少しだけとります。どれだけ使っても構いませんが、これぐらいの量が1番変化します。多すぎると反応せずに残るし、少な過ぎると変化があったときに分からないからです。そして、少しだけちぎったスチールールをよく捻ります。捻っておくと、火の中でぱちぱちと飛び散らないからです。また、加熱する前に、粉になってしまったものを叩き落しておくことも大切です。で、こうしてできたものをピンセットで挟んで、ガスバーナーで加熱します。あまり強い炎だと、一気に吹き飛んでしまうので気をつけて下さい。炎の中に入れますよ。ほら、赤くなってきましたね。・・・もう、これで反応はおしまいかな。・・・と思ったら間違いです。一度、ガスバーナーの外に出してみましょう。そして、息を吹き掛けてみましょう。」

(写真右:加熱したスチールウールに息を吹き掛ける)

 
  「どう? 赤くなっているのが分かりますか。どうして、赤くなったのか分かりますか?」
  「そうですね。空気を送ったからですが、もっと正確に言うと空気中の何ですか?」

「そうです。酸素です。よく分かりましたね。ちょっとここで、本当に酸素かどうか確かめてみましょう。2つのボンベを用意しました。これと、これ・・・何と書いてあるか読めますか?」

「そう、Oと書いてあるのが酸素。Nと書いてあるのが・・・窒素です。」

(写真右:最近は便利になりました)


  
「じゃあ、確かめてみまししょう。スチールウールを加熱して、取り出して、酸素ボンベを・・・しゅっ、おっと、危ない! 鉄が溶けて飛び散りましたね。床も溶けています。溶けて臭いですね・・・皆さんの息でも同じ結果になるので、気をつけて下さい。友達の方に向かって吹いては絶対にいけません。溶けた鉄の温度は2000度以上なので、骨も溶けます。皮膚はイチコロです。絶対にいけません。鉄が皮膚に埋まります。それに第1、飛んだぶんだけ重さが減ってしまうので実験失敗です。さて、今度は、もう一度加熱してから、同じように窒素をかけてみます。・・・しゅっ、しゅっ、しゅっ、しゅっ、・・・ね、変化ありませんね。じゃあ、酸素をしゅっ・・・おっと、死ぬところでした。とにかく、息を吹き掛けるときは下を向いて、友達にも自分の足にもかからないようにして下さい。

(上:ストローの先から酸素を噴出すると、
  その部分が激しく反応して穴があいた。)

 
  (上:床も溶けた。→酸素ボンベを使って激しく酸化させると、鉄は液化し飛び散ります。)
 
  (上:溶けて液化したスチールウールは純粋な鉄になったけれど、それは失敗です。)
   もじゃもじゃの黒い毛虫のような状態のものが『酸化鉄(黒錆)』、本日の正解です。


  「ということで、鉄と酸素をしっかり反応させて下さい。これで、重くなるか軽くなるか、
  それとも変わらないか、答えが分かったと思いますが、重さの変化は、自分で測って下さ
  い。電子てんびんを使えば1発です。」

  「しかし、これでは簡単すぎるので、今日はグラフを書いてもらいます。なお、グラフが書けた
  人には合格印が出るので張り切って下さい。ちゃんと説明を聞いていれば、全員もらえます。前
  のクラスは30人しかもらえませんでしたが、それは聞いていなかった人が8人いただけの話な
  ので、このクラスは全員もらえると思います。」

  「グラフを書くためには、初めの重さをいろいろにしなければなりませんから、皆さんの班にあ
  げたスチールウール1個をいろいろな重さに分けます。つまり、この班は4人なので、半分に分
  けて、また半分に分けて、同じ重さにしては駄目。4人で相談して、ある人は小さいもの、ある
  人は大きいもの、ある人は中間のもの・・・こんな感じですね・・・というように重さを変えて
  下さい。4人の班なら4つの重さになるので、グラフに4つの点が書けます。」


  (写真上:この班は、1つのたわしを7つに分けた。偉い!)

  「じゃあ、もう1度見せますよ。いろいろな重さに分けたら、飛び散らないように捩って、そし
  て、ぽんぽんぽんと余分な粉をとって加熱・・・、じゃなかった。その前の重さを測らないと駄
  目ですね。測った重さは、黒板に発表して下さい。もちろん、加熱後の重さもお願いします。」

 「なお、加熱後すぐに電子てんびんに乗せると、皿が溶けてしまうので十分に冷まして下さい。さらに安全にするため、電子てんびんの皿の上に薬包紙を1枚。・・・ほら、こうして加熱したものをすぐに載せると、焦げました。みなさんもそうですが、電子てんびんも火傷をしないように十分注意して下さい。では、始め!」

 2 生徒実験

 とにかく安全に注意するように呼びかけながら机間巡視します。
 
  (上:黒板に発表された『はじめ』の重さと『加熱後』の重さ)

  (下:他のクラスの場合)
 

 (左:磁石を使って調べる)

 3 データのグラフ化
  「はいはいはいはい、皆さんよく聞いて下さいよ。今からグラフの書き方の説明をしま
  す。A君、ガスバーナーを消して下さい。Bさん、膝に手をおいて・・・他の人も黒板
  を見て下さい。・・・準備ができたようですね。初めに、グラフの軸に名前を書きます。
  横軸が『はじめの重さ・かっこグラムかっこ閉じる』、縦軸が『加熱後の重さ・かっこ
  グラムかっこ閉じる』です。もう一度言いますよ。(前と同じ)これが書いていない人
  は、もうここで失格です。はい、手を挙げて下さい。書けた人?」
  「はい、全員・・・書けましたね。」

「さあ、ここからが本番です。皆さんのデータをグラフに書きます。例えば、黒板の1番上のCさんのデータを書くと、初めが1.6gで、加熱後が2.1gだから、ここ。分かった?もう1度説明しますよ。(前と同じ)良いですね。同じようにして、全員の結果を書きます。4人の班なら4つ、3人の班なら3つ書けます。それでは、少ないという人は、黒板のデータを書いて下さい。」

「で、これに線を書くのですが折れ線グラフにしたら駄目。合格印はありません。定規で、1本の直線だけを書いて下さい。1本の直線ですよ。」


  「その直線は、どこを通るかと言うと、まず、原点、ゼロ・ゼロを通るか確認しなけれ
  ばなりませんね。質問します。原点を通ると思う人?」
  「通らないと思う人?」
  「えっ、良く考えて下さい。初めの重さが0のとき、加熱しても0だから、当然・・・
  原点を通りますね。じゃあ、皆さん、自分のプリントの原点をぐりぐりっとやって下さ
  い。ここは絶対に通ります。それで、後の点をどうするかと言うと、全ての点を通らな
  い平均の直線にします。書いてみましょう。点が4つあった場合、下に2つ、上に2つ。
  分かったかな?・・・もう1度説明します。(上の写真参照)6つ点がある場合は、下
  に3つ、上に3つ。こんな感じの直線で、全ての点を通らない平均の直線ができました。
  もちろん、正確な実験をした班は、初めから直線になっています。比例です。では、書
  いて!・・・チャイムが鳴る3分前になったら、一気に点検します。」

 4 本時のまとめ
  (空気中で加熱する、化合・酸化)→ 酸化鉄
  鉄+ 酸素 → 酸化鉄
 2Fe+ O
(加熱する、化合・酸化)→ FeO


 ※ 酸化鉄は、酸素が化合したぶんだけ重くなった




 ◎ D君の学習プリント




 <評価基準>
 1 自然事象への関心・意欲・態度
  B 学習プリントに、鉄と酸化鉄を添付することができる

 2 科学的な思考
  A 鉄と酸素が化合する割り合いを、定量的に捉えることができる
  B 鉄を加熱すると重くなるのは、酸素と化合するからであることを推測できる

 3 実験・観察の技能・表現
  A 鉄と化合した酸素の量を、グラフにして表わすことができる
  A 磁石や手触りなど、さまざな方法で鉄を酸化鉄を比較することができる
  B スチールウールを加熱して酸化鉄を作ることができる
  C 安全に実験を行うことができる

 4 自然事象についての知識・理解
  B 鉄の酸化について、正しく理解することができる


  授業を終えて
  今日のまとめは教科書のように『鉄+酸素→酸化鉄』とせず、次のように工夫した。

   鉄(空気中で加熱する)→ 酸化鉄
     1 空気中で加熱することは、
酸素と化合することを意味する
     2 だから上の式は、次のようになる

   鉄+ 酸素(化合)→ 酸化鉄

  ここまでは良かったが、化学反応式については迷いに迷った。鉄と酸素の反応は、そのときの
  条件によって変わるので一筋縄では教えられない。余談になるが、口紅やほお紅など微妙な化
  粧品の色は、多種多様な酸化鉄の調合によって作られている。インターネットで検索すれば、
  嘘でないことがすぐに分かる。

  いろいろ調べた結果、酸化鉄の化学式は3つに絞った。
  FeO(酸化鉄)
  Fe(酸化鉄、赤錆)
  Fe(酸化鉄、黒錆)

  理科便覧に合わせると、空気中では『黒錆』になるので、反応式は次の通り。
  4Fe+ 3O→ 2Fe (げっ、死にそう!)

  なので、もういっそのこと酸素が不足している状態での反応、
  2Fe+ O→ 2FeO 
  にしてしまえば、少しは楽かも知れない。が、結果としてクラスの状況によって、教える化学
  式をかえた。学年末テスト終了後に、それぞれのクラスについて、より良い指導方法が見つか
  れば良い。最終目標は、化学反応式について、深い理解が得られることだから焦ってはいけな
  い。いくつかの方法を試して、最善を探そう。

  誤解を招かないように補足しておくが、テストは生徒の定着度を測るためのものだけではない。
  テストは教師の指導方法をチェックするものでもある。実際、よりよい授業を行う教師の学級
  の方が定着度が高い。当たり前である。また、優れた教師は学級に合わせて指導方法を微調整
  する。当たり前である。画一的な、機械のようなプログラムされた最高の授業方法があるなら
  人間の教師は必要ない。コンピューターで十分である。それを応用すれば、家庭にも最高の母
  親・父親ロボットを配置したほうが良いことになる。(そんなことは絶対ダメ!) 学級に合
  わせて、その日の生徒の発言や、実験データに合わせて指導内容を変更できなければ、プロの
  教師とはいえない。


  → 2000年度の実践『実験1スチールウールを燃やす(2年)』も参考にして下さい

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